病気を知る

認知症

概要

認知症とは

認知症は、脳や身体の病気が原因で、「いったん正常に発達した認知機能(記憶、注意、判断力、言語能力など)に障害がみられ、社会生活に支障を来した状態」と定義されます。認知機能に障害はあるものの、社会生活はある程度送れる状態、つまり認知症の前段階を「軽度認知障害(MCI)」といいます。

間違いやすい点として、加齢に伴って出現するもの忘れが挙げられます。これは、脳の神経細胞の減少という通常の老化に伴って出現するもので、個人差はありますが、誰にでも起こり得るものです。これに対して、認知症や軽度認知障害は、何らかの疾患が原因となり、通常の加齢プロセスよりも速く神経細胞が減少してしまう「脳の病気」といえます。

厚生労働省の推計によれば、2025年時点で65歳以上の認知症患者数は約472万人、軽度認知障害(MCI)の高齢者数は約564万人にのぼるとされ、認知症は医療・介護の枠組みを超えて社会全体で取り組むべき重要な課題となっています。2024年には認知症基本法が施行され、認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を発揮し、相互に尊重しながら共生する活力ある社会(共生社会)の実現に向けた取り組みが進められています。

症状

認知症の症状は、「認知機能障害」と「行動・心理症状(BPSD)」に分けられます。

認知機能障害

記憶障害を含む認知機能の障害は、多くの認知症に共通する症状です。認知症患者さんでは、最近の出来事を忘れる傾向が強く、過去の重要な出来事は比較的よく覚えていることが少なくありません。進行すると、出来事だけでなく、人の名前や顔を忘れてしまうことがあります。また、私たちの認知機能には注意、判断力、言語能力、遂行機能(目標に到達するために計画的かつ臨機応変に行動する能力)など、生活に欠くことのできない様々な能力が含まれます。認知症では、これらの認知機能に障害が起こります。

行動・心理症状(BPSD)

認知症の行動・心理症状(BPSD)とは、認知症の進行とともに起こる、認知機能障害以外の日常生活上の支障となる様々な症状のことをいいます。必ずしも全ての患者さんにみられるわけではありません。

  • 妄想
    財布や通帳を誰かが盗んだ、または隠したという「もの盗られ妄想」がよくみられ、身近な介護者が対象となることが少なくありません。また、「近所の人が嫌がらせをしている」というような被害妄想が起こることもあります。
  • 幻覚
    「亡くなったはずの兄がそこに立っている」、「子供が家の中を走り回っている」というような幻覚(幻視)がみられることがあります。また、「誰かがラジオを流している」というような幻聴が起こることもあります。
  • 徘徊
    無目的に彷徨い歩くこともあれば、どこかへ行こうとして迷ってしまうこともあります。
  • 気分症状・無気力(アパシー)
    抑うつ気分、意欲の低下、興味の喪失、食欲不振などが出現します。特に、無気力はアパシーとも呼ばれ、認知症の人のほとんどが経験する症状といわれます。アパシーでは抑うつ気分は目立たない一方で、ひたすら何もせずにぼーっとしているようになります。
  • 睡眠障害
    入眠が困難となったり、短時間で起きてしまったりする状態です。昼夜逆転を引き起こすため、日中は眠りがちで、夕方から夜間にかけて活動的となることがあります。
  • 食行動の異常
    食事をとった直後や深夜に食事を求めたり、食べられないもの(紙、金属類)を口に入れる異食がみられたりすることがあります。
  • 易怒性、攻撃性
    介護者による注意や助言に対して、感情を爆発させることがあります。特に、暴言や暴力がみられる場合には、介護にとって大きな妨げとなります。

原因となる疾患

認知症は、単一の病気ではなく、様々な原因によって記憶障害や認知機能の低下をもたらす「症候群」です。

アルツハイマー型認知症

認知症の原因として最も多い疾患で、認知症患者さんの約2/3を占めます。記憶障害や認知機能障害が時間をかけて徐々に進行するという経過が特徴です。初期には、麻痺や歩行障害などの運動症状はみられません。

レビー小体型認知症

認知障害に加えて、具体的な幻視(小動物がありありと見える)などの精神症状や、動作緩慢、手足の震え、歩行障害などのパーキンソン症状が出現します。しばしば日内変動がみられ、一日の中で症状が重くなったり軽くなったりします。

パーキンソン病

動作や思考が緩慢となり、手足の震え、歩行障害などがみられます。パーキンソン病の30~40%に認知症が合併すると報告されています。

前頭側頭型認知症

脳の前方に位置する前頭葉は、様々な認知機能を制御し、統合する「より高次の」認知機能を担っています。前頭側頭型認知症では、この部位に萎縮や機能低下が起こり、人格変化(以前より怒りやすくなった)、常同行為(同じ行動を繰り返す)、過剰なこだわり(毎日同じスケジュールで行動する)などが出現します。進行するにしたがって、記憶障害が加わっていきます。

脳血管性認知症

脳の血管の障害が主な原因となって起こる認知症を指します。比較的大きな脳梗塞によって生じるタイプの脳血管性認知症では、典型的には脳梗塞発作に随伴して階段状に認知機能低下が進行します。一方で、脳血管性認知症で最も多いのは「小血管病性」といわれるタイプです。これは、細動脈という非常に細い脳の血管が広範に動脈硬化を起こすことで徐々に発症します。

内分泌・代謝性中毒性疾患

甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症、肝性脳症、ビタミン欠乏症(ビタミンB1、B12、ニコチン酸)、アルコール脳症などでも、認知症と同様の状態がみられることがあります。

感染症

ウイルス性脳炎、クロイツフェルトヤコブ病やHIVなどの感染症によって脳の組織が障害されて、認知症となることがあります。

外傷性疾患

慢性硬膜下血腫:転倒などによって頭部を打撲した後、数日から1か月くらい経過して、頭痛、歩行障害に加えて、認知症と同様の状態を呈することがあります。

診断

問診

患者さんの実際の症状と生活状況を把握することが、認知症の診断にとって最も重要であるといえます。「いつごろから、どのようにして症状が出てきたのか?」、「実際の生活にどのような支障をもたらしているか?」、「今までにかかったことのある病気は?」といった質問は、診察の際に必ずといっていいほどきかれるでしょう。認知症患者さんは、自分の病状をよく把握していないことがあり、また記憶障害が顕著な場合などには実際の生活状況をご家族や介護者からしか伝えられないこともあるため、近しい方と一緒に受診されることをおすすめします。

神経心理検査

神経心理検査とは、要は認知機能をみる検査です。認知症にみられる記憶障害や認知機能の低下を客観的に評価するための種々の検査が考案され、実用化されています。改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やミニメンタルステート検査(MMSE)は、簡便で患者さんの負担も少ないため、外来診察の中で行うことが可能です。ほかに、様々な記憶検査、失語症検査、注意に関する検査、前頭葉機能検査などの詳細な検査があり、症状に合わせて調べます。

神経学的検査

パーキンソン症状などを含む運動機能などに関する神経症状の有無を調べます。

画像検査

  • 頭部MRIまたはCT
    脳の萎縮や脳室の拡大など、脳の形態的異常を調べる検査です。
  • SPECTまたはPET
    脳血流量、酸素消費量、ブドウ糖消費量など、脳の機能的異常を調べる検査です。
  • アミロイドPET
    アルツハイマー型認知症の原因物質とされる「アミロイド」を可視化する検査です。

血液検査

生活習慣病などを含めた、認知症の原因となり得る身体疾患の有無を検査します。

その他の検査

脳波検査、心筋シンチグラフィー検査など。

治療

治療可能な認知症

甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症などに伴う認知症は、原因となる疾患の治療によって認知症の症状が改善する可能性があります。

進行予防

残念ながら、多くの認知症では認知機能障害を「治す」ことはできません。しかし、進行を遅らせることはできます。特に、アルツハイマー型認知症では、早期からお薬(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)を服用していただくことによって、認知症症状の進行を遅らせることが可能です。加えて、2023年12月から、「抗アミロイド抗体薬」と呼ばれる薬が認可されました。これは、アルツハイマー型認知症の原因物質とされる「アミロイド」を除去する薬です。詳細はKOMPAS「アルツハイマー病の新しい治療 ~アルツハイマー病の原因物質、アミロイドβを取り除く薬剤~」をご覧ください。加えて、薬物療法以外でも、運動療法などの「非薬物療法」が認知症の進行予防に役立つことが知られています。2025年には我が国から非薬物療法に関する指針も出ています(ヘルスケアサービス利用者・事業者も使用可能な認知症に対する非薬物療法指針)。今のところ認知症を完全に治療するような治療法はありませんが、今後はいくつかの新薬が期待されています。

行動・心理症状(BPSD)に対する治療

心理的(自分の思った通りにいかないことへのストレスなど)・身体的(痛みや痒みがあるなど)な要因から行動・心理症状(BPSD)がみられることがあるため、まずそのような原因がないか探ります。また、症状に合わせて最小限の向精神薬を用いることもあります。

生活・介護上の注意点

認知症は本人だけでなく、家族も長くつきあわなければならない疾患で、近年では介護者の方への負担が大きいことが問題となっています。そのため、デイケア、デイサービス、訪問看護、訪問介護、ショートステイなどのサービスも利用しながら、ご家族にとってできるだけ負担の少ない介護環境を整えることが大切です。親や配偶者が認知症になると、無理をしてもできるだけのことをしようとしがちです。

慶應義塾大学病院メモリークリニックについて

慶應義塾大学病院では、精神・神経科と神経内科が合同で、認知症の診断・治療に特化した専門外来「メモリークリニック」を開設しています。もの忘れが気になる方の早期診断から、中等度以上の認知症の患者さんの病状評価や長期的な治療方針のご相談まで対応しています。また、様々な研究が進行しており、最新の研究に参加することができます。詳しくはメモリークリニックのウェブサイトをご覧ください。

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