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脳血管撮影

のうけっかんさつえい

概要

脳血管撮影とは、足の付け根からカテーテルという長い管を体の中に入れていき、血管内に造影剤を入れて調べるレントゲン検査です。血管の中を造影剤が流れていく様子を連続撮影します。髪の毛より細い血管でも写し出すことのできる検査で、広く全体をかつ詳しく、一度に血管の状態を知ることができるのが特徴です。しかし、カテーテルで血管を傷つけて出血したり血管をつまらせて脳に障害が起こる恐れがありますから全員に行うことはできません。なぜこの検査が必要なのかは患者さんごとに異なります。担当医から詳しい説明を受けてください。

目的、対象疾患

CTやMRIでより安全に血管を調べることができるようになったので、血管撮影が必要な例は以前より減少しています。慶應義塾大学病院(以下、当院)では主に以下のような場合に行っています。

  1. クモ膜下出血

    救急搬送された患者さんがくも膜下出血と診断された場合、「動脈瘤が破裂してくも膜下出血を起こした」という前提で動脈瘤を見つけるために行います。瘤が小さいとCTやMRでは診断できないことがあります。

  2. 脳血管内治療の術前検査

    検査でしかなかった脳血管撮影が発展し、カテーテルを用いて治療も行うことが可能になりました。これを脳血管内治療といいます。脳動脈瘤や頸部頸動脈狭窄症がその主たる対象です。緊急の場合は検査に引き続いて治療を行いますが、時間に余裕のある場合は治療のリハーサルとして脳血管撮影を行います。これにより十分な準備をして治療に望むことが可能になります。

  3. 良性脳腫瘍の術前検査

    血管性腫瘍、血管の豊富な良性腫瘍の術前検査として行います。腫瘍の栄養血管や関連する血管がどのように走っているか十分に把握することによって安全に手術が行えます。栄養血管が非常に多い場合は摘出術に先立って塞栓術が必要か検討します。

  4. 脳出血

    一部の脳出血は小さな脳動静脈奇形や動静脈瘻が原因で起こります。この場合、原因をしっかり治療しないと再発します。診断には脳血管撮影が有用です。他の検査では「異常なし」と最終判断を下せません。

  5. 悪性脳腫瘍

    言語中枢のある方を優位半球といい、左右いずれか片方にしかありません。右利きの人は通常左大脳にありますが確実ではありません。優位半球にある腫瘍を摘出するときには言語中枢を残す必要があります。血管撮影時に左右の脳に麻酔薬を注射して言語に影響が出る方を調べることにより優位半球を知ることができます。これを「和田テスト」といいます。

  6. 血管病変

    血管そのものがふくれた動脈瘤、血管が傷ついた動脈解離、腫瘍が血管を巻き込んでいる場合などは血管そのものが病変です。一般に血管を閉塞させて治療します。閉塞により障害が出ると予想される場合は、あらかじめバイパス手術を行います。バイパス不要と考えられる場合でも一時閉塞試験を行い、問題ないことを確かめてから血管を閉塞します。先に風船がついた特殊なカテーテルを使い、血管の中で風船をふくらませ一時的に血流を遮断します。これを「バルーンオクルージョンテスト」といいます。

所要時間

検査前日に入院し、検査翌日に退院できます。検査時間は1~2時間です。

方法

足の付け根で動脈の拍動が触れるところ(鼠径部)に局所麻酔薬を注射し、動脈内にカテーテルを挿入します。レントゲン透視をみながら、適時造影剤を注入して血管の状態を確認しながらカテーテルを進めていきます。脳に関連する血管一本ずつカテーテルを入れて検査します。まず動脈の入口にカテーテルを入れて胸から首までを撮影します。次いでカテーテルを奥まで進めて頭部を撮影します。そして病変部は拡大撮影して精査します。そして次の血管に移ります。計4本の血管を検査します。動脈硬化の強い人は危険なため全部調べられないことがあります。また、時には必要に応じて肘や手首の動脈からカテーテルを挿入し、検査を行うこともあります。
検査終了後すぐにカテーテルを抜き15分間圧迫して血を止めます。その後約6時間ベット上で安静にし、下肢をじっとした状態にします。排泄はベッド上で行います。

合併症

この検査の合併症は0.1~1%です。バルーンオクルージョンテストのように特殊な検査の際はこれよりもやや合併症率が高くなります。

  1. カテーテルの挿入部(血管穿刺部)の出血

    いったん血が止まったのに再出血することがあります。出血が皮下に溜まると腫れて変色します。治るまで2週間以上かかることもあります。出血のためショック状態(血圧が下がり心臓の調子が悪くなること)となり、輸血が必要となることもあります。

  2. 脳梗塞

    血管内でのカテーテル操作で血栓が生じ、これが血管に詰まることで起こります。血管壁に付着していた血栓を剥がすことでも起こります。脳では細い血管が詰まると手足の麻痺(動かなくなること)、感覚障害(温度、痛みを感じなくなる)、失語(言葉が言えなくなる、相手の言葉の意味が分からなくなること)などの症状が出ます。一過性のことが多いのですが後遺症として残ることもあります。意識障害となったり命にかかわることもあり得ます。

  3. カテーテルによる血管損傷

    屈曲蛇行している血管や動脈硬化の強い血管にカテーテルを進めていく場合に起こりやすい合併症です。血管に孔があいてしまったり血液の流れが悪くなったりします。

  4. 造影剤による腎障害

    造影剤には多少なりとも腎毒性があるため腎臓が悪い人には使用を控えねばなりません。使うにしても量を少なくし、前日から点滴して十分に水分補給した上で使用します。

  5. 造影剤アレルギー

    蕁麻疹、発疹といった軽いものから呼吸困難からショック状態となり、命にかかわることもあり得ます。1度目は大丈夫でも2度目で症状が出ることもあります。

  6. その他

    ごくまれな合併症として、肺塞栓症、コレステロール塞栓症、腎不全、穿刺部仮性動脈瘤、ヘパリン起因性血小板減少症が報告されています。

注意事項

  1. 入院前の準備
    • 薬:入院のときは毎日服用している薬を持参してください。血液をサラサラにする薬(抗凝固薬、ワーファリン、バイアスピリン、バファリン、パナルジン、プラビックス、プレタールなど)を服用されている方は出血しやすいので検査後より安静を守る必要があります。内服薬は医師の指示に従ってください。
    • 剃毛:針を刺す部位の消毒を確実にする為と、足から下腹部にかけて広い範囲に絆創膏を貼るため、腹部・陰部・大腿部の毛を剃ります。自分で剃ってきていただいても結構です。
    • 同意書:医師から十分な説明があり内容が理解できましたら同意書にサインをして医師または看護師に渡してください。
  2. 検査当日の注意
    • 検査前の食事(午前の場合は朝食、午後の場合は昼食)は食べられません。服薬のため少量の水・お茶はかまいません。
    • 入れ歯、めがね、コンタクトレンズ、ヘアピン、指輪、時計などは外し、紛失しないように保管してください。
    • トイレを済ませてください。
    • 検査着とT字帯に着替えてください。点滴が入ります。高齢者あるいは動脈硬化の強い方は前日から行います。
  3. 検査中の注意
    • 検査台に裸で仰向けに寝ていただき、滅菌された布を被せます。不潔になりますので手を出したり、動いたりしないでください。
    • 体の中をカテーテルが進んでいくときは痛くも何ともありません。
    • 造影剤を注入しているときは写真を撮っていますので動かないでください。
    • 検査中、頭痛・吐き気・手足のしびれ・目の異常などを感じたら、すぐに医師や看護師にお知らせください
  4. 検査後の注意
    • 検査は動脈に針を刺すので、刺した場所からの出血を防ぐ為、大きな絆創膏で圧迫します。翌日取りますので剥がさないでください。
    • 検査後6時間は仰向けで寝たままとなります。針を刺した方の足を曲げたり、起き上がることはできません。
    • 食事や排泄は寝たままの状態で行いますので、看護師がお手伝いします。寝たままでいる時間が過ぎたらトイレ等に歩行できます。尿の管も抜きます。しかし、再出血の可能性もありますので、できるだけベッドでお過ごしください。
    • 体の中に入った造影剤を早く排泄するため、できるだけ水分を摂るようにしてください。
    • 傷口が完全に治るまでは絆創膏を貼って清潔に保ちます。
    • 止血後24時間はお腹に力が加わるような動作(和式トイレの使用や正座など)は避けてください
    • 止血後24時間たてばシャワーを浴びることが可能です。ただし、傷が完全に治るまでは入浴(湯船につかる)やプールに入ることは避けてください。
    • 傷が完全に治るまで(数日~1週間)は激しいスポーツは避けてください。重い物(4kg以上)を持ち上げないでください。
    • 痛みや気分不快がありましたら、看護師または医師にお知らせください。

文責: 脳神経外科外部リンク
最終更新日:2018年3月23日

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