強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis: AS)
概要
強直性脊椎炎は、特に背骨および骨盤を中心に全身の腱や靱帯に原因不明の炎症が起こり、長い年月の中で「強直」して運動制限が生じる病気です。脊椎関節炎(spondyloarthritis: SpA)という疾患群の一つに分類されます(図1)。初期には背骨や骨盤の関節に付着する腱・靭帯が炎症を起こしますが、進行するとその腱・靭帯に石灰が沈着して骨のように硬くなり、背骨が曲がらなくなってしまいます。
図1.脊椎関節炎(SpA)の概念
欧米では10万人当たり100~200人程度の患者さんがいるといわれていますが、日本では少なく、10万人当たり6~40人程度と考えられています。この病気は若い男性に多く(男女比8:1程度)、9割の患者さんは40歳までに発症します。
国や各都道府県は原因が分かっていないいくつかの疾患を難病に指定し、医療費の補助を行っています。強直性脊椎炎は東京都が指定する対象疾患となっています。
症状
最もよくみられる初期症状はうなじや背中、腰、あるいは骨盤のこわばりや痛みです。さらに、肩や股関節の痛みも1/3程度の頻度でみられます。ほかにも、胸骨と肋骨・鎖骨の接合部、脊椎棘突起(体表から触れる背骨のでっぱった部分)、腸骨稜(腰に自分の手を当てた時に親指が触れる臍の横の部分)、大腿骨大転子(大腿骨の上のほうにある一番外側にでっぱった部分)、かかと、足底筋膜などの痛みが初期にあることもあります。
夜間や朝方などに安静にしていると痛みは強くなり、運動することで良くなるという特徴的な症状が3か月以上続きます。一時的に痛みが消失もしくは改善することもありますが、徐々に痛みの箇所、頻度が増え、また症状のない時間が短くなっていき、最後は常に症状が出ているようになります。重症では背骨が石灰の沈着した靭帯で固まって曲がらなくなり、腰を曲げたり振り返ったりする動作ができなくなったり、肺活量が減ってしまうこともあります。長期の炎症により骨密度が低下して脊椎の骨折の頻度が高くなります。時に、手足の指の関節の痛み、アキレス腱周囲の痛みなどの症状を呈することもあります。
また、3割前後の患者さんに、黒目の部分である虹彩やその裏側にある毛様体に急な炎症(急性虹彩毛様体炎)を伴うことがあります。この眼の症状は強直性脊椎炎の病勢とは無関係に出るといわれています。さらに、頻度は少ないですが、大動脈弁閉鎖不全症、アミロイドーシス、肺線維症、尿路結石なども合併することもあります。
診断
改訂ニューヨーク診断基準を用いて診断します(表1)。東京都による難病助成基準もこの基準に則したものになっています(表2)。具体的には、診察によって前屈や側屈をした時の背骨の曲がりにくさを調べたり、大きく深呼吸をした時に胸囲がちゃんとふくらむかを調べたりします。検査としては、X線検査が診断には必要です。
この診断基準には含まれていませんが、血液検査では背骨や骨盤の周囲の炎症を反映して、赤沈やCRPといった炎症反応の値や、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)-3が上昇していることが多いです。また、関節リウマチやその他の膠原病で見つかるような、リウマトイド因子、抗核抗体などの免疫の異常を示唆する検査は陰性であることが多いことも、この病気の特徴の一つです。
さらに、強直性脊椎炎では、多くの患者さんがHLA-B27という遺伝子をもっていることも分かっており、これは血液検査で調べることができます。保険で認められていない検査ですが、強直性脊椎炎を強く疑う場合には調べることもあります。ただし、HLA-B27は人種・地域によってその陽性率が異なり(緯度の高いところで高率である傾向があります)、欧米やカナダの先住民族などでは一般人口の約10~50%が陽性ですが、中国や韓国では5%程度、さらに日本では0.3~0.5%程度といわれています。このため、強直脊椎炎の患者さんでのHLA-B27の陽性率も人種・地域によって異なり、白人の患者さんでは90%が陽性である一方、国内では調査の地域によってかなり差があり0.4~83%程度で陽性といわれています。さらに、我が国ではHLA-B27以外に、HLA-B39、B51、B52、B61、B62の陽性率が一般人口に比べて患者さんにおいて有意に高いといわれています。
表1.改訂ニューヨーク診断基準(1984年)
I. 臨床症状
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II. 仙腸関節のX線所見両側2度以上、または片側3度以上の仙腸関節炎所見
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III. 診断基準
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表2.東京都の難病認定基準
<鑑別除外診断> |
X線検査では、背骨や骨盤の関節の隙間が狭くなっている所見や、靭帯が石灰化している所見がみられます。炎症が進行すると、背骨が全部くっついて竹の節のようにつながってしまうこともあります(図2)。ただし、病気の初期にはX線写真では異常がみられないことも多く、他の病気との区別がつきにくいため、MRIの検査を行うこともあります。
図2.強直性脊椎炎と正常人のX線写真
このように病気の早い段階では、骨の強直に伴う症状やX線での変化はみられないことが多く、改訂ニューヨーク基準を満たさないことがよくあります。そのため、強直性脊椎炎を含む脊椎関節炎としての診断(分類)基準として、2009年に脊椎病変をもつ「体軸性脊椎関節炎(axial SpA)」の分類基準(図3)が、2011年に末梢病変をもつ「末梢性脊椎関節炎(peripheral SpA)」分類基準案(図4)がそれぞれ発表されました。
図3.脊椎病変をもつ「体軸性脊椎関節炎(axial SpA)」の分類基準(2009年)
(感度82.9%、特異度84.4%。画像所見のみ陽性では感度66.2%、特異度97.3%)
※MRIでの活動性所見とは、脂肪抑制T2強調turbo spin-echo法もしくはSTIR(short tau inversion recovery)法での骨髄浮腫/骨炎を示しており、慢性変化である骨びらんや脂肪変性は含まれない。
図4.末梢病変をもつ「末梢性脊椎関節炎(peripheral SpA)」の分類基準(2011年)
治療
現時点ではこの病気を完全に治す治療法は確立されていません。しかし、病状や障害を良い状態に導くことが徐々に可能となってきています。治療にはリハビリテーション、薬物治療、手術、装具による補助などがあります。特にリハビリテーションは大切であり、毎日スポーツや体操を積極的に行い、生活の中でいかに変形を防ぎ、体の柔軟性を維持するのかが大事になってきます。また、喫煙はこの病気の予後を悪化させるため、喫煙者には禁煙指導を行います。薬物療法やその他の治療は、痛みやこわばりを緩和し、日常生活や仕事をしやすくする手助けとなります。
薬物治療としては、まずは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDsとも呼ばれます)が中心であり、脊椎の骨化抑制作用も報告されています。抗リウマチ薬は体軸症状には無効であり、末梢関節炎を合併している場合はサラゾスルファピリジンが有効な場合があります。一方で、メトトレキサートはこの病気の末梢関節炎での有効性は証明されておりません。さらに内服薬で効果が不十分な場合には、ステロイドの関節などへの局所注射も考慮されます。ただし、体軸の症状が主体である場合、経口ステロイドの長期内服はすすめられません。
これらの治療で十分な疾患活動性のコントロールが得られない場合は、生物学的製剤を考慮します。生物学的製剤では、現在はTNF阻害薬ではインフリキシマブ(商品名:レミケード®)とアダリムマブ(商品名:ヒュミラ®)、IL-17阻害薬ではセクキヌマブ(商品名:コセンティクス®)、イキセキズマブ(商品名:トルツ®)とブロダルマブ(商品名:ルミセフ®)、JAK阻害薬ではウパダシチニブ(商品名:リンヴォック®)が保険で使用可能です。これらの生物学的製剤のうち、TNF阻害薬とIL-17阻害薬は注射製剤であり、JAK阻害薬は内服製剤です。関節以外の合併症の有無でどの生物学的製剤を選択するか、たとえばぶどう膜炎や炎症性腸疾患がある場合はTNF阻害薬、皮膚の乾癬がある場合はIL-17阻害薬が考慮されます。IL-17阻害薬は活動性の炎症性腸疾患がある場合には、投与を避けます。最初に使用した生物学的製剤で効果不十分な場合は他の生物学的製剤への切り替えを検討します。生物学的製剤の中止により多くの患者さんが病勢の再燃を来たすため、中止することは困難です。
一方で、関節の変形がすでに起こってしまった場合には薬物治療でもとに戻すのは困難と考えられており、股関節などに著しい疼痛がある場合や、関節が固まって動きが大変不自由な場合には、整形外科と連携して手術を行うこともあります。
生活上の注意
強直性脊椎炎の症状や経過は、患者さんごとに大きく異なります。また、長く向き合わなければならない病気だからこそ病気のことを正しく理解して生活習慣に気をつける一方で、不安を抱えこまず病気や治療などの心配事を主治医の先生とよく相談することが大切です。
日常生活ではリハビリテーションが大切です。長時間同じ姿勢をとらない、前屈みにならない、急な動きを避ける、体をあまり冷やさないようにするなど、姿勢や動きに気をつけることが大切です。また、喫煙は薬剤による治療反応性を乏しくすることが報告されているため、喫煙している場合には禁煙を行うことも重要になります。
薬物療法では免疫を抑制する薬を使用する場合があり、その際には感染症が問題となります。うがいや手洗いなど感染に対する対策を心掛けるとともに、発熱や咳の悪化を認めたら、速やかに主治医に相談しましょう。
慶應義塾大学病院での取り組み
慶應義塾大学病院では約30名の患者さんが通院しており、進行した方、重症の方を中心に積極的に生物学的製剤の導入を試みています。また、手術に関して整形外科と、リハビリテーションに関してはリハビリテーション科とも連携し包括的な診療を行っています。
さらに詳しく知りたい方へ
- 東京都難病医療費等助成制度
- 日本AS友の会
- The Assessment of SpondyloArthritis international Society(英語サイト)
- 慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科
文責:
リウマチ・膠原病内科
最終更新日:2023年6月7日
膠原病と免疫の病気
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- 混合性結合組織病(mixed connective tissue disease: MCTD)
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- 結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa: PAN)
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