小児の泌尿器の病気
概要
小児の泌尿器科疾患には以下のようなものがあり、先天性(生まれつきの)疾患が多いのが特徴です。近年、このような先天性疾患は超音波検査など診断技術の進歩や普及によって乳児期、新生児期、そして胎児期にと、より早期に発見されるようになっています。そしてこの中には、成長に伴い自然治癒する疾患が比較的多いことも分かってきました。また、手術が必要な場合でも疾患によっては内視鏡を利用した低侵襲(負担の少ない)な治療が小児においても可能となっています。
小児泌尿器科疾患
- 上部尿路疾患
水腎症、膀胱尿管逆流、腎腫瘍(ウィルムス腫瘍など)、多嚢胞性異形成腎、腎結石、巨大尿管症、重複腎盂尿管、異所開口尿管、尿管瘤 - 下部尿路疾患
尿道下裂、夜尿症、神経因性膀胱、後部尿道弁、総排泄腔奇形、総排泄腔外反症、膀胱外反症、膀胱腫瘍、過活動膀胱、尿道上裂、前部尿道弁、尿道脱、尿道外傷 - 生殖器疾患
停留精巣、移動性精巣、精巣腫瘍、精索静脈瘤、精巣捻転症、二分陰嚢、埋没陰茎、陰茎腹面屈曲、陰茎回転症、包茎、性分化疾患(先天性副腎皮質過形成、混合性性腺異形成など) - 小児腎移植
代表的な疾患
代表的な疾患をご紹介します。
(1) 閉塞性尿路疾患(へいそくせいにょうろしっかん):先天性水腎症(せんてんせいすいじんしょう)、巨大尿管症(きょだいにょうかんしょう)、後部尿道弁(こうぶにょうどうべん)(図1)
尿が産生され体外に排出されるまでにかかわる尿路:腎臓(じんぞう)、尿管(にょうかん)、膀胱(ぼうこう)、尿道(にょうどう)に狭い部位を伴う病態を閉塞性尿路疾患といいます。小児における狭窄病変の好発部位は腎盂尿管移行部(じんうにょうかんいこうぶ)、尿管膀胱移行部(にょうかんぼうこういこうぶ)、後部尿道(こうぶにょうどう:尿道の膀胱に近い部位)で、それぞれ先天性水腎症、巨大尿管症、後部尿道弁と呼びます。いずれも尿路感染症や腎障害の原因となります。特に、後部尿道弁は1か所の病変で両側腎と膀胱にも影響を与えるため、発見時にはすでに腎不全となっていることもあり早急な治療が必要となります。一方、先天性水腎症や巨大尿管症は腎機能が正常で成長に伴い自然治癒するお子さんがいることも分かってきました。そのため定期的に検査を行い、もし腎障害の徴候が出てきた場合、または腹痛などの症状が出た場合にその時点で手術をする、という方針が一般的となっています。
(2) 膀胱尿管逆流(ぼうこうにょうかんぎゃくりゅう)(図2)
一旦尿管から膀胱へとたどり着いた尿は、通常は決して尿管・腎盂へ逆流することはありません。様々な原因で膀胱内の尿が尿管・腎盂へ逆流する現象を膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux:VUR)といいます。VURがあると腎盂腎炎(じんうじんえん)という最も重篤な尿路感染症を発症する危険性が高くなり、腎盂腎炎を繰り返すと腎障害を引き起こします。多くは先天的な尿管膀胱移行部の構造の異常(原発性VUR)によりますが、尿道の閉塞疾患により排尿時に膀胱内が高圧状態となるような場合にも生じます(続発性VUR)。まず、膀胱・尿道造影検査とアイソトープ検査で逆流症の原因、程度、腎障害の有無をしっかり把握することが重要です。続発性VURに関しては、まず高圧膀胱となる原因を解除するよう治療を行います。原発性VURの場合は、成長に伴い自然治癒することがあるため、尿路感染症の予防をしつつ定期的に検査して経過観察を行います。すでに重篤な腎障害が存在したり、尿路感染症を繰り返したり、自然治癒が認められない場合には手術が必要となります。手術は、逆流しないように膀胱と尿管を縫い変える手術が一般的ですが、最近では膀胱鏡(ぼうこうきょう)を使って尿管膀胱移行部にDeflux®(デフラックス)という膨隆剤を注入する治療も行われるようになっています。
(3) 停留精巣(ていりゅうせいそう)(図3)
男児の精巣は胎生期(たいせいき)にお腹の中に発生します。精巣は出生するまでに下腹部、鼠径部(そけいぶ:足の付け根)を通って陰嚢内に下降してきます。出生時に精巣が陰嚢内へ下降していない状態を停留精巣といい、男児の約3%にみられます。出生6か月までは自然下降が期待できる一方、そのまま長く放置してしまうと将来の不妊症(ふにんしょう)、悪性腫瘍の発生などの問題が生じます。現在では自然下降がなければ生後6か月から1歳前後に鼠径部を切開して精巣を陰嚢内に固定する手術を行うのが一般的です。精巣がまだお腹の中の深い場所に留まっているようなタイプのお子さんには腹腔鏡(ふくくうきょう)を用いた手術が行われます。
(4) 神経因性膀胱
二分脊椎症(にぶんせきついしょう)など脊髄(せきずい)の神経障害により膀胱の機能障害をきたす疾患です。「排尿できない」、「尿が漏れやすい」などの症状だけでなく、膀胱内が高圧状態となって両側の腎障害や重篤な尿路感染症を引き起こすことが一番の問題です。まず、尿検査、膀胱造影検査、腹部超音波検査、膀胱機能検査などにより病状をよく把握することが重要です。病状に合わせて膀胱の伸展性を改善させる(膀胱をやわらかくして膀胱内の圧力を下げる)薬物療法、定期的な自己導尿(1日数回、尿道から細いチューブを入れて尿を出す方法)、膀胱拡大術(腸の一部を利用して膀胱を大きくやわらかくする手術)や尿禁制手術(にょうきんせいしゅじゅつ:膀胱の出口の抵抗を高め、尿を漏れづらくする手術)などが行われます。
(5) 尿道下裂(にょうどうかれつ)(図4)
尿道下裂は、尿道口(尿の出口)が亀頭の先端ではなく陰茎の根元の方への位置異常を伴う状態です。通常、包皮(ほうひ)の分布異常と陰茎(いんけい)の屈曲もみられます。尿が下方向へ出てしまうため立位排尿が困難となり、勃起時の陰茎屈曲により将来の性交渉の障害が生じます。これは自然治癒が見込めないため生後6か月から1.5歳頃に手術が必要となります。手術は、陰茎本体と包皮を一度しっかり分離してまず陰茎の屈曲を解消します。その後、余裕のある包皮部分を利用して不足している尿道を形成し、尿道口を亀頭部に作ります。施設によっては手術を2回に分けて行っているようですが、当院では1回での治癒を目指します。まだ難易度の高い手術で、尿道が狭くなったり、尿道の途中と皮膚に交通ができたり、後に追加手術が必要となることもあります。
(6) 性分化疾患(せいぶんかしっかん)
先天的な副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンの合成障害や染色体異常(せんしょくたいいじょう)に伴って外性器や内性器が未熟な疾患です。ホルモンのバランスを整えるための内分泌療法(ないぶんぴつりょうほう)だけではなく、外性器の形成手術が必要となることがあります。男児としての外性器の形成手術はほぼ尿道下裂の手術に準じます。女児の形成手術は肥大化した陰核(いんかく)を短縮化し、膣の形成が行われます。最近ではtotal (partial) urogenital mobilization法という手術法が開発され、手術後の膀胱機能障害や膣狭窄(ちつきょうさく:膣が狭くなること)などの合併症が少なくなりました。当院でも良好な治療成績が得られています。
(7) 夜尿症
なかなか"おねしょ"が治らないお子さんも珍しくはありません。夜尿症は毎年15%のお子さんが自然治癒するとされていますが、学童期になると宿泊行事などが始まり社会的な問題を生じることがあります。8歳以降は積極的な治療対象で、夜間に濡れると鳴るアラームを装着するアラーム療法や夜間の尿量を減少させる薬物療法などが行われています。通常の夜尿症とは異なる、膀胱や尿道の疾患が潜在していることがあり、これらをしっかり診断することも重要です。
その他、小児では比較的まれですが腎、尿路、精巣の悪性腫瘍に対する治療や小児腎不全に対する腎移植治療も小児泌尿器科で担当します。特に、小児期の腎不全治療としては身体的、社会的成長のうえでも腎移植は現在の医療では最も適した治療です。
慶應義塾大学病院での取り組み
当院泌尿器科では小児泌尿器科疾患を専門に扱う診療グループが存在し、毎週水曜日と金曜日の午後に「小児泌尿器科外来」を開設しています。最新の医学的根拠に基づいて"疾患の病態、治療方法、長期的見通し"などをご家族の方にも分かりやすく説明し、十分納得のうえで診療を進めていきます。また、ホルモン機能や消化管などいろいろな他の臓器にも関連する複雑な病態を持つお子さんや、自己導尿など自宅での管理が必要なお子さんに関しては、小児科・小児外科などの各専門医や専門看護師などとチームを組織し、より総合的な医療の提供に努めています。お気軽にご相談ください。
文責:
泌尿器科
最終更新日:2022年10月13日