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側弯症

そくわんしょう

概要

脊椎は7個の頚椎(首の部分の背骨)、12個の胸椎(胸の部分の背骨)、そして5個の腰椎(腰の部分の背骨)から構成されます。正常な状態ではこの脊椎の配列は正面から見ると真っ直ぐです。一方側弯症では正面から見た時に椎体のねじれ(回旋)を伴いながら、脊椎が左右に曲がっている状態(側弯)です。側弯症は前方から見て脊椎がコブ角(図2)で10度以上曲がる病態です。側弯症の発生頻度(特発性側弯症の場合)は、報告者によってその頻度に多少の違いはありますが、装具治療の対象となる20-30度以上の側弯症は0.3~0.5%、すなわち1,000人に3-5人いることになります。手術が必要な可能性が出てくる40度以上の側弯は0.1%以下です。

原因

側弯症は、機能性側弯症と構築性側弯症の2つに分類されます。
機能性側弯とは、背骨自体に原因はなく、背骨以外の原因を除去することにより軽減できる側弯症のことです。例えば、習慣的に姿勢が不良であったり、腰椎椎間板ヘルニアなどの痛みによるもの、骨盤の傾きによるものが含まれます。一方、構築性側弯症の原因にも様々なものがあります。その中で一番頻度の高いものは特発性側弯症です。特発性という言葉の意味は「原因が分からない」という意味です。特発性側弯症の原因を世界中の専門家が研究しておりますが、今のところはっきりとした原因は分かっておりません。当科ではLBX1やGPR126といった遺伝子が側弯症のなりやすさに関連していることを理研統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム 池川志郎チームリーダーとの共同研究で発見しました。そのほかの側弯症として脊髄などの神経組織の異常を原因とした側弯症(神経原性側弯)、筋肉の病気を原因とした側弯症(筋原性側弯症)、椎体の変形による側弯(先天性側弯)、そのほかマルファン症候群などの結合組織の異常に伴った側弯症など、様々な側弯症の原因が分かっております。

カーブパターンについて

脊柱側弯症の変形のパターンは主に、3つに分けられます。1つは胸椎が中心に曲がってくる胸椎カーブ、腰椎が中心に曲がってくる腰椎カーブ、そして、胸椎と腰椎の間で曲がる胸腰椎カーブです(図1)。カーブの位置、大きさなどにより治療の方法が変わってくる場合があります。

胸腰椎カーブ

図1

脊柱カーブの測定の仕方

脊柱側弯症ではカーブの大きさをコブ角という角度で表します。目的とするカーブの椎体が一番傾いている椎体と椎体の間の角度を測定します(図2)。

脊柱カーブの測定の仕方

図2

症状

側弯症の身体特長を示します(図3)。
脊柱が曲がってくるため、以下のような体表面の変化が生じる場合があります。

  1. 肩の高さが非対称
  2. 腰のくびれが非対称
  3. 体幹バランス不良
  4. 骨盤の傾き
  5. 肩甲骨部の出っ張り

などが特徴的です。しかし、一番特徴的なのは、ハンプです(図4)。体を前にかがめた時、背中、または腰の部分が盛り上がってきます。これをハンプと呼びます。一般的にはこのハンプの大きさは側弯のカーブが重度になっていくほど大きく目立ってくるようになります。

側弯症の身体特長

図3

ハンプ

図4

治療

治療法は1.定期的な経過観察、2.装具治療、3.手術の3つに分けられます。

  1. 定期的な経過観察: 3-12ヶ月毎にレントゲン写真を撮影して側弯の進行の具合をチェックします。このような場合はカーブの大きさがコブ角で25度以下の軽度の側弯症の場合です。ただし、25度以上の大きさであっても、年齢が15-16歳ぐらいで骨の成長が止まってきている場合にも定期的な通院だけで様子を見る場合があります。
  2. 装具治療は、骨成熟前(骨が大人の骨になる前、だいたい14-15歳以下)でコブ角が25度前後の場合に開始します。装具は、基本的に一日中着用します(お風呂と体育以外)。装具治療開始後は3-4ヶ月毎にレントゲンを撮り、カーブの進行の具合を確認します。装具は大きく分けて胸椎、腰椎の変形を治療する装具(TLSO装具)と、頚椎、胸椎、腰椎を治療する装具(CTLSO装具)です。多くの方が治療に使用しているのがTLSO装具です。装具には施設によって様々なタイプのものがありますが、基本的に矯正の理論は同じです。
  3. 手術療法。手術をする場合、最も重要な理由は、カーブの進行予防です。進行の確率は、10~12歳の場合、コブ角30度以上の側弯は90%の確率で、コブ角60度以上の側弯の場合は100%の確率で進行します。このような側弯を放置しておくと、重度の側弯症(80度以上)に進行してしまいます。手術の目的は、その進行を止めることです。重度の側弯症になった場合、肺機能の低下が生じます。脊柱の変形によって肺が圧迫されるからです。この場合、日常生活には支障はありませんが、労作時などに息切れを自覚するようになります。また、腰痛や背部痛の発生率も増加します。骨の成長終了後(18-20歳以上)もコブ角が40度を超えた側弯症は年間0.5~1度程度の進行があるといわれております。成長終了後の側弯症では、今後の側弯の進行の可能性と手術の危険性などを主治医と相談して、手術を受けるかどうか決めたほうが良いと思われます。整容目的も手術の理由として挙げられます。側弯症患者のself-image(自分の容姿に対する自己評価)はコブ角30度を超えると低下し始め、しかも、対人関係において消極的になるといわれております。そして、カーブの悪化に伴いその感情が顕著になるといわれております。そのため、精神的健康獲得のために手術を行う場合もあります。しかし手術には必ず合併症の危険性が伴います。手術する際には必ず皮膚に傷がつきます。整容目的で手術を行う場合には慎重に検討するべきです。
  4. 手術方法には大きく分けて前方法と後方法の2つに分けられます。矯正するカーブの場所により方法を使い分けます。後方法は胸椎カーブ、胸腰椎カーブに適応されます。前方法は胸腰椎カーブ、腰椎カーブに適応されます。以前は腰椎カーブには常に前方法が適応されてきましたが、近年では椎弓根スクリュー(後述)の普及で矯正力が向上してきたため、後方法の適応が増えています。前方法・後方法の合併もあります。カーブが極めて大きい場合、若年者で今後の大きな身長の伸びが見込まれる場合です。
  5. 手術の方法
    1. 前方法:前方法は背骨の前方、すなわち椎体や椎間板を実際に触って矯正する方法です。麻酔をかけた後、手術台の上で横向きに寝ていただきます。そして、肋骨に沿って皮切を入れて、肋骨を1~2本外して背骨にアプローチします。そして、矯正予定の範囲の椎間板を切除し、そこに外した肋骨を移植して、椎体にスクリューを1~2本入れてロッドで矯正を行います。
    2. 後方法(図5):背中に縦の皮切を加えて、背骨から筋肉を剥がして棘突起、椎弓、横突起といった背骨の後方組織を露出します。矯正に使用する道具は主に椎弓根スクリューとロッドを使用します。時によってはフックやワイヤーも使用します。椎弓根にスクリューを設置し、そこにロッドを連結させて様々なテクニックを用いてカーブを矯正していきます。矯正を行った後は骨移植という作業を行います。スクリューとロッドでしばらくの間矯正位は保持できますが、その内、金属疲労でスクリューやロッドが折れたり、スクリューが緩んだりします。そのため、矯正した範囲の背骨を一つの骨にくっつけてしまう作業が必要になってきます。使用する骨は大抵の場合は右の腸骨(骨盤の骨)から採取します。
後方法

図5

慶應義塾大学病院での取り組み

整形外科学教室では、毎週月曜日の午後に側弯症外来を行っております。外来には特発性側弯症の患者さんだけでなく、症候性側弯症、先天性側弯症、乳幼児側弯症などの様々なバックグランドを持つ患者さんを受診しています。そして、大学病院の特性を生かし、一番適切と思われる治療を行えるよう、日々、努力しております。

文責: 整形外科外部リンク
最終更新日:2018年1月15日

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