病気を知る

うつ病・双極症

概要

感情は、主観的な印象で、快不快を基調とし、喜びと悲しみ、苦しさと楽しさなど相反する二極性をもつものです。気分とは、この感情の持続的な状態を指します。

うつ病や双極症(双極性障害、躁うつ病)は、気分が正常の範囲を超えて落ち込んだり、高揚したりする状態が一定期間続く病気です。うつ病をはじめとする抑うつ症では、主として気分の落ち込みや興味・喜びの低下がみられます。一方、双極症では、抑うつ状態に加えて、気分が異常に高揚したり活動性が高まったりする躁状態や軽躁状態がみられます。

うつ病は、1990年時点ではすべての疾患の中でも、健康な生活に支障をきたす疾患の第4位にあたるとされました。2019年の調査では、第3位に上昇しています。日本の年間自殺者数は1998年には3万人を超えました。その後は減少傾向にあるとはいえ、近年でも約2万人と高い数で推移しています。うつ病の生涯有病率は日本では5〜6%、欧米では11〜15%程度と報告されており、広い意味での抑うつ状態まで含めると、さらに多くの方が経験すると考えられています。

また、双極症は、見落とされがちであることや、抗うつ薬服用によりかえって症状の悪化があることなどから最近注目されています。その生涯有病率は日本では0.1〜0.4%程度、欧米では約1%と推定されています。

うつ病や双極症は、血液検査や画像検査だけで診断することはできません。患者さんご本人の臨床症状や、ご家族のお話から判断します。また、診断が確定した後の治療としては、薬物療法と心理社会療法との2つに大きく分かれます。治療の場は外来治療と入院治療とがあります。

うつ病

症状・診断

抑うつ(よくうつ)気分や興味または喜びの消失に加えて、様々な症状を呈します。例えば、食欲の減退や増進、不眠や睡眠過多、動きや話し方が遅くなるなどの精神運動制止や、強い焦燥、疲れやすさ、集中力の低下、自殺への思い、などです。例外はありますが、これらの症状が2週間以上続いたときにはうつ病とされます。この抑うつ状態の期間を、抑うつエピソードと呼びます。

頭痛、口渇、便秘・下痢、呼吸困難感、心悸亢進などの身体症状を伴うことも多く、うつ病患者さんの実に6割以上がまず内科を受診するとのデータもあります。ただしこれは、まず身体的に問題がないことを確認してから、精神神経科の診断と治療が開始されるという観点からは望ましいことです。

また、慢性疾患にはうつ病や抑うつ状態が合併しやすいことが知られています。がんの約20~40%、糖尿病の約20~25%、冠動脈疾患の約15~20%に抑うつ状態がみられると報告されています。

責任感が強い、完璧を求めやすい、真面目であるといった性格傾向が関連すると言われていますが、うつ病は誰にでも起こりうる病気です。

症状が重くなると、現実とは異なる確信(妄想)を伴うことがあります。その内容は自分が病気であるというもの(心気妄想、しんきもうそう)、お金がないというもの(貧困妄想、ひんこんもうそう)、何か罪を犯してしまったというもの(罪業妄想、ざいごうもうそう)、の3つが代表的です。

また、うつ病と似た症状を示す病気は少なくありません。双極症(後述します)やパーソナリティ症など他疾患との鑑別も大切です。

治療

処方される薬は、抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬、気分安定薬に大きく分かれます。ベンゾジアゼピン系薬剤を中心とする抗不安薬は服用して数十分で効き目が出ることが多いですが、大量・長期間の服用を続けることの問題も指摘されています。一方で抗うつ薬は、服用してから効果があるまでに数週間から数か月かかりますが、うつ病への薬物療法の中心となる薬です。また、抗精神病薬は主に統合失調症で使用される薬、気分安定薬は主に双極症の治療に用いられる薬ですが、一部の薬剤は抗うつ薬と併用をすることで症状の改善が得られる場合もあります。

抗うつ薬には、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI(エスエスアールアイ、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(エスエヌアールアイ、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの種類があります。十分な量を十分な期間服用することが大切です。

薬物療法以外には、認知行動療法などの心理療法、修正型電気けいれん療法(mECT)、反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)などがあります。修正型電気けいれん療法は、全身麻酔下で頭皮から電気刺激を加え、脳に一時的なけいれんを誘発する治療法です。薬物療法で十分な効果が得られない場合や、症状が重い場合などに実施することがあります。有効性が確立された治療法であり、安全性も高いことが知られていますが、一時的な記憶障害などの副作用がみられることがあります。反復経頭蓋磁気刺激療法については該当のページをご参照ください。

また、うつ病では、十分な休息をとること、症状が落ち着くまでは重大な決断は先に延ばすこと、周囲は無理に励まそうとせず温かく見守ることが勧められます。

うつ病は再び症状が出現することの多い病気です。初回の方の再発率は約50%、何度も繰り返す方の再発率は70~90%とされています。うつ病は再発しやすい病気であり、症状が改善した後もしばらく治療を継続することが重要です。

双極症(双極性障害)

症状・診断

気分が高揚したり、いらいらします。その他にも、誇大的になる、睡眠の減少、喋り続ける、いくつもの考えが浮かぶ、注意が散漫になる、活動的になる、買いあさりや無謀な投資をするなどの症状が見られます。このような症状が4日以上続く軽い躁状態を軽躁(けいそう)エピソードと呼び、1週間以上続いたり入院が必要なほど重症な躁状態である場合に躁(そう)エピソードと言って区別します。

うつ病では抑うつエピソードだけが出現しますが、双極症では、躁エピソードまたは軽躁エピソードが見られます。そして、典型的には抑うつ状態と躁状態とを繰り返します。

双極症は診断するのが難しい病気です。まず、躁状態のときには、周囲は困っていても患者さん本人は快適に感じていることが多いのです。そのため、患者さんは自ら受診することが少なく、過去に躁状態があったかどうか医師が質問してもなかなか見つからないために、家族などの患者さんをよく知る人からの情報が診断に有用となることもあります。また、双極症の患者さんは典型的には抑うつ状態と躁状態とを繰り返しますが、抑うつ状態の期間の方が長いのです。そのため、双極症の患者さんが外来で診察を受けるときには抑うつ状態で、過去の躁状態を見つけることができず、うつ病と診断されていることがあります。

治療

中心となる薬は、気分安定薬と抗精神病薬です。我が国では、気分安定薬としてはリチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンが使用できます。ラモトリギン以外の薬剤は、血液中の薬物濃度が測定できますので、飲み始めしばらくは検査が数回必要です。また、その後も一定期間ごとに採血することで効果と安全性が確かめられます。ラモトリギンは内服により皮膚の湿疹が出現する場合がありますので、出現した際には医師と早めに相談する必要があります。また、ほかの気分安定薬との飲み合わせが問題になることがあるために、内服している薬を医師に報告し、安全に内服できるように相談することが重要です。これらの薬剤は躁状態を抑える効果、抑うつ状態を改善させる効果、いったん安定した気分を維持させる効果があります。一部の抗精神病薬は、上記の気分安定薬と同様な効果が証明されており、気分安定薬と併用されたり、抗精神病薬単独で使用されたりすることがあります。

双極症の患者さんが抗うつ薬を服用すると、かえって気分が不安定になったり、躁状態になってしまうことがあります。抗うつ薬の使用は慎重に検討する必要があります。

先に述べたように、双極症の患者さんは自分では躁状態を過少に評価する傾向があります。一方で、ご家族は患者さん本人の抑うつ状態を過少に考えてしまう傾向があるようです。ご自身の状態を客観的にみつめるためにも、その日の気分や行動を簡単に日記にする、睡眠時間を記載するなどが有効です。

慶應義塾大学病院での取り組み

外来治療とともに、入院治療も行っています。ただし、当院当科は開放病棟であり、閉鎖病棟は持っていません。そのため、抑うつ状態で自殺の危険性が高い、躁状態で他人へ危害を加える可能性があるなど、症状の重い患者さんで閉鎖病棟がふさわしい方には、関連のある精神科病院をご紹介しています。

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