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ホーム > 病気を知る > 肝臓と胆嚢とすい臓の病気 > 自己免疫性膵炎

自己免疫性膵炎

じこめんえきせいすいえん

概要

自己免疫性膵炎(Autoimmune pancreatitis:AIP)は、1995年に初めて提唱された比較的新しい病気です。日本人に多い疾患であり、自己免疫による炎症で膵臓がソーセージのように腫れ上がり、中を通る膵管が細くなったり、胆汁の流れ道の胆管が詰まったりしてしまうことで目が黄色くなることもあります。IgG4関連疾患の一つであり、IgG4関連疾患は膵臓以外に、胆管、涙腺、唾液腺、腎臓、後腹膜腔、肺、動脈など様々な臓器にIgG4という抗体の一種を発現した細胞が浸潤し、臓器の腫大や肥厚がみられる原因不明の疾患です。ステロイドの治療で病状を改善させることができますが、治療中止により再発することも多い難治性疾患の一つです。

症状

「膵炎」というと、ひどい痛みが出る印象があるかもしれませんが、「自己免疫性膵炎」は慢性的な疾患ですので、あまり症状が出ません。どちらかというと膵臓が炎症を起こして腫れ上がることで、胆汁の流れ道をふさいでしまい、黄疸になって見つかる方が半数です。背中の痛みや体重の減少、食欲不振、体のだるさ、糖尿病の悪化などの症状から調べて見つかることがあります。また膵臓以外の臓器が炎症を起こして腫れることがあるため、他のIgG4関連疾患が先に見つかってから膵臓の病気が発見されることがあります。詳しくは、IgG4関連疾患をご参照ください。

診断

1)画像検査

超音波検査、CT検査MRI検査などで診断をします。さらに超音波内視鏡検査を使うことで、膵臓をより精密に評価することが可能です。膵臓が自己免疫による炎症によってソーセージ様に腫れてしまい、膵臓の周りに炎症に伴う被膜様の構造物がみられます。通常膵臓は厚さが2cmほどですが、炎症と浮腫により3cm以上太くなることがあります。

2)採血検査

膵酵素、肝胆道系酵素、自己免疫性膵炎に特徴的なIgGやIgG4の上昇を確認します。また、膵臓以外の全身臓器に炎症が広がっていることがあるため、各種精査を進めます。

3)超音波内視鏡下穿刺吸引検査

ガイドラインに則り、画像と採血検査で多くの症例は診断が可能であり、その結果で治療を開始します。しかし、膵臓がんと同じように見えてしまう患者さんもいらっしゃるので、確定診断のためにEUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)を用いて膵臓組織を吸引して病理組織検査をすることもあります。

図1.自己免疫性膵炎 FNA検査での診断

図1.自己免疫性膵炎 FNA検査での診断

治療

自己免疫性膵炎はIgG4関連疾患の中では最も多く見つかることと、黄疸を起こしたり、無治療で炎症が長引くと糖尿病や栄養失調を伴う「慢性膵炎」という生活に大きな支障が出る疾患になってしまうことがあります。そのため、他のIgG4関連疾患の中でも症状が乏しくても治療導入が推奨されます。

1)ステロイドによる治療

自己免疫性膵炎にはステロイドの治療が大変有効です。体重1kgあたりプレドニゾロン0.6mgの量、つまり50kgの方は1日30mgより治療を開始して徐々に減らしていきます。中止すると再発する患者さんが多いため、少ない量で3年を目安に治療を継続するのが一般的です。ステロイドの効果が不十分な「ステロイド不応」である場合や、ステロイドを減らすと病状が悪化する「ステロイド依存性」の状況になった場合には、免疫抑制剤やその他の特殊な治療を検討する必要があります。

2)内視鏡による治療

また、自己免疫性膵炎によって膵臓の中を通り抜ける胆汁の流れ道である胆管が詰まってしまうことがあります。その場合は内視鏡を使って胆管にチューブを挿入して流れを良くする治療をすることがあります。手術に比較すると簡便であり、症状が改善したら簡単にチューブを抜くことが可能です。また、自己免疫性膵炎にはまれですが、激しい炎症の影響で膵臓の周りに膿瘍や炎症性の液体貯留が出現することがあります。自然治療しない場合は内視鏡で胃の中から、あるいは皮膚の外からチューブを挿入して溜まった液体を除去する必要もあります。

3)治療困難症例

IgG4関連疾患も様々な病状があり、激しい炎症で重篤な状況になる患者さんや、IgG4関連疾患である大動脈炎による大動脈破裂などの危険性もあるため、患者さんによっては入院の上での集中治療を選択することもあります。また、ステロイド治療の効果がない、あるいはステロイドをやめることができないような重症の患者さんについてもリウマチ内科と共同しながら治療にあたっています。

生活上の注意

新しい疾患概念のためまだ確立したものはありませんが、改善した場合でも再び病状が悪化するという報告があるため、定期通院による経過観察を要します。普段の生活において特段注意する点はありませんが、長期の経過により慢性膵炎の状態となった場合には、慢性膵炎に準じた生活上の注意が必要となります。ステロイド治療をしている間は免疫力が低下するために、手洗いうがいを心掛けるなどの生活上の注意が必要です。

慶應義塾大学病院での取り組み

まだ分からないことが多い疾患であり、当院では、自己免疫性膵炎の患者さんの診療情報を用いた前向き追跡調査研究を実施しております。前向き追跡調査研究とは、検査内容を詳細にデータとしてまとめ、自己免疫性膵炎の患者さんの病態、治療の実態および長期予後を明らかにするのを目的として、経過を観察していく研究です。さらに、自己免疫性膵炎の患者さんは膵臓へのダメージにより膵液分泌が減り、消化不良を来すことや長期経過後に膵臓が小さくなり(萎縮して)、膵石などができて慢性膵炎になることがあります。そこで臨床研究で膵液分泌を評価するために、5分で計測できるシネダイナミックMRI膵液流検査を行っています。興味のある方はぜひご参加ください。

当院は世界でも有数の炎症性腸疾患の専門施設です。炎症性腸疾患と自己免疫性膵炎の関連も指摘されており多くの患者さんの対応をしています。原因不明の自己免疫性膵炎患者さんの精密検査も積極的に対応しております。

また、当大学は厚生労働省難治性膵疾患調査研究班の分担研究者を担当しており、全国的なレジストリ研究、IgG4関連消化管疾患の臨床研究などを担当しております。

さらに詳しく知りたい方へ

  • 自己免疫性膵炎診療ガイドライン2020外部リンク(一般社団法人 日本膵臓学会)
  • 自己免疫性膵炎、IgG4関連疾患ともに、一部の患者さんが治療の助成を受け取れる難病に指定されています。難病の指定基準については定期的に変更されます。主治医の先生に相談するか、以下難病情報センターのサイトをご確認ください。
    IgG4関連疾患(指定難病300)外部リンク(公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター)
  • 以下日本消化器病学会のサイトでも分かりやすく解説しています。
    健康情報誌「消化器のひろば」No.14外部リンク(日本消化器病学会)

文責: 消化器内科外部リンク
最終更新日:2022年4月1日

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