心膜疾患とは
概要
心臓の周りを覆っている伸び縮みのできる2枚の膜で作られる袋を心嚢(しんのう)、2枚の膜のことを心膜(しんまく)と呼んでいます。この心嚢には2枚の膜がスムーズに動けるように少量の潤滑液(じゅんかつえき)が入っています。また、心嚢は心臓を支えて過度の動きを防ぎ、胸の中で起こった感染症から心臓を守っています。心膜疾患とは心膜に及ぶ病気のことをいいます。心膜疾患の主なものとして、以下が挙げられます。
- 急性心膜炎(きゅうせいしんまくえん):心膜の炎症
- 心タンポナーデ(しんたんぽなーで):心嚢内への急速な、あるいは大量の液体の貯留
- 収縮性心膜炎(しゅうしゅくせいしんまくえん):心膜炎が長い間続いた結果起こる心膜が硬くなる状態
心膜疾患は、感染症や腫瘍(しゅよう)、外傷などが原因で起こる場合がほとんどです。何らかの原因で心膜に炎症が起こると、心膜炎と呼ばれる状態になります。症状としては、胸が痛くなったり、発熱したりすることがあります。心膜炎が起こると心嚢の中の液体が増えて心臓を周りから圧迫し、心臓の拡張を妨げることがあります。心嚢内の液体のことを心嚢液といいます。数時間、数日間という早い経過で心嚢液がたくさん貯まると、心タンポナーデが起こることがあります。心タンポナーデとは、心嚢という限られた袋の中に大量に液体が貯まって心嚢内の圧が上昇し、心臓の拡張が障害されて全身に送ることのできる血液の量が少なくなってしまう状態のことをいいます。症状としては、呼吸困難、胸痛、気分不快、食欲低下などが挙げられます。心嚢液が多く貯まっている患者さんの7~10%が心タンポナーデを起こす危険があるといわれています。急性の場合に限らず、ゆっくりとした慢性の経過でも心タンポナーデが起きると命に関わることがあるため、急に息切れがひどくなったり、顔色が悪くなったりした際には早急に病院を受診する必要があります。
心膜に炎症が起こった結果、心膜が硬くなって伸び縮みできなくなり、心臓の動きが制限されて全身に送ることのできる血液の量が減ってしまう状態のことを収縮性心膜炎といいます。原因として、過去に受けた心臓の手術、胸に受けた放射線治療、過去に起こした心膜炎などが挙げられます。症状としては、疲れやすい、息切れ、体のむくみなどが挙げられます。診断に至らずに原因不明の心不全として通院されている患者さんも少なくありませんが、正しい診断がつけば症状、病状の見通しともに改善する可能性のある病気ですので、心膜疾患を起こしうるリスクのある患者さんや、上記の症状がある患者さんは医療機関で精査することが重要です。
その他、まれな心膜疾患として腫瘍の一種である心膜嚢腫や、生まれつき心膜が欠損している先天性心膜欠損症という病気もあります。以上のように心膜疾患には種々の病気がありますが、病態に応じて治療法も異なります。なお、収縮性心膜炎と心タンポナーデの詳細については各論の項もご参照ください。
文責:
循環器内科
最終更新日:2023年9月5日