小児疾患のリハビリテーション
概要
小児疾患のリハビリテーション(以下リハビリ)においては、麻痺など完治が難しい身体機能の障害(機能障害)を持ったお子さんや、内科・外科治療前後のお子さんを対象とします。
日ごろ生活する中で、また成長・発達していくに伴って生じうる問題を早期に解決し、より充実した生活を送ることができるように家庭や地域社会も含めてサポートしていくことがリハビリの目標といえます。
対象となる疾患には、脳性麻痺、二分脊椎、ダウン症候群などの先天性疾患、筋ジストロフィー、脳炎・脳症や頭部外傷の後遺症、先天性股関節脱臼や特発性側彎に代表される整形疾患、呼吸器疾患、自閉症や注意欠陥多動性障害に代表される発達障害、など様々です。
治療
脳性麻痺
脳性麻痺は、発生・発達しつつある胎児または乳児の脳に起こった非進行性の病変に起因すると考えられる運動と姿勢の発達の異常を説明する言葉であり、ほかの脳疾患による運動機能障害や知能障害とは異なります。
脳性麻痺の診断の第一段階として、まず首のすわり、ハイハイ、歩行などの獲得の遅れに気がつくことが重要です。
脳性麻痺と診断されてリハビリ科が関わる場合、まずその障害の程度を評価するところから始め、障害の状態やてんかん発作の有無、日常生活にどの程度の介助を要するかなどを判断します。診察室での診察と、これらの評価尺度を用いた結果を合わせてお子さんの障害の状態を把握します。脳性麻痺は、脳の損傷部位により、痙直型、アテトーゼ型、強剛型、失調型、振戦型、無緊張型、混合型(痙直+アテトーゼ型)に分けられます。このタイプによって、リハビリのアプローチの仕方が異なってきます。
治療として代表的なのは以下のようなものであり、お子さんの状態に合わせ、組み合わせて行われます。
- 神経発達学的治療
発育に合わせて、異常な運動反応を抑制して正常運動発達を促すような訓練を行います。
同時に、日常生活に沿った自主訓練の指導や、環境調整のアドバイスなどを行います。
- 痙縮(けいしゅく)に対する治療
痙縮(痙性)とよばれる首、腕、脚、体幹などのつっぱりに対して、薬物療法や装具療法、薬剤を使った神経ブロックという注射療法などを行います。
A型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス®注®)という注射剤が、「2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足」を効能・効果として、2009年に厚生労働省より適用追加の承認を取得しています。その後、成人も含めた「上肢痙縮」「下肢痙縮」に対して2010年に追加効能が承認されています。
また、痙縮を軽減させるために、筋や神経に対する手術療法などを積極的に行っている施設もあります。
さらに施設によっては、髄腔(ずいくう)内バクロフェン治療といって、背中側の腰の骨の間から脊髄のくも膜下という部分にカテーテルという細い管を設置し、おなかの皮下に埋め込んだポンプから持続的に薬を注入して痙縮を抑えるという治療も行われています。
- 補装具・座位保持装置(ざいほじそうち)・車いすの処方
必要に応じて、立ったり歩いたりするときに補助となる下肢装具(図1、図2)や杖、食事を摂るときに用いる自助具(じじょぐ)、安定した座位をとるための座位保持装置(図3)、クッション、車いす(図4)などの作製を行います。
図1.下肢装具の例(金属支柱付き短下肢装具)
図2.下肢装具の例(プラスチック短下肢装具)
図3.座位保持装置の例(左) 図4.車椅子の例(自走式普通型車椅子)(右)
- 摂食・嚥下に対する治療
飲み込みに問題があるような場合は、X線透視を用いた嚥下造影(えんげぞうえい)という検査を行い、安全に摂取できる食事の形態や食事時の姿勢などのアドバイスを行います。
二分脊椎
二分脊椎は先天性の脊椎(背骨を形成する骨)および脊髄の障害で、障害が脊椎だけでなく、その中の脊髄まで及んでいると、両下肢の麻痺や排尿、排便機能の障害を生じます。
この疾患では症状が全くない場合もあります。症状が現れる場合は、出生時から下肢の運動障害、知覚障害、排泄の障害などが様々な程度で起こり、脳の障害を伴う場合もあります。
また、成長とともに関節変形などの二次的な障害が発生したり、知的発達の問題が発生したりします。そのため、お子さんの症状に応じて治療を受けることが必要になります。
脊髄のどの部位が障害されているかによって、麻痺の程度が異なるため、まず麻痺のレベルや合併症状について診察、評価を行います。代表的な治療は以下のようなものがあります。
- 理学療法
麻痺の程度や運動発達に応じて、発達を促すような訓練や、残されている機能(上肢の筋力など)を高める訓練、日常生活動作の訓練を行います。 - 補装具、車いす処方
歩行の補助のために下肢装具や歩行器、杖を処方することがあります。また、成長とともに筋のアンバランスのために関節の変形や脱臼が進むことがあるため、その矯正のために装具を使用することもあります。知覚障害のために傷や床ずれを作ることがあるため、装具やクッションを工夫することもあります。
股関節の麻痺性脱臼などに対して、必要に応じて整形外科で手術を行うこともあります。 - 排泄の障害の評価と指導
問題のある場合は、排尿・排便管理について指導を行います。
その他の疾患
疾患ごとに詳細は異なりますが、基本的には始めに診察、評価を行って障害の状態を把握し、問題点を拾い上げてそれに対する訓練、薬物、装具療法などを行っていきます。
小児期に障害を来す疾患の経過は、
- 脳性麻痺など「発達がゆっくりの疾患群」、
- 頭部外傷、脳炎などの「急激な機能低下ののち、再びゆっくりと発達する疾患群」、
- 筋ジストロフィーや先天性代謝異常症など「機能がゆっくりと低下していく疾患群」、
- 多発性硬化症、ミトコンドリア病などの「良くなったり悪くなったりを繰り返しながら次第に機能が低下していく疾患群」、
- 難治性てんかんなど「良くなったり悪くなったりを繰り返しながらも発達していく疾患群」
の大きく5つに分けられます。
リハビリについては、障害の存在を前提に発達を促し、生活の充実をはかっていきますが、上記のそれぞれに対して、1では発達を促す、2では回復および発達を促す、3では機能の低下をできるだけ遅らせる、4では悪くなるときの機能低下を最小に、回復するときの機能を最大にして機能低下を遅らせる、5では悪くなるときの機能低下を最小に、回復するときの機能を最大にして発達を促す、といった配慮のもとアプローチをしていくことになります。
障害そのものは治せないかもしれませんが、生活をより良いものにするために、リハビリという分野が日々取り組んでおります。
慶應義塾大学病院での取り組み
大学病院という病院の性格上、当院では上記に挙げられるような疾患のお子さんの外来診療とともに、小児科や小児外科に入院して治療を受けている先天性疾患や腫瘍性疾患のお子さん、術前術後のお子さんに対して、発達の援助や治療合併症の予防・改善、治療に伴う活動量の低下による筋力・体力低下と日常生活動作の困難感の予防・改善などの目的で、様々な動作訓練、呼吸訓練、飲み込みや言語の訓練なども行っています。
さらに詳しく知りたい方へ
- 臨床リハビリテーション 小児リハビリテーション1・2 / 岩谷力ほか編
東京 : 医歯薬出版, 1990.4-1991.6
小児リハビリテーション診療で出会うことの多い疾患をとりあげ、今日におけるこれらの疾患の自然経過と包括的医療の実際を述べ、リハビリテーション医療での治療指針を示しています。
- 小児リハビリテーション医学. 第2版 / 栗原まな著
東京 : 医歯薬出版, 2015.6
小児のリハビリテーションに関わるコメディカルスタッフを念頭におき、小児のリハビリテーションの分野で非常に多く見られる発達障害や、脳外傷、脳炎・脳症について特に詳細に記載した本です。
文責:
リハビリテーション科
最終更新日:2022年01月24日