母乳栄養
はじめに
母乳で赤ちゃんを育てたいと思っているお母さんはたくさんいらっしゃいますね。でも「思うようにおっぱいを飲んでくれない」と悩んでおられる方や、「おっぱいばかりで、離乳食がなかなか進まない」と逆の悩みの方もおられると思います。粉ミルクやベビーフードのなかった江戸時代などは、母乳を飲めるかどうかは赤ちゃんの命を左右することでしたし、子どもたちは3歳頃までは母乳が栄養の中心でした。昔も今も、乳幼児を育てている女性、家族にとって、母乳栄養についての悩みは尽きないものなのです。
母乳育児には赤ちゃん、お母さんのそれぞれに利点があります。
お母さんへの利点として、
- 出産後の出血の減少
- オキシトシンというホルモンの作用でストレス反応がやわらぐ
- 閉経前の乳がん、卵巣がん、子宮体がんの減少
- 骨粗鬆症の予防効果
- 糖尿病などの生活習慣病のリスクが下がる
赤ちゃんへの利点として、
- 気管支炎、下痢、中耳炎などの感染症にかかりにくくなる
- 小児がんの発症率が低くなる
- 糖尿病などの生活習慣病の予防効果
- 喘息などのアレルギー疾患にかかりにくくなる
- 認知能力が少し向上する
両者にとっての利点として、
- 手軽に授乳できる
- 経済的
- 災害時など緊急事態でも授乳が可能
といったことが挙げられています。
出産されるお母さんの中には、もともと何かの治療を受けておられたり、体調や環境が整わなかったりして、そのために母乳育児を選択されない、もしくはできなかった方もいらっしゃいますね。ご自身がされた選択であっても、不安に感じたり、残念に思われたりすることもあるかもしれません。でも、大切なことは、お母さんとご家族が赤ちゃんを大切に思って、いろいろ考え相談して、その結果にたどり着いたということです。母乳を飲ませる時間と同様に、粉ミルクを飲ませるときにも、赤ちゃんに話しかけたり、笑いかけたりしていると気持ちがなごむと思います。ご家族の方にも分担してもらって、みんなで子育てしていきましょう。
出産前
母乳栄養の準備は、実は出産前からできます。妊娠中の準備を提案してみます。
<母乳育児ってどんな感じ?>
あなたは、これまでお母さんが赤ちゃんに母乳をあげている様子を見たことがありますか? 母乳育児中の知人がいたら、様子を見せてもらうのもいいと思います。地域にラ・レーチェ・リーグなどの母乳育児サポートグループがあるかどうか、地域の保健センターや、助産師会に聞いてみるといいかもしれません。そして、おっぱいを飲んでいる赤ちゃんとお母さんの様子を見てみましょう。
<家族と話し合いましょう>
パートナー(夫など)やその他の家族と母乳育児について話し合うことも大切です。あなたが母乳で育てたいことを、パートナーや、その他の家族に伝え、協力してもらえるように話してみましょう。
出産後
授乳のタイミング
赤ちゃんが欲しがる時に欲しがるだけ母乳をあげましょう。生後1ヶ月くらいは、授乳の間隔が30分~2時間ごとになることもあります。1日8~12回以上は授乳しましょう。産科への入院中は疲れていると思いますが、できるだけ赤ちゃんの飲み方を経験して慣れておいた方が退院してから楽になると思います。
おなかがすいた赤ちゃんは・・・
- 乳首を吸うように口を動かす
- むずがる
- 手を口に持っていく
- おっぱいを吸うような音を立てる
- 「くー」、「はー」といった声を出す
- 素早く目を動かす
といったおねだりのサインを出します。泣いたら授乳するのではなく、できれば泣き出す前にこのようなサインをもとに授乳するようにしてください。赤ちゃんが起きてきたな、と思ったら授乳をする準備にかかると良いかもしれません。空腹になりすぎると赤ちゃんは眠ってしまったり、癇癪のようになってしまったりします。この場合はなかなか母乳を飲んでくれないことがあります。片側の乳房を飲みきれなかった場合には、搾乳して乳房を空にしておくことで、次の授乳時にたくさんの母乳が作られることにつながります。
抱き方と含ませ方
授乳時の赤ちゃんの抱き方にはいろいろな方法があります。助産師さんなどに相談して試してみましょう。ポイントは・・・
- お母さんがリラックスして快適である
- 枕やクッションを使ってもよい
- 赤ちゃんが静かに起きていて、泣いていない
- 赤ちゃんの体全体がお母さんの方を向いていて、2人の体が密着している
- 赤ちゃんの頭と体がねじれたり曲がったりしていない
- お母さんの姿勢が前のめりになっていない
乳首の含ませ方
赤ちゃんの口を大きく開けさせ、乳輪(乳房の先端の大きく茶色い部位)までしっかりと口に含ませるようにしてください。まず赤ちゃんの鼻が乳頭の高さになるようにして、赤ちゃんの下唇を乳輪の下の端に合わせて、下から上へとくわえさせるようにするとやりやすいと思います(下図参照)。ご自身が、大きなハンバーガーを上手に食べようとする時を思い出してください。大きく口を開けて、ちょっと口がしんどいな、という感じですよね。赤ちゃんも同じです。最初は上手にくわえられても、だんだんお口の開き方が小さくなってきて、乳房の先端の乳頭になってしまいがちです。でも乳頭だけで吸われると、乳頭がとっても痛くなるだけでなく、母乳も少ししか出てこなくなってしまいますので、乳頭が痛くなってきたと感じたら、赤ちゃんの口元を一回確認しましょう。もしお口が小さくなっていたら、くわえ直させるようにしましょう。
おっぱいは足りてるのかしら?
母乳は消化が良いので、授乳間隔は1時間おきでも不足しているわけではありません。1日12回以上も母乳を飲む赤ちゃんもいます。でも、授乳を始めると赤ちゃんが間もなく寝てしまって、ベッドに寝かせるとすぐ起きて泣き出すと「母乳足りないのかしら」と心配になりますね。
1ケ月までの赤ちゃんが母乳を十分に飲めているかどうかの目安は以下のようになります。
- 飲んでいるときにごくごく音が聞こえる
- 少なくとも8回以上の授乳回数
- 赤ちゃんに活気がある
- 尿の色が薄く、1日8回程度おむつをしっかり濡らしている。便は1日2~5回程度
- 体重は1日あたり18g以上増加している
お母さんがペットボトルの飲み物を飲む時を思い出してください。「さあ、飲むぞ」と一気飲みするよりは、ちょこちょこ飲んで、いつの間にか500mL1本飲んでしまっているほうが多いのではないでしょうか。母乳を飲む赤ちゃんもそんな感じなのです。
授乳中の食事
授乳中のお母さんの食事に制限はありませんが、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。授乳中は、以下に注意しましょう。
- お母さんとお父さんに偏食がある場合は、この機会に食べられるようになりましょう。親御さんに偏食があると、お子さんも食べ物の「好き嫌い」が出やすいです
- 水分を良くとるようにしましょう
- カルシウム、亜鉛などのミネラルもしっかり摂れるように、使う食材を見直しましょう。難しければ サプリメントの利用もひとつのアイデアです
- 香辛料、刺激物の摂取は問題ありませんが、母乳の味や匂いに変化があるかもしれません。赤ちゃんが嫌がるようなら、止めた方が良いでしょう
授乳中の内服薬や嗜好品(タバコやコーヒー)
- お母さんが風邪、乳腺炎などで授乳中に薬を飲みたい場合には、医師や薬剤師などの病院のスタッフに相談してみてください。一般的には授乳してはいけない薬は全体の3%程度、安全に授乳できる薬は全体の74%といわれています。市販薬は授乳に差し支えないといわれています。ただし、効果が持続する、強力などと書かれている薬やコデイン(強い咳止め)を含む薬は避けましょう。また、乳腺炎になった時でも授乳は続けましょう。
- タバコを吸っているお母さんは是非母乳を続けましょう。母乳に出てくるニコチンの影響を考えても喫煙+人工乳より母乳の方が恩恵が大きいことが分かっています。タバコの本数も減らしていきましょう。
- コーヒー(カフェイン)はたまに飲むのは差し支えありませんが、毎日習慣的に飲むのは避けましょう。母乳中の鉄分が減ったり、赤ちゃんの寝付きが悪くなったりする可能性があります。
補足
乳房から直接飲む母乳だけでは足りない場合には何か工夫が必要ですね。赤ちゃんが1回にたくさん飲めない(もしくは、飲まない)なら、授乳の合間に母乳を搾っておいて、哺乳瓶で飲ませることもできます。搾った母乳を冷蔵庫に保存しておいて、24時間以内に使いましょう。温める時は、湯煎で、「レンジでチン」は絶対にしないでください。人工乳を使う場合には、まず母乳を先にしっかり飲ませてからにしましょう。搾乳してある母乳がある場合にはそれを優先して使いましょう。赤ちゃんによっては哺乳瓶では飲みにくく感じ、むせてしまってあまり飲んでくれない場合もあります。一時的な手段としてはスプーや授乳用のカップを使って飲ませるという方法もあります。
人工乳を使うとき、どれくらいの量を準備したら良いのか分からなくて困ることがありますね。人工乳だけを飲んでいるなら、1日の最高量は(平均して)体重(kg)x200mLといわれています。ただし、1日量で1000mLを越える場合にはそれ以上は控えた方が良いようです。1回に飲ませる量を増やして、回数を減らすなどの工夫をしてみましょう。混合栄養の時は、やってみないと分かりません。人工乳の説明書をよく読んで、40mLくらいから始めて見ましょう。準備した人工乳の量では赤ちゃんが落ち着かないときは、もう1回母乳を飲ませるのも良いでしょう。次にミルクを準備するときは60〜80mLに増やしてみるのも1つのアイデアです。
さらに詳しく知りたい方へ
母乳育児Q&A (NPO法人 日本ラクテーション・コンサルタント協会)
文責:
小児科
最終更新日:2019年3月20日