口唇口蓋裂
口唇口蓋裂は、上口唇（うわくちびる）の皮膚や筋肉、口蓋（口と鼻の腔を隔てる上蓋の構造）に裂（割れ目）が生じたものです。口唇にできる裂を口唇裂、口蓋にできる裂を口蓋裂と呼びます。口唇裂・口蓋裂のどちらか一方だけにできる場合もあれば、両方が合併する場合もあります。また、左右のどちらか一方に裂がある場合と、両側に裂がある場合とがあります（図１，２）。さらに裂の程度についても、一部で連続性が保たれている不完全裂や、組織の連続性がない完全裂など様々です。
口唇口蓋裂は、胎生期に起こる口唇や口蓋組織の癒合がなんらかの原因で不完全になることによって生じると考えられています。
患者さんの大部分は様々な要因が複雑にからみあって発現する（多因子遺伝）と考えられており、特に特定の原因があるわけではありません。統計上では、口唇口蓋裂のお子さんは、500人に1人ぐらいの割合で生まれるといわれています。
口唇口蓋裂が直接生命に危険を及ぼすことはありませんが、哺乳障害（ミルクが飲みづらい）、構音障害（言葉の発音がしづらい）などの機能的な問題や、裂（割れ目）があることによる整容的な問題（見た目の問題）が生じます。それらを治すためには、以下のように段階的な手術治療が必要となります。
口唇裂鼻形成術
麻酔が安全にかけられる出生後2～3か月の時期に初回手術である口唇裂鼻形成術を行います。手術前に口蓋床と呼ばれるマウスピースを作製し装着することで、歯ぐきの矯正、哺乳の補助を行います。口唇裂の患者さんは、口唇の裂と同時に鼻の変形も認めますので、これらを1回の手術で治します。図の通り、なるべく左右対称となるように、なるべく瘢痕（きずあと）が残らないように手術を行います。
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術前 | 術後 |
図１．片側完全唇顎口蓋裂
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術前 | 術後 |
図２．両側完全唇顎口蓋裂
口蓋裂手術
口蓋裂の手術は生後1歳～1歳半の時期に行います。この手術の主な目的は口蓋裂を閉鎖し構音機能（ことばをうまく発音する能力）を改善することです。口唇裂のみで口蓋裂を認めない患者さんにはこの手術は行う必要がありません。
顎裂骨移植術
永久歯が生える時期になっても顎裂（歯ぐきの割れ目）が大きく、歯並びの矯正ができない場合には、骨の移植手術を行う場合があります。小学校高学年の時期に手術が必要かどうかの診断を行います。
上記の手術治療が基本ですが、その他に成長に伴って組織のバランスを整える必要が生じた場合の修正の手術、上顎（上あご）と下顎（下あご）の位置関係を改善するための骨の手術、口唇口蓋裂に伴う鼻の変形を修正するための手術などを患者さんの成長に合わせて治療を行うことがあります。
このように、口唇口蓋裂治療では長期的な専門治療が必要になります。慶應病院では、経験豊富な形成外科医が、歯科・小児科・耳鼻咽喉科・麻酔科医師などと協力しながら、お子さんの成長が終わるまでの間、診療にあたらせていただきます。
口唇口蓋裂についてご相談のある方は、まずは下記外来にてご相談ください。
担当：岡部圭介（木曜・金曜午前）、矢澤真樹（水曜午前）、坂本好昭（木曜午前・土曜午前）
さらに詳しく知りたい方へ
- よくわかる子どものための形成外科 / 中島龍夫編 大阪 : 永井書店, 2005.3
- 宮本純平ほか.【口唇裂における上口唇の最終形態】 われわれの口唇裂初回手術のデザインの変遷 健側人中稜に対称な創痕を目指して.形成外科.49.p.493-501(2006).
- 宮本純平ほか.宮本純平ほか.【口唇裂における上口唇の最終形態】 われわれの口唇裂初回手術のデザインの変遷 健側人中稜に対称な創痕を目指して.形成外科.49.p.493-501(2006).形成外科.50.p.261-271(2007).
- 目で見る口唇裂手術 / 中島龍夫著 東京 : 全日本病院出版会, 2010.4
文責：
形成外科
最終更新日：2017年2月24日
