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歯性感染症

しせいかんせんしょう

概要

歯性感染症とは虫歯や歯周病が原因で細菌性の炎症が周囲の組織まで波及してしまう疾患のことです。

原因菌は複数の細菌によるもので、好気性菌、ならびに嫌気性菌、ブドウ球菌、連鎖球菌、紡錘菌、大腸菌、肺炎菌、口腔スピロヘータなどです。深部の感染症では嫌気性菌の混合感染が多く認められます。ただし、細菌が生体内に生息していても、すぐに感染症が発生するわけではありません。口の中には様々な菌が常在しますが通常は無害です。感染症は侵入した細菌の量や毒力が生体の防御機構を上回った場合に成立します。感染に対する抵抗力が弱まる原因として疲労、栄養失調、アルコールや麻薬中毒、白血病、糖尿病などの代謝疾患、膠原病などの基礎疾患と副腎ステロイド剤の使用、悪性腫瘍、HIVウイルスなどのウイルス感染、免疫抑制剤や抗がん剤の使用などが挙げられます。

また、感染経路は大きく分けて2つあります(図1)。1つは虫歯になり歯の神経まで進行するとそこから歯根と呼ばれる歯の根や、歯槽骨と呼ばれる歯を支える骨、さらにその周囲の筋肉、組織隙、顎の骨までおよぶ経路です。もう一方は歯と歯肉の間の歯周ポケットから細菌が侵入して、虫歯のときと同様に周囲の組織まで感染がおよぶ経路です。歯性感染症は炎症がどこまで波及しているかにより、それぞれ必要に応じた検査や治療が実施されます。代表的な疾患を(表1)に示します。

図1.炎症の波及経路

図1.炎症の波及経路

病名説明
智歯周囲炎親知らずは完全に生えてこないことや、生える位置の異常が多く認められ、清掃不良などが原因で細菌の侵入しやすい状態にあります。親知らずが感染源になり周囲歯肉に炎症が波及している状態です
歯槽骨炎虫歯や歯周病の炎症が、歯と歯槽骨の間にある歯根膜と呼ばれる靭帯を超えて歯槽骨まで波及している状態です。
顎骨骨膜炎骨膜とは骨の外側を覆っている線維性の膜のことです。智歯周囲炎や歯槽骨炎などの炎症が顎骨骨膜まで波及している状態です。
顎骨骨髄炎原因は顎骨骨膜炎と同様ですが、波及経路が異なっていて炎症が顎骨の骨髄内に波及している状態です。上顎骨に比べ、下顎骨に多く発現します。下顎骨骨髄炎では経過によって第1期(初期)、第2期(進行期)、第3期(腐骨形成期)、第4期(腐骨分離期)に区分されます。また、最近では、骨粗鬆(そしょう)症などの治療に用いられるビスフォスフォネート製剤の副作用として顎骨骨髄炎が報告されています。
蜂窩織炎炎症病巣が限局せず広範囲に広がって浮腫をおこし組織が粗鬆になっている状態です。この場合の炎症は組織隙と呼ばれる密度の低い組織の隙間を通じ広範囲に及んでいます。口底や頬部に多く見られます。
歯性上顎洞炎上顎臼歯の歯根先端の炎症病巣が原因で炎症が上顎洞と呼ばれる鼻とつながっている上顎骨内のピンポン玉大の空洞に波及している状態です。とくに、第一大臼歯が原因になることが多いです。

表1

症状

炎症の波及程度や病期により症状は異なりますが、急性炎症は局所症状として発赤、熱感、腫脹、疼痛、さらに開口障害、咀嚼(そしゃく)障害、嚥下(えんげ)障害などの機能障害が強く発現します。急性炎症の末期では膿瘍と呼ばれる膿の集まりを形成することが多くあります。慢性炎症ではこれらの症状が軽微なことが多いです。

  • 智歯周囲炎
    局所症状として歯肉の発赤、腫脹、圧痛、疼痛がみられ周囲組織に波及すると開口障害、嚥下痛、顎下リンパ節の腫脹と圧痛がみられます。全身症状として発熱、倦怠感、食欲不振がみられることがあります。
  • 歯槽骨炎
    原因歯の疼痛、打診痛とよばれる歯をたたいた時の痛みや動揺があり、その症状は隣の歯に及ぶことがあります。また、周囲歯肉の発赤、腫脹、圧痛があり、顎下リンパ節の腫脹、圧痛、膿瘍形成を認めることがあります。また、全身症状として発熱を認めることがあります。
  • 顎骨骨膜炎
    上顎骨骨膜炎の初期は、顔面の腫脹、硬結と圧痛および拍動性の疼痛が認められます。炎症が進展すると耳下腺部の腫脹、硬結、眼窩周囲の腫脹が認められることがあります。前歯部が原因のものは唇の腫脹を伴うこともあります。下顎骨骨膜炎は智歯に起因するものが多く、下頬部から顎下部にかけて広範囲な腫脹と発赤がみられます。強い疼痛と熱感、圧痛を伴う硬結があり、顎下リンパ節の腫脹、圧痛も著明です。顎骨周囲の膿瘍や蜂窩織炎を併発することが多くあります。
  • 顎骨骨髄炎
    上顎骨骨髄炎の症状は炎症の初期から原因歯やその近くの歯の動揺、打診痛、拍動性の強い疼痛と38~39℃の発熱があり、全身倦怠感、食欲不振、不眠なども発現することがあります。歯肉や顔面の腫脹は一般的に軽度です。下顎骨は表面の固い皮質骨が厚く、内部は骨髄の部分が多いため定型的な骨髄炎症状が発現します。症状は上顎骨とほぼ同様ですが顎下リンパ節炎や下顎骨内には下歯槽神経という知覚神経が走行しているため、その支配領域である下唇やオトガイ部の知覚過敏やしびれが発現する場合があります。
  • 蜂窩織炎(ほうかしきえん)
    局所症状として好発部位である舌下部、顎下部、オトガイ下部、頬部の浮腫性腫脹、発赤、疼痛、開口障害、嚥下障害、所属リンパ節の腫脹や圧痛などがみられます。全身症状としては38℃以上の高い発熱、倦怠感、頭痛、食欲不振が発現します。重症例では呼吸困難や肺に膿がたまる膿胸、縦隔炎、敗血症などで死亡する可能性もあります。
  • 歯性上顎洞炎
    通常は片側性で急性上顎洞炎では一般の急性化膿性炎と同様に発熱、全身倦怠感、食欲不振などが発現し、局所的には歯痛、頬部痛、扁桃痛、前額痛、眼窩下部の腫脹や圧痛が発現します。鼻症状として鼻漏、鼻閉、臭覚異常が発現することがあります。原因歯には浮いた感覚があり、打診痛も見られます。慢性上顎洞炎では全身的にも局所的にも炎症症状は軽く、炎症がおこっている側の鼻閉感、頭重感、偏頭痛、前額痛、軽度の頬部圧痛、悪臭のある膿性の鼻漏を認めることがあります。

診断

症状から歯性感染症が疑われた場合に重要になってくるのが、現在の炎症の程度とその範囲、感染源の特定です。炎症の程度は血液検査によって測ります。血液検査データでは白血球数やCRPという炎症により上昇するタンパク質の値から程度を測ります。CRPの正常値は0.3以下ですが炎症により10以上に上昇すると重度感染症として通常は入院下の治療対象となります。また、全身的に免疫力が低下する原因がないか血液検査で診断します。炎症の範囲や感染源の特定にはレントゲン写真や顔面・頸部のCT、MRI検査を用います。

治療

炎症に対しては局所の洗浄、抗菌剤による薬物療法、手術療法を行います。歯性感染症の原因菌は嫌気性菌が大多数を占め、しかも複数菌による感染であるため、抗菌剤は広範囲の細菌に効果があるセフェム系やペニシリン系が第一選択となります。経口薬か注射薬かの選択は炎症の程度によりますが、重度の場合は一日数回の注射薬の点滴を行います。また、急性炎症の末期には膿瘍形成することが多く、その場合、切開・ドレナージを行います。消炎後は炎症の再燃の可能性があるので、原因歯の治療もしくは抜歯を行います(図2)。顎骨骨髄炎で広範囲に骨が壊死してしまった場合には顎骨の部分切除や切断を行い、金属プレートで再建することもあります。これ以外にも、炎症の拡大を防ぎ、炎症反応をできる限り早く消退させるためには、全身および局所の抵抗力を高めることが必要になります。そのために、全身および局所の安静を考えなければなりません。歯性感染症ではしばしば高熱を伴いますので解熱剤の投与や、疼痛に対して鎮痛剤の投与を行います。開口障害や嚥下障害、食物摂取時の疼痛などによって脱水や低栄養の状態になりやすく、点滴による補液を行うこともあります。

図2.(左:左側上顎洞炎【原因歯は左側第一大臼歯】右:原因歯抜歯後)

図2.(左:左側上顎洞炎【原因歯は左側第一大臼歯】右:原因歯抜歯後)

生活上の注意

全身および局所の安静を心がけてください。具体的には十分な栄養補給、水分摂取、睡眠をとることです。また、局所的には口腔内を清潔に保つことです。

慶應義塾大学病院での取り組み

  • 当院には通常のCT以外に撮影範囲を小さくすることで被爆線量をおさえ、鮮明な画像が得られる小照射野CTがあり、適応症例では積極的に活用しています。
  • 症状が重度の患者さんは入院下で、薬物治療や栄養状態の改善のための点滴を行っています。
  • 糖尿病など免疫力の低下を認める全身疾患のある患者さんは適切な専門科と協力して治療を行っています。

さらに詳しく知りたい方へ

「歯科における薬の使い方」(デンタルダイヤモンド社)
歯科領域で投薬が必要な病気の説明や代表的な薬の解説。医師、コメディカル向けの内容。

文責: 歯科・口腔外科外部リンク
最終更新日:2017年2月10日

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