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胸膜中皮腫

きょうまくちゅうひしゅ

概要

胸膜中皮腫は、肺の外側や胸壁の内側を覆う膜(胸膜)(図1)から発生する悪性腫瘍(「がん」の一種)であり、その多くがアスベスト(石綿)の吸入によると考えられています。アスベストは、建材(建築物)、摩擦材(ブレーキ)、パイプ材(上下水道管)、断熱材(ボイラー)などに広く使用されていますが、肺がんや中皮腫を発症する発がん性が問題となり、日本国内においては原則的に、製造・使用が禁止されています。しかし、大量に輸入・使用された1970年から90年代の建築物の老朽化に伴い、増加する解体工事などのばく露により、今後も増加すると予想されています。

図1

図1

日本における中皮腫による年間死亡者数は、1,635人(男性1,383人、女性252人)(2021年)であり、1995年の500人(男性356人、女性144人)からの26年間で約3倍近い増加がみられます(厚生労働省発表より)。アスベストばく露から、最短で20年前後、平均40年前後で発症するといわれ、高齢の患者さんが多いです。症状が進行した場合には、胸部圧迫感や呼吸困難、胸痛などを自覚することがありますが、症状がなく検診でのレントゲン異常(胸水貯留など)で見つかることも多くあります(図2)。

治療は、病期に応じて化学療法(薬剤による治療)、放射線、手術をそれぞれ単独または組み合わせて行いますが、高齢の患者さんや治療の負担が大きいと考えられる方は無治療で経過をみることもあります。予後は、中皮腫患者さん全体での平均寿命は1年前後との報告がありますが、治療または合併症により、変化すると考えられます。悪性胸膜中皮腫の患者さんは治療費を含めた各種支援制度を利用できることがあり、中皮腫と診断された場合、労災保険や石綿健康被害救済制度の適応に関し主治医やケースワーカーと相談することをおすすめします。

症状

症状がなく、検診でのレントゲン異常(胸膜肥厚・胸水貯留など)で見つかることも多いですが、進行例では、胸の圧迫される感じ、息苦しさ、動いた時の息切れ、胸の痛みなどを自覚することがあります。

診断

胸膜中皮腫の多くが、アスベストの吸入が原因と考えられているため、建築関係、水道工事、ボイラー作業、造船業などに関与する方は定期的に検診を受けるなどの注意が必要です。胸部レントゲンCTで、胸水貯留(図2)や胸膜肥厚(図3)がある場合に、胸膜中皮腫を疑ってさらに詳しい検査をすることがあります。

図2 胸膜中皮腫のレントゲン写真とCT写真(胸水貯留例)

図2.胸膜中皮腫のレントゲン写真とCT写真(胸水貯留例)

図3 胸膜中皮腫のレントゲン写真とCT写真(胸膜肥厚例)

図3.胸膜中皮腫のレントゲン写真とCT写真(胸膜肥厚例)

確定診断のためには、病理組織検査(腫瘍や胸膜の組織を顕微鏡で専門の病理医に見てもらう検査)が必要です。診断に必要な組織を採取するため、胸膜生検を行うことが一般的です。胸膜生検は、超音波(エコー)やCTを使用しながら体の表面から直接針を刺す方法や、全身麻酔で胸腔鏡手術や開胸手術を行い、やや大きな組織を採る方法があります。時に胸水の細胞診(細胞を顕微鏡で見てもらう検査)で診断がつくこともありますが、ほかの悪性疾患(肺がんなど)との鑑別が難しいことが多く、そのような場合、胸膜や腫瘍を生検してより多くの情報を得る必要があります。(詳細は、KOMPAS検査を知る「CTガイド下肺生検」をご参照ください。)また、病気の広がりを調べるために全身のCT検査、PET/CT検査などを行い、病気の進行程度(病期)を決定し、病期に応じて治療法を検討します。

治療

治療は一般的に化学療法、放射線、手術をそれぞれ単独または組み合わせて行いますが、病気の進行程度(病期)により治療方法を検討します。また、合併症や副作用が懸念される高齢の患者さんでは、無治療で経過をみることもあります。病変が片側胸腔内にとどまる場合は合併症や肺機能に問題がなければ手術を考慮することがあります。片側の肺・胸膜、場合により横隔膜や心膜を含めて完全に切除する胸膜肺全摘術や、肉眼的に病気が認められない部分の肺を温存する胸膜切除/肺剥皮術などの方法があります。このような大手術でも完全に病変を取り除くことができないこともあるため、術前または術後に放射線や化学療法を組み合わせて行う場合もあります。

手術が困難な場合や、さらに症状が進んだ場合、合併症の問題がなく副作用に耐えられる状態であれば化学療法(抗がん剤)が行われます。従来からある抗がん剤であるシスプラチン+ペメトレキセド(アリムタ®)の2剤併用療法がこれまで一般的な治療(標準治療)でしたが、2018年8月より化学療法後に増悪した場合において、免疫療法であるニボルマブ(オプジーボ®)が使用できるようになり、2021年からは初回治療からニボルマブ(オプジーボ®)+イピリムマブ(ヤーボイ®)の免疫併用療法を行うことが可能になりました。

生活上の注意

抗がん剤の治療を受ける場合は、一般的に感染症(風邪や肺炎など)に注意が必要です。免疫力が低下している時期には、人混みへの外出、生ものを食べることを避け、発熱や下痢などがあれば、適宜、担当医に相談する必要があります。

症状を無理に我慢することで体力を消耗することがあります。必要に応じて、息切れに対する酸素療法や、痛みに対する医療用麻薬を含めた痛み止め、咳止め、去痰剤(痰きり)などをうまく使うことで体力を維持して、できるだけ通常の生活を行うことを目標にしてください。
根治できない状態であっても、適切な栄養状態を保ち、適度の運動・リハビリをすることで、より良い生活状態を長く保つことができると考えられます。

経済面に関しては、治療費を含めた各種支援制度を使用できることがあり、中皮腫と診断された場合、労災保険や石綿健康被害救済制度の適応に関し、主治医やケースワーカーと相談することをおすすめします。

慶應義塾大学病院での取り組み

標準的治療を積極的に推進しています。進行例の化学療法に関しては、専門スタッフ(がん薬物療法専門医、がん治療認定医)を中心に抗がん剤治療を安全に行うように会議をして治療方針を決定しています。
胸膜中皮腫の患者さんは高齢者が多く、同時にほかの呼吸器疾患や全身疾患を合併していることがあります。呼吸器内科・外科、放射線治療科、腫瘍センターの専門医による定期的な呼吸器クラスターでの症例検討や、合併症治療を含めたほかの診療科との連携により、患者さんの生活の質を保つ治療を追求しています。がん患者さんのリハビリも積極的に行っております。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: 呼吸器内科外部リンク
最終更新日:2023年7月4日

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