先天性横隔膜ヘルニア
概要
後側方裂孔(ボホダレク孔ヘルニア)
通常は、胎生(お腹の中にいる)8~10週に胸腹裂孔膜(きょうふくれっこうまく)にて胸、腹部が区切られますが、このタイミングが遅れて、お腹の臓器が胸へ入り込むことにより発生するといわれています。また肺低形成から起こるという説もあります。85%が左側、残りは右または両側に現れ、85%が無嚢性(袋を持たないこと)です。最近ではほとんどが出生前に診断されます。
ほかの先天性横隔膜ヘルニアには、傍胸骨裂孔ヘルニア(右;モルガニー孔ヘルニア 左;ラリー孔ヘルニア)、食道裂孔ヘルニ アなどがあります。
先天性横隔膜ヘルニアは、出生児2,500~5,000に1例の割合で発症します。腸回転異常以外はほかの合併奇形は少ないです。。
症状
【出生前】
羊水が非常に多い(消化管の捻じれ、圧迫によるもの)ことや、胎児超音波、CT、MRIにて心臓の一方向への偏位、胸腔へのお腹の臓器の入り込みがみられます。
鑑別診断:肺の疾患の先天性嚢胞状腺腫様形成異常 (CCAM)があります。
【出生後】
お腹が小さく陥凹していたり、胸部の膨らみがみられます。胸部レントゲン上、心臓・縦隔の脱出のない側への偏位、胸腔内の胃・腸のガス像が特徴的です。また、肺低形成と新生児遷延性肺高血圧症により、呼吸障害が出現します。
治療
通常、全身状態の安定化を図って48~72時間にて手術をします。
お腹から行う方法(左肋骨弓下切開):大腸、小腸を順に引き出した後に胃を引き出します。脾臓は最後に引き出しますが、裂けないように注意が必要です。引き出した後は横隔膜に開いた孔(あな)を閉じます。(下図参照)
欠損孔が大きくて寄らないときは、ゴアテックスという人工のシートを使ってパッチをあてて閉鎖します。(下図参照)
術後管理
術後は集中治療室で全身状態を管理します。母親と一緒に搬送し、出生後できるだけ早く安定化を図ります。これにより新生児遷延性肺高血圧症をできるだけ防ぎます。
出生直後から筋肉を弛緩させる薬、鎮静剤を注射して、気管にチューブを挿管します。鼻から胃管を挿入して、できるだけ胃・腸へ空気が入ることを避け、胸に脱出した腸が心臓、反対側の肺を圧迫するのを防ぎます。呼吸管理は肺に優しいHFO (少し膨らませた状態で非常に頻回の振動にて二酸化炭素を排出する)という人工呼吸器にて行います。薬としては、筋肉を弛緩させる薬や、血圧を上げる薬、肺血管抵抗を下げる薬を使います。それでも安定しないときはNOというさらに肺の血管抵抗を下げる薬の吸入を考えます。最終的に呼吸状態が落ち着かないときは人工肺(ECMO)を使用する場合もあります。
文責:
小児外科
最終更新日:2020年10月21日