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ギラン・バレー症候群

ぎらん・ばれーしょうこうぐん

概要

人間の神経は中枢神経と末梢神経に分かれます。脳と脊髄が中枢神経で、そこから枝分かれし、体の各部分に分布している神経が末梢神経です。末梢神経は、体の動きを司る運動神経、感覚を伝える感覚神経、そして自律神経からなります。末梢神経に障害が生じると、脱力、しびれ、痛みなどの症状が現れます。この状態を末梢神経障害(ニューロパチー)といいます。ギラン・バレー症候群は複数の末梢神経が障害される病気(ポリニューロパチー)です。
末梢神経は軸索(じくさく)という電気を伝える中心部分が髄鞘(ずいしょう)という鞘で包まれている有髄神経と、髄鞘に包まれていない無髄神経とに分けられます。ギラン・バレー症候群の病態は有髄神経の髄鞘がはがれてしまう「脱髄」(だつずい)が主体と考えられてきました。しかし、近年、脱髄が主体のギラン・バレー症候群とは違い、軸索障害が主体のギラン・バレー症候群があることが分かりました。現在は、脱髄型も軸索障害型も含めてギラン・バレー症候群といいます。脱髄型はAcute inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy(AIDP)と呼ばれ、軸索障害型は、運動神経の軸索が障害されるacute motor axonal neuropathy(AMAN)と、感覚神経の軸索も障害されるacute motor sensory axonal neuropathy(AMSAN)の2つに分けられています。
病気の原因ははっきりしていませんが、ウイルス感染や細菌感染などがきっかけとなって、本来は外敵から自分を守るためにある免疫のシステムが異常になり、自己の末梢神経を障害してしまう自己免疫であると考えられています。約60%の患者さんの血液中に、末梢神経の構成成分である糖脂質(特にガングリオシド)に対する抗体がみられます。
この病気は人口10万人当たり年間1~2人が発症すると推定されていて、欧米では脱髄型、日本を含むアジアでは軸索障害型が多いといわれています。子供からお年寄りまで、どの年齢層の方でもかかることがありますが、平均発症年齢は39歳で、男性の患者さんの方がやや多いことが知られています。日本では特定疾患に指定されています。

症状

約三分の二の患者さんはギラン・バレー症候群発症の1~3週間前に風邪をひいたり下痢をしたりといった感染症の症状があります。感染の主な病原体はカンピロバクター(Campylobacter jejuni)、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バール(Epstein-Barr)ウイルスです。下痢があった場合、カンピロバクター感染の頻度が高く、主に軸索障害型のギラン・バレー症候群の原因となることが知られています。
典型的な症状としては、感染症状(咳・腹痛・下痢など)の数日から数週間後に手足の力が急に入らなくなってきます。通常、下肢から始まり徐々に上肢に広がっていきます。その他にも顔面の筋肉に力が入らない(顔面神経麻痺)、目を動かせなくなって物が二重に見える(外眼筋麻痺)、食事がうまく飲み込めない、ろれつが回らない(球麻痺)などの症状が出る方もいます。症状の程度は人それぞれで、麻痺が軽い方からほとんど手足が動かせなくなる方まで様々です。手足にしびれや痛みが出たりすることはありますが、一般に感覚障害は運動麻痺に比べて軽度です。自律神経が障害されると不整脈、起立性低血圧などがみられます。重症例では呼吸をするための筋肉が麻痺して、人工呼吸器の装着が必要になります。
症状は良くなったり悪くなったりはせず、ピークを過ぎれば改善します。症状の進行は急速で、通常4週間前後でピークに達し、以後回復傾向になり6~12ヶ月前後で症状が落ち着いて安定した状態になります。しかし、重症例では回復までに長期間を要します。何らかの障害を残す方が約2割いて、約5%の方はお亡くなりになります。 手足の力は入るのに目が動かなくなる(外眼筋麻痺)、ふらついて歩けなくなる(運動失調)といった症状が出る特殊なタイプもあり、フィッシャー症候群と呼ばれます。

症状

診断

  • 神経学的診察
    神経内科医が神経の異常を詳しく診察します。これで大体どういう病気の可能性があるか分かりますので、その後に必要な検査をします。ギラン・バレー症候群の場合、症状の経過をお聞きすることもとても重要です。
  • 筋電図検査
    筋電図検査は、末梢神経が障害された結果、伝わる速度が遅くなったり、伝わらなくなってしまっている部分がないかをチェックします。ギラン・バレー症候群の診断においては非常に重要な検査で、脱髄型なのか軸索障害型なのかの鑑別にも有用な検査です。
  • 血液検査
    発症早期に自己抗体である抗糖脂質抗体が検出されることがあります。他の末梢神経障害を来す疾患の除外のためにも必要です。
  • 髄液検査(腰椎穿刺検査)
    腰椎の間に穿刺針を刺して髄液を採取し、圧・外観・細胞数・糖・蛋白などを調べる検査です。主に、髄膜炎や脳腫瘍やクモ膜下出血などの際に行われますが、ギラン・バレー症候群の診断のためにも有用です。病気の初期には異常がみられないことが多いですが、1週間以後には細胞数の増加を伴わない、蛋白の上昇がみられるようになります。

治療

従来、ギラン・バレー症候群は治療を行わなくても自然に症状が軽くなる、予後(治療後の見通し)の良い病気と考えられていましたが、一部の方は重症で、適切な治療がされないと後遺症を残す方もいます。したがって、発症してからなるべく早く治療を開始する必要があります。

  1. 血液浄化療法
    血液浄化療法には単純血漿交換療法、二重膜濾過法、免疫吸着療法があります。その中で単純血漿交換療法は大規模な試験により、ピーク時の症状が軽くなったり、症状の回復が早まることが確認され、ギラン・バレー症候群の確固たる治療法として確立しています。血液から血球を除いた液体成分である血漿(けっしょう)を遠心分離器・半透膜などを用いて分離し、血漿中の有害物質を取り除いてから体内に戻す治療法です。単純血漿交換療法では、分離した血漿を全て廃棄し、代わりにアルブミン溶液を補充します。回数は重症度に合わせて2~4回を1日おきに行います。
    【副作用】 血圧低下・感染症・静脈血栓症など
    【デメリット】 体外に血液を取り出すためにカテーテル(細い管)を血管内に挿入する必要があります。また、血漿の分離のために装置・設備を要します。
  2. 免疫グロブリン大量静注療法
    ヒト免疫グロブリン0.4g/kgを5日間連続して点滴する治療です。1回の点滴には4~6時間を要します。副腎皮質ステロイドとの併用でより高い効果が得られる可能性が指摘されています。
    【副作用】 ショック、頭痛、筋痛、急性腎不全、血栓塞栓症など
  3. 重症の方の治療
    呼吸筋の麻痺や食事がうまく飲み込めない、ろれつが回らないなどの球麻痺や不整脈や血圧変動などの自律神経障害は致死的になることがあります。このような重症な方の場合、集中治療室で厳重に全身管理を行います。呼吸筋の麻痺に対しては人工呼吸器を用いることもあります。
    単純血漿交換療法と免疫グロブリン大量静注療法は同等の有効性と考えられています。そのため、それぞれの治療法の長所・短所をよく考えて、かつ患者さんの病状を勘案してより適切な治療法を選択します。一般には、特別の設備がなくても行うことができる後者が選択される頻度が高いです。
    血漿交換療法で用いるアルブミン溶液も免疫ブログリン製剤も献血された健康なヒトの血液を原料として製造されています。製造過程において、ウイルスの感染力を失わせるために多くの技術が用いられていますが、ヒトの血液を原料とするため何らかの病原体の混入によって感染症が引き起こされる可能性を完全に否定することはできません。
    治療後の見通しが悪い因子(予後不良因子)としては、1.高齢者の方、2.先行感染として下痢症状があった方、3.発症時や症状がピークの時に高度の麻痺がある方(特に人工呼吸を必要とする呼吸筋麻痺がある方)、4.筋電図で軸索障害を疑わせる所見のある方、5. 不整脈などの自律神経障害がみられた方などがあります。

生活上の注意

予防法は特にありません。感染症状の1~3週間後に急速に脱力が出てきたら早期に病院を受診し専門医の診察を受けてください。

慶應義塾大学病院での取り組み

  • ギラン・バレー症候群が疑われる方は、急速に症状が進行する可能性がありますので、入院のうえ、早急に検査・治療を行っています。治療にあたっては、各治療法のメリット、デメリットをよくご説明し、患者さんに最善の治療を行っています。
  • 臨床工学技士と連携し安全に速やかに血液浄化療法を行える体制を整えています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: 神経内科外部リンク
最終更新日:2018年8月20日

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