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ピロリン酸カルシウム結晶沈着症(calcium pyrophosphate dehydrate deposition(CPPD)症)、偽痛風(pseudogout)

ぴろりんさんかるしうむけっしょうちんちゃくしょう、ぎつうふう

概要

ピロリン酸カルシウム結晶沈着症(calcium pyrophosphate dehydrate deposition disease。以下、CPPD症)は、ピロリン酸カルシウム結晶が関節内に析出して炎症が起こる関節炎の総称です。一般的に偽痛風(acute pseudogout)と言われている関節炎は、このCPPD症の中でも急激に関節炎を起こして、痛風と似た経過をたどるものを指しています。X線写真では、関節に石灰化がみられることが多く、慢性の経過で関節炎を起こすこともあります。

本疾患の原因となるピロリン酸カルシウム結晶は、血液中の無機ピロリン酸濃度は高くなくても、関節局所でこれらが過剰に存在することで結晶化し、沈着すると考えられています。膝関節や手関節によくみられますが、ほかに肩関節、足関節、あるいは椎間板や黄色靱帯でもみられることがあります。

痛風では圧倒的に男性に多く罹患するのに対して、この病気では男女差がありません。60歳以上で発症することが多く、60歳でこの病気である方は7~10%程度です。この病気は、変形性関節症という加齢に伴った関節の変形が最も重要な要因と考えられていますが、55歳以下の比較的若い年齢の方では、遺伝性疾患、代謝性疾患(副甲状腺機能亢進症、ヘモクロマトーシス、低マグネシウム血症、低リン血症)等が偽痛風の原因として隠れていることがありますので、これらの病気の除外のために血液検査や画像検査が必要になることもあります。また、膝の半月板を切除した後の膝関節に偽痛風がみられることがあり、外傷や手術との関連性も知られています。

症状・病型分類

以下の臨床分類が提唱されています。

表1.CPPD症の臨床病型分類 (Arthritis Rheum.19(Suppl3):275-85,1975の表を引用)

type A:

急性偽痛風発作

type B:

偽関節リウマチ

type C:

偽変形性関節症(発作あり)

type D:

偽変形性関節症(発作なし)

type E:

潜伏性あるいは無症候性

type F:

偽神経障害性関節症

その他 

偽リウマチ性多発筋痛症など

約半分の患者さんが軟骨への石灰化のみで症状がないtype Eとされています。その他の関節の痛みや腫れの症状をおこすものとして、以下の様に大きく3つのタイプに分けられます。

  1. 偽痛風発作
    病型分類のA型にあたる急性偽痛風性関節炎(いわゆる偽痛風)は、約25%です。痛風様の急性関節炎・関節周囲炎(偽痛風発作)をおこしますが、症状の全くない時もあります。典型的には、高齢者の膝などの大関節に単独でみられることが多く、手、足、肘、肩、股の関節などにもみられます。特殊なものでは、頚椎歯突起周囲のピロリン酸カルシウム結晶沈着によっておこる偽痛風発作で、頭痛や発熱などを伴うことがあり、軸椎歯突起症候群(crowned dens syndrome(CDS))といわれているものがあります。

  2. 偽変形性関節症
    病型分類のC型とD型にあたり、CPPD症では、関節へ結晶が沈着した結果として変形性関節症の変化がしばしばみられます。この中で、一過性の激しい急性関節炎発作があるものをC型、ないものをD型と分類します。進行すると膝関節などに特徴的な骨増殖、骨摩耗、関節変形をX線撮影上確認できるようになります。

  3. 偽関節リウマチ
    病型分類のB型にあたるものです。頻度としては稀ですが、4週間から数カ月に渡って(亜急性)いくつかの関節に関節炎がみられます。X線写真では骨棘といわれる変形性関節症に伴う変化はみられますが、関節リウマチに典型的な骨びらんはありません。また、発熱や炎症反応が高値になることもあります。高齢発症の関節リウマチ、回帰性リウマチ、化膿性関節炎、痛風、血管炎症候群、悪性腫瘍などとの区別が難しい例もあります。

診断

CPPD症の診断基準は、McCartyらによって1963年に最初に提唱されました。その後、1981年Martelらによって新しい診断基準が提唱されたものが以下です。

表2.CPPD結晶沈着症の診断基準

I

X線回析または化学分析によるピロリン酸カルシウム結晶の証明

II

  1. 補正偏光顕微鏡により弱い正の複屈折性を示す三斜晶系、単斜晶系結晶の確認(関節液または切除標本中)
  2. X線上の典型的な石灰化像(線維軟骨、関節軟骨、関節包の点状・線状の石灰化)

III

  1. 急性関節炎(とくに膝などの大関節に見られる。高尿酸血症の合併は問わない。)
  2. 慢性関節炎(とくに膝、股関節、手首、手根骨、肘、肩、中手指節(MCP)関節の関節炎が急な悪化を伴う場合。OAと鑑別する際に有用なのは下記の特徴である:)
    1. 通常、一次性OAがまれな部位の関節炎(手首、MCP関節、肘、肩)、
    2. 橈骨手根関節もしくは膝蓋大腿関節の関節裂隙狭小化(膝側面X線像でpatella wrapped around the femur(大腿骨に巻き付いた膝蓋骨)といった特徴を示す膝蓋骨上方の大腿骨皮質のびらん像)
    3. 軟骨下嚢胞
    4. 軟骨下の骨の陥没を伴う重度の進行性変性や、関節内X線不透過体を伴う断片化
    5. 変化しやすい骨棘形成
    6. 腱石灰化(とくにアキレス腱、三頭筋・閉鎖筋腱)
    7. 体軸骨格病変、骨端・仙腸関節の軟骨下嚢胞、複数の椎体の椎間板石灰化や真空現象、仙腸骨の真空現象

判定

a : definite

 ――― 

IまたはIIa+IIb

b : probable

 ――― 

IIaまたはIIb

c : possible

 ――― 

IIIaまたはIIIb

確実な診断には、関節液中あるいは組織中にあるピロリン酸カルシウム結晶の証明が必要です。ピロリン酸カルシウム結晶の沈着(以下、CPPD)はX線(図1)や関節エコー(図2)で確認することでき、診断に有用な検査ですが、十分確定できない場合には関節穿刺を行います。

図1.膝関節の石灰化  図2.ピロリン酸カルシウム結晶の膝軟骨内沈着(左:患者さん、右:健常者)

図1.膝関節の石灰化  図2.ピロリン酸カルシウム結晶の膝軟骨内沈着(左:患者さん、右:健常者)

関節液では、偏光顕微鏡下で弱い正の複屈折性を示すピロリン酸カルシウムの結晶を証明することが重要です。この結晶は、棒状または方形で弱い正の複屈折性を示すので、針状で強い負の屈折性を示す尿酸塩(痛風の原因となる結晶)とは区別できます。

また、痛風以外に、その他の代謝性疾患との区別が重要です。血清中のカルシウム、フェリチン、マグネシウム、リン、アルカリフォスファターゼ、鉄、トランスフェリン、甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモンなどを調べます。

治療

現時点では、CPPD予防や溶解のための特効薬は残念ながらなく、痛みを和らげる対症療法が中心となります。

急性関節炎に対しては非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)が使用されます。偽痛風発作では、膝などの大関節へ水がたまり、関節液の穿刺、排液、ステロイド薬の関節内注入などもしばしば行われます。また、激しい関節局所の炎症や疼痛、多関節発作や発熱などの全身症状が出現した場合は、ステロイド薬の全身投与なども行うことがあります。

外科的な治療としては、結晶の塊を摘出するために関節内の洗浄(デブリドマン)、変形が進んだ膝関節に対しては人工膝関節置換術などが行われることもあります。また、多発性に椎間板が破壊されて痺れなど神経症状がみられるような場合には、脊椎手術も行なわれます。

慶應義塾大学病院での取り組み

本疾患は、しばしば診断が困難な場合も多いため、的確な診断が重要であると考えております。診察所見や症状の経過、検査所見を総合的に判断し、関節リウマチなど他の疾患との区別を適確に行い、適切な治療をするように心がけています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リウマチ・膠原病内科外部リンク
最終更新日:2017年2月22日

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