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顔面神経麻痺の形成外科治療

がんめんしんけいまひのけいせいげかちりょう

症状

顔面神経は、顔の筋肉(表情筋)を動かす神経です。顔面神経の麻痺は、先天性(生まれつき)のものと後天性のものがあります。後天性のものでは、ウィルス感染が原因と考えられるベル麻痺やハント症候群が多くを占めますが、聴神経腫瘍や耳下腺腫瘍の手術の影響によるものや外傷などによっても障害されることがあります。顔面神経が障害されると、顔の外観に大きな変形が出てしまいます。代表的な症状は、眉毛・まぶたが垂れ下がる、目を完全に閉じることができず乾燥して痛い、笑うと顔が曲がってしまう、などです。
顔面神経麻痺は、障害される部位や原因によって、出てくる症状や程度、経過が異なります。障害されても自然に回復してくる場合もあります。自然回復が望めない場合、残存している症状に応じて手術を行います。

治療

治療は大きく2種類に分かれます。受傷から間もない場合には、顔面神経自体の神経再建を行います。受傷から時間が経っている場合(陳旧性)には、残存している症状に応じて、吊り上げ固定や筋膜移植、筋肉移植による再建を行います。

神経再建

顔の表情は、数多くの筋肉が互いに調整し合いながら作り出しています。これらの筋肉の動きを、人工的に再現することは極めて困難ですので、可能であればもともとある顔面の筋肉を再び動かせるようにする方法が最善です。例えば、麻痺のない健康な神経を利用して、麻痺側の筋肉を動かせるように神経支配を再建します。同じ側の顔面神経を利用できれば自然ですが、利用できない場合は、反対側の顔面神経を利用します。この他に、舌を動かす神経(舌下神経)や噛む時の神経(咬筋神経)などを利用する場合があります。神経間の距離が遠くて直接縫合できない場合には、神経移植を追加します。この場合、採取しても問題の少ない足の知覚神経(腓腹神経)を用います。手術直後から神経はゆっくりと再生していきますが、再び筋肉を動かせるようになるまでには、通常数か月かかります。

反対側の顔面神経を利用した場合には、左右の筋肉が同時に動き、自然な動きを再現しやすい利点があります。舌を動かす神経や噛む時の神経を使った場合には、舌を動かした時や噛んだ時に顔面の筋肉が動きます。顔面神経を利用できなくても、強力な神経支配が得られるという利点があり、術後のリハビリで、ある程度自然に動かせるようになります。

神経再建が可能かどうかは、麻痺の原因や期間によって異なります。麻痺した筋肉は、時間とともに衰え萎縮(廃用性萎縮)してしまうので、発症から時間が経っていない場合や、完全な麻痺でない場合に、適応があります。

神経移植以外の再建

麻痺発症後、長期間経過した(陳旧性)顔面神経麻痺の場合には、残存する症状に応じた治療が基本になります。吊り上げ固定や筋膜移植等による静的再建、筋肉移植による動的再建等、個々の症状に応じてさまざまな治療法があります。

  • まゆげが垂れ下がり、まぶたがかぶさってくる。
    1. 眉毛挙上術
      前頭筋という額にしわを作る筋肉の麻痺により、眉毛が垂れ下がってきます。加齢と共にまぶたの皮膚も余ってくるため、酷い場合には視野の妨げになります。このような場合には、眉毛の上の皮膚を1cm幅で切除し、眉毛を上げた状態で額の骨膜に固定します。後日、固定した眉毛は緩んで下がってくるので、手術時には麻痺のない側の眉毛よりも高い位置に固定します。額や頭皮の知覚神経が近くを走っているため、手術後に額がしびれる場合がありますが、数か月で回復します。
    2. 眼瞼余剰皮膚切除術
      上記と同じ理由で、眉毛挙上術と組み合わせて、まぶたの余剰皮膚を切除します。
  • 目が閉じられず、乾燥して痛い(麻痺性兎眼)
    1. 側頭筋移行術
      まぶたは通常眼球に密着しており、眼球の保護をしています。目の周囲の筋肉が麻痺すると、下まぶたは垂れ下がり目が閉じにくくなります。酷い場合には眼球が乾燥し、眼球自体を痛めてしまう場合があり、眼薬や眼軟膏が必要になります。側頭筋移行術は、噛む時に使う側頭筋をまぶたに移植します。もみあげの上の髪の毛の中を切って、筋肉を短冊状に引っ張り出し、それに連なる筋膜を上まぶたと下まぶたに通します。これにより、噛んだ時に側頭筋が収縮し、まぶたも閉じられるようになります。リハビリにより、ある程度自然にまぶたが閉じられるようになります。
    2. 下眼瞼外反形成術
      眼輪筋という目を閉じるための筋肉が萎縮することで、下まぶたが外側に垂れ下がってきます。下まぶたが眼球と接触しなくなることで目の乾燥が強くなったり、涙がこぼれやすくなります。これらを改善するために、まぶたが裏返らないような支えを作ります。程度が軽い場合には皮膚のみによる吊り上げ、程度が強くなると筋膜移植や耳の軟骨移植を行います。
  • うまく笑うことができず、笑うと顔が曲がってしまう
    1. 筋膜移植(静的再建)
      顔面神経麻痺があると、笑った時に麻痺側が動かないため、顔が大きく麻痺のない側にひっぱられて歪んでしまいます。麻痺が強い場合には、顔を動かしていない時でも顔の非対称が強くなります。筋膜移植による再建では、主に大腿部の筋膜を用いて、垂れ下がった口角を上方へ吊り上げます。主に安静時の左右差が改善されますが、笑った時の左右差も軽減します。しかし、筋膜は動くわけではないので、より自然な表情を獲得するためには筋肉移植が必要になります。
    2. 筋肉移植(動的再建)
      麻痺した顔面の動きをなるべく取り戻すために、筋肉移植をします。通常は、前鋸筋という脇腹の筋肉を用います。筋肉の場合は、そのまま切り取って移植したのでは機能しないため、筋肉を栄養する血管と動かしている神経も吻合する必要があります。手術後は、筋肉への栄養血管がつまらないように、1週間ほど安静に注意する必要があります。神経は、反対側の健康な顔面神経を使う場合が多いですが、舌を動かす神経(舌下神経)や噛む時の神経(咬筋神経)を組み合わせる場合があります。神経は、再生するまで数か月から1年以上かかりますが、筋膜移植などの静的再建に比べ、動きのある再建が可能です。術後しばらくしてから、筋肉のボリュームや動きを調整するなどの微調整が必要になる場合があります。

慶應義塾大学病院での取り組み

上記全てに対応可能です。症状に合わせた最適な治療を、適宜ご相談させていただきます。

顔面神経麻痺の形成外科治療についてご相談のある方は、まずは下記外来にてご相談ください。
担当:矢澤真樹(水曜午前)

文責: 形成外科外部リンク
最終更新日:2017年2月24日

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