胆道がん(肝外胆管がん、胆嚢がん)
概要
胆管は、肝臓の中にある肝内胆管と、肝臓の外から十二指腸までを結ぶ肝外胆管とに分けられます。肝外胆管の途中から、胆汁の一時的な貯蔵庫である、胆嚢が枝分かれしています。肝内胆管にできたがんは胆管細胞がんとして、肝細胞がんと一緒に取り扱われます。胆道がんは肝外胆管に発生するもので、胆管がんと胆嚢がんに分類されます。日本においてこのがんによる死亡率は徐々に増加しつつあります。男性では胆管がん、女性では胆嚢がんが多いとされ、60~70歳代が好発年齢です。
症状
早期の胆管がん、胆嚢がんでは症状がないことが多く、進行した時の最初の症状としては腹痛や腹部違和感、全身倦怠感などがみられます。腫瘍が胆管を閉塞して黄疸を来すようであれば、皮膚のかゆみ、灰色~白色の便、褐色尿が出現します。同時に感染が起きると、発熱や腹痛が認められます。
診断
胆嚢がんの深達度診断には腹部超音波や超音波内視鏡を用います。またCT、MRI、血管造影を行い病変の位置のほか、肝への直接浸潤や肝内転移、肝門部や十二指腸・結腸への浸潤、リンパ節および遠隔転移、腹水の有無を確認します。切除可能と判断されれば腫瘍の進展様式に合わせて術式を決定します。
上部および肝門部胆管がんにおいても、まず各種画像診断で病変の位置、進展度、肝浸潤や肝内転移、壁外浸潤(門脈および動脈への浸潤の有無)、リンパ節および遠隔転移、腹水の有無を確認します。切除可能と判断された場合は、ほとんどの症例で閉塞性黄疸を発症しているため術式を考慮したうえで、残肝予定側から内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic naso-biliary drainage:ENBD)または経皮経肝胆道ドレナージ(percutaneous transhepatic biliary drainage:PTBD)を行います。黄疸の改善後に胆道造影を行い、病変の進展範囲を同定すると最終的な肝切除術式が決定します。
中下部胆管がんでも同様に診断を進めますが、特に膵浸潤の有無が重要です。
なお、胆嚢がんや胆管がんでは術前に門脈塞栓術を行うことがありますが、適応としては肝門部胆管がんのほか、上~下部胆管がん、胆嚢がんのうち肝門部への浸潤が疑われ、肝拡大右葉切除や肝膵十二指腸切除が予定術式の場合などが挙げられます。これは腫瘍の位置によっては肝臓の切除量が多くなることがあり、残存予定の肝の体積が小さいと術後に肝不全となりえます。一旦肝不全に陥ると救命が困難であることが多いため、切除予定領域の門脈を塞栓することで同部の肝萎縮と、残存予定領域の代償性肥大を図り、肝切除の適応拡大および術後の肝不全対策としています。方法としては局所麻酔を用いて超音波ガイド下で目的とする門脈内にカテーテルを進め、門脈造影後に塞栓する経皮経肝門脈塞栓術(percutaneous transhepatic portal vein embolization:PTPE)と、全身麻酔下で右下腹部の小開腹を行った後に回結腸静脈の分枝から門脈に到達し、目的門脈を塞栓する経回結腸静門脈塞栓術(transileocolic portal vein embolization:TIPE)があります。現在、慶應義塾大学病院ではPTPEを選択することが多くなっています。門脈塞栓術による合併症としては出血や血腫、血管および胆管損傷、胆管炎、肝機能障害などが挙げられます。
治療
1.手術可能症例に対する治療
肝外胆管がん、胆嚢がんに対して根治を目指す治療法は手術のほかにはありませんが、腫瘍の存在部位および進展様式により術式は多岐に分かれます。また、肝外胆管は、肝十二指腸間膜という肝臓と膵臓・十二指腸の間にある間膜内に存在し、この肝十二指腸間膜内には、門脈や肝動脈という重要な血管も走行しています。そのため、ほかの臓器がんに比べると、根治術のために重要な血管を合併切除することが多くなります。
肝外胆管は肝門部、上部、中部、下部の4つに区分され、それぞれにがんが発生します。肝門部胆管と上部胆管がんでは、胆管に沿った進展範囲と各脈管の位置関係で肝切除の範囲が決定されますが、多くの場合は肝臓を左右どちらか半分を、またはそれ以上を切除する手術となります。中部胆管がんでは、進展範囲により、肝外胆管切除から肝膵十二指腸切除までの術式が考えられますが、多くは膵臓と一緒に切除します。下部胆管がんおよびファーター乳頭部がんに対しては、幽門輪温存膵頭十二指腸切除が標準術式となっています。
胆嚢がんに対する手術術式は、進行度によって大きく異なります。腫瘍が胆嚢壁内にとどまっている場合は、胆嚢を切除するだけで良好な予後が得られます。一方、胆嚢の壁を越えたがんにおいては、腫瘍の主座や肝浸潤、胆管浸潤の形式によって肝切除や肝外胆管切除、リンパ節郭清を追加することが必要となります。進行胆嚢がんにおいて、多く施行される術式は拡大胆嚢摘出術であり、これは胆嚢を含めて隣接する肝臓の一部とリンパ節を一緒に切除する方法です。胆嚢がんが肝臓に広範囲に浸潤している場合は、肝臓の右葉を切除する必要が生じ、また総胆管にがん浸潤が認められる場合は、肝外胆管切除が必要となる場合もあります。膵頭部や十二指腸に強い浸潤を認める場合は、膵頭十二指腸切除が施行される場合もあります。
2.手術適応のない症例に対する治療
切除不能の胆道がんや非治癒切除例、再発例に対しては抗がん剤治療が検討されます。現在、国内で保険適用となっている治療には、ゲムシタビン(ジェムザール®)単独、S−1(TS−1:ティーエスワン®)単独、そしてゲムシタビン+シスプラチン併用療法があります。いずれの治療も基本的には入院の必要はなく、外来で続けていくことが可能な治療です。このうちゲムシタビン+シスプラチン併用療法に関しては、予後延長効果についてゲムシタビン単剤と比較した臨床試験にて、有意に予後の改善が示され、第一選択の標準治療として考えられています。しかし、抗がん剤治療では副作用が問題になることも少なくなく、症例ごとに年齢や臓器障害の有無、全身状態などを考慮して治療方針を決定しています。