機能的疾患(三叉神経痛、顔面けいれん、パーキンソン病、本態性振戦)
概要
機能的疾患とは、痛み、体の震え、不随意運動(自分の意志と関わらない体の動き)、けいれん発作などを指します。原因として脳の中の神経核の異常な興奮が考えられます。通常は、薬でこれを抑えますが、それでは不十分で日常生活に差し支えるような場合は、開頭手術、定位脳手術(脳の深部にある異常興奮部分を破壊したり、それを抑えるため脳深部刺激電極を植え込む)、または、髄腔内薬液持続注入術、ボツリヌス毒素局所注射、などで対応することがあります。
三叉神経痛
顔の一側に走るような鋭い痛みが起こる病気です。痛みは、数分以内で一時治まりますが、これを繰り返す場合が多いようです。歯を磨く、食事をするなどの一定の動作で、同じような痛みが起こります。必ず決まった一側に起こることがポイントです。テグレトールという内服薬が多少でも効果があることも特徴です。原因の多くは、顔の知覚神経である三叉神経に脳の血管が当たって圧迫していることにあります。これはMRIで大部分が確認できます。治療として、径2cmほどの小開頭手術で圧迫血管の位置を変えると直後から痛みがなくなります。なお、まれには良性の腫瘍が神経に当たって三叉神経痛を発症する場合もありますが、これもMRIなどで診断可能です。
片側顔面けいれん
目の周りの筋肉が繰り返し収縮する病気です。多くは疲れた時などに軽く起こりますが、ひどくなると、口の周りの筋肉の引きつりも同時に起こるようになり、さらに進行すると、目が開かないと訴える方もいます。まぶしいと症状が悪化する、と訴える方が多いようです。三叉神経痛と同様に、顔面痙攣も一側に起こる病気です。原因も同様に、顔の表情を作る神経である顔面神経を血管が圧迫する病気で、MRIで診断ができます。これも、小開頭手術で血管を動かして治療可能です。なお、同様な顔のけいれんが両側に起こる病気もあり、眼瞼けいれん(がんけんけいれん)といいます。これは、手術でなくボツリヌス毒素の局所注射で改善させることが可能です。鑑別が難しい場合がありますので専門医に相談することが大切です。
パーキンソン病、振戦、ジストニアなどの不随意運動
体の振戦(ふるえ)、固縮、無動(動きが鈍ること)、不安定な歩行などの症状を特徴とする病気がパーキンソン病です。病気の初期は振戦から始まることが多いようです。診断は神経内科で行われ、抗パーキンソン病薬で効果的な治療が可能です。しかしながら、5~10年内服治療を続けると薬の効果が減り、体の揺れやつっぱり、幻覚などの副作用が出る方が多いようです。このような時点では、脳深部刺激療法といって、脳にペースメーカーのような刺激装置を入れる治療法が有効です。通常は視床下核という場所を刺激のターゲットとしますが、症状により、視床、淡蒼球(たんそうきゅう)などの他の場所を刺激することもあります。またこの方法は、パーキンソン病以外の不随意運動である、本態性振戦、ジストニアなどにも有効です。神経内科で診断され、薬の治療で改善しない、あるいは効果が少なくなったときには、検討する価値のある治療法です。
また、脳脊髄外傷後や脳卒中後の痙縮(四肢の突っ張りの強い状態)にはバクロフェン持続脊髄注入療法という体内植え込み型の薬剤注入システムによる治療もあります。
難治性疼痛
内服薬などでコントロールの困難な痛みを難治性疼痛と言います。このうち脳脊髄に原因のある、脳卒中後疼痛(しびれ痛み)、頭部外傷後疼痛、脊髄外傷後疼痛(腕神経引き抜き損傷など)、幻肢痛、脊髄手術後疼痛などが適応です。治療法は、脊髄刺激療法、脳深部刺激療法、大脳運動皮質刺激療法などがあり、いずれも、上述の脳のペースメーカーと類似のシステムを体に植え込んで治療を行います。
難治性てんかん
抗てんかん薬を充分に内服しても、なお、毎週発作を起こすような場合を難治性てんかんといいます。このような状態では日常生活の継続が困難な場合が多いため、手術による改善を検討することがあります。てんかんのうち、側頭葉てんかんといわれるタイプでは、手術で側頭葉の一部を切除することで、機能障害を起こさずに、けいれんのコントロールが可能です。それ以外のてんかんのタイプでもMRI,長時間脳波、MEG(脳磁図)、SPECT、PETなどの色々な最新の検査法を駆使しててんかんを起こす場所を同定して、その場所を摘出したり、格子状の切り込みを入れたりして改善させることが可能です。難治性の場合は一度ご相談ください。
慶應義塾大学病院での取り組み
慶應義塾大学病院では機能的疾患の治療を積極的に行っています。顕微鏡を使った手術、脳深部および脊髄電気刺激装置挿入術、持続脊髄薬剤注入システム挿入術などの多彩な治療法を駆使して治療を行います。
文責:
脳神経外科
最終更新日:2018年3月23日