リンパ浮腫の手術的治療
概要
リンパ浮腫とは
四肢外傷・手術などをきっかけにして手足がむくんで来る場合があります。このむくみの原因としては、主に1.血管の流れが滞る場合と2.リンパ管の流れが滞る場合とがあり、後者の状態をリンパ浮腫と呼んでいます。両者の区別を行うためには、血管造影または超音波検査を行うことが必要ですが、発症の仕方や浮腫の状態を診察することによっておおむね区別できます。一般的に、婦人科や外科などの手術でリンパ節を郭清(癌の転移を防止するために、切除されること)した後、数年経過してから出現する浮腫は、リンパ浮腫である可能性が高いと考えられます。
リンパ浮腫の原因
(リンパとは)通常、体内の水分は血液またはリンパ液として存在しています。下図に示すように、人体にはいたるところに血管(図1、Aは動脈・Vは静脈)が存在し、その中を血液が循環することによって組織に酸素が供給されています。血液内の水分の一部(10%)は、血管外に漏れ出て「リンパ系」と言われる別の循環系統にのり、心臓に向かって還流します。
図1.血管とリンパ管の関係
リンパは、その還流の途中で「リンパ節」と呼ばれる部分を経由します。リンパ流を自動車の流れにたとえると、この「リンパ節」はサービスエリアのような、循環の中継点に相当するでしょう(図2)。そのためリンパ節が手術により郭清されると、リンパ流がうっ滞し、浮腫(むくみ)を起こします(図3)。
図2.通常の状態
図3.リンパ節郭清後
治療
手術的治療
保存的治療でリンパ浮腫が軽快しない場合や、頻回に蜂窩織炎(むくみが長期にわたり持続した結果、感染を起こして手足が腫れること)を起こす場合には、手術治療を行います。蜂窩織炎が存在する場合には、繰り返す回数が多いほど難治となるので早期に治療が必要です。
図4.リンパ管-静脈吻合後
図5.吻合中の所見
手術においては、むくみによって拡張してリンパ管と、血管(静脈)とを顕微鏡で見ながら微細な操作でつなぎます(図4、5参照)。こうすることにより、うっ滞したリンパが血管内へ流れるので、むくみの改善をはかることができます。
実際の手術症例
数十年前に婦人科手術を受けた後、右下肢のむくみが進行してきた患者さんです(図6)。保存的治療で改善が見られなかったために、手術を行い、リンパ管と血管を3箇所で吻合しました(図7)。
図6.術前の状態
図7.手術後3ヶ月の状態
慶應義塾大学病院での取り組み
リンパ浮腫の治療において肝心なことは、現在の浮腫の状態がどの病期に属するのかを判断し、その病期に応じた治療方法を選択することです。このために慶應義塾大学病院では、リハビリテーション科と形成外科が共同で患者さんの診察にあたり、どのような手術を行うのが望ましいかを相談して決定しております。また、手術が望ましいケースに関しては術後のリハビリテーションプログラムを、専門の医師が組むことによって、治療効果を最大限にあげるようにはかっております。
リンパ浮腫の手術的治療についてご相談のある方は、まずは下記外来にてご相談ください。
担当:荒牧典子(水曜午前)、岡部圭介(木曜・金曜午前)
文責:
形成外科
最終更新日:2017年2月24日