傷のひきつれやケロイドの形成外科治療
概要
一旦治った傷が、1-2か月して赤く盛り上がることがあります。これは、創傷治癒(傷の治る過程)が過剰に起こっている状態とされています。赤く目立つ傷は、全てケロイド、というイメージを持たれているかもしれませんが、臨床的にはケロイドと肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)に大別されます。周囲に拡大することなく、数か月から数年かけて自然萎縮するものを肥厚性瘢痕といい、最初の傷の範囲を超えてまわりの正常な皮膚まで盛り上がってゆくものをケロイドといいます(図1)。治療方針を決定する上で両者の鑑別が重要になりますが、典型的な場合は別にして、ケロイドと肥厚性瘢痕の区別は必ずしも容易でなく、その中間に位置するような瘢痕も存在します。
また、ピアスの後に化膿した際などに耳にできるケロイドは、切除を行った後の再発率も低く、他の部位のケロイドとは性質が異なるのではないか、と言われています。
図1.ケロイド例(肩)
原因は患者さんを始め、私達医療関係者も皆、解明したいと思っておりますが、残念ながら今のところ、ケロイドや肥厚性瘢痕になる原因は、まだわかっていません。白人には非常に少なく、黒人には多いとされますが、その理由もわかっていません。黄色人種の日本人は、その中間ですが、できにくい方とできやすい方がいらっしゃり、なんとも言えません。また、"ケロイド体質"という言葉がありますように、ケロイドは遺伝的な要因もあります。しかし、他の要因も多く、何代も続くケロイド家系は日本人では稀です。ケロイドを起こしやすい原因として、皮膚の緊張が強いところ(引っ張られる部位:肩など)や傷が化膿した場合(傷が治るのに時間がかかった場合)などがあげられます。
症状
ケロイドや肥厚性瘢痕の患者さんの負担は、見た目の問題だけでなく、痛みや痒みを伴うことです。これらは赤く盛り上がって広がっていくときが一番強くなります。また、これに伴いひきつった感じを持たれる方もいらっしゃいます。さらに、大きな塊になっている場合は、塊の中に埋もれた皮膚成分が化膿して痛みが出現することがあります。
治療
ケロイド・肥厚性瘢痕の治療は、部位や状態により、以下のような治療法があり、患者さんに合わせて、選択・組み合わせて行く形になります。
手術療法と電子線照射療法
瘢痕組織を切除して、縫い合わせます。大切なことは、再発をしないように縫うことです。皮膚の緊張が強いところにできやすいとされていますので、緊張がかからないように縫っていきます。
ケロイドの場合、肥厚性瘢痕と違い切除するだけでは、術後同じように盛り上がったり、場合によっては術前より悪化する可能性が高いので、術後の後療法が重要です。それでも、ひきつれやケロイドの減量や、見た目の改善を目的として手術が必要な場合があります。その場合は、再発を防ぐため、当院では放射線科と共同で、電子線照射療法を行っています。電子線は放射線治療の一種ですが、そのほとんどが皮膚に吸収され内臓などの深部臓器にはほとんど到達しません。数回から十数回に分けて照射します。後遺症として、皮膚障害や色素沈着などが起こる場合があります。
保存的治療
- ステロイド療法(貼り薬・軟膏・局所注射)
人間の創の治癒には線維芽細胞という細胞が大きく関与していることが知られていますが、ステロイドの持つ線維芽細胞を抑制する作用・抗炎症作用・血管収縮作用によって、治療効果を上げているとされています。テープや塗り薬がありますが、一番効果的なのはステロイドを注射する方法です。赤みや盛り上がりは著明に減少しますが、硬い瘢痕内に直接注射するので、痛みが強いのが欠点です。この痛みは局所麻酔薬を混ぜても軽快しませんので、痛みに弱い方には特殊な方法で注射の痛みを和らげる方法を形成外科では採用しています。
また、かえって皮膚が薄くへこんでしまう場合やステロイドの副作用で小さい血管(毛細血管)の拡張を呈する場合があります。また、女性の場合生理周期に影響を与える場合があります。 - トラニラスト内服療法
飲み薬では、現在唯一、トラニラストが有効であるとされています。これは、抗アレルギー剤であり、ケロイドや肥厚性瘢痕の組織中にある各種の炎症細胞が出す化学伝達物質を抑制することで効果を発揮しているとされています。もちろん、すぐにケロイドが消える訳ではありませんが、痒みをはじめとする自覚症状を抑え、さらには病変自体を沈静化させると考えられているものです。 - シリコンジェルシート療法
シリコンジェルでできたシートを長期間貼っておく治療です。肥厚性瘢痕には一定の効果があり、保湿効果が作用機序の1つとされています。ジェルシート自体に粘着力があるため、しっかりと皮膚につき、また洗うことで繰り返し使用が可能です。 - 圧迫療法
病変部を直接スポンジのようなもので押さえて、圧迫する方法です。非常に手軽で副作用のない方法ですが、数ヶ月から半年位続ける必要があります。他の療法と併用するのが効果的です。
慶應義塾大学病院での取り組み
ケロイド外来について
当科では、火曜日の午後にケロイド外来を開設し、ケロイドや肥厚性瘢痕の診察・治療にあたっております。ケロイドの治療は、難しいもので、患者さん個々人に合わせた総合的な治療が必要となります。まずはご相談下さい。
担当:荒牧典子、岡部圭介(火曜日午後)
文責:
形成外科
最終更新日:2017年1月23日