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頸動脈狭窄

けいどうみゃくきょうさく

概要

心臓から脳に向かう頸動脈は、頸部頸動脈と頭蓋内頸動脈に分かれます。一般的に頸動脈狭窄とは、頸部頸動脈が動脈硬化を起こし、血液が流れる道が狭窄した状態を指します。脳に向かう血液の流れ道が狭いため、脳血流の悪化、または、狭い箇所で流れの悪くなった血液が小さな血の塊(血栓)を作り、これが頭蓋内の血管を詰まらせてしまう結果、脳の血流不足が起こり、脳梗塞を生じる危険性が高くなってくるのです(図1)。

図1

図1

症状

頸動脈狭窄だけでは全く症状は出ませんが、脳が血流不足に陥った場合には、脳梗塞と同じで、言葉が出にくい、手足のしびれ、手足が動きにくいなどの症状が出ます。重要なことは、ほぼ40 %の方は、こういった症状が短時間(多くは1時間以内)で完全に改善することです。これは一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれ、脳梗塞完成の警告なのです。また15~20 %の患者さんは、短時間の間(数分、数時間、数日以内)にどんどん症状が悪化していく進行卒中とよばれる経過をとります。

頭蓋内頸動脈が、最初に枝分かれする血管は目を栄養する血管です。頸部頸動脈にできた血栓がこの目の血管を詰まらせると、片側の目の上半分や下半分が暗くなる、幕が上がる、または下がるように視野が暗くなる、視力が急に低下し、ものが見えなくなる、時に眼の奥の痛みを訴えることがあります。一時的な症状で回復することがほとんどなので、一過性黒内障と呼ばれていますが、頸部頸動脈狭窄症に多い症状です。また、頸部頸動脈狭窄症により脳の血流量が減少した場合、脳梗塞の症状以外に、立ちくらみ、揺れるようなめまい感などを訴えることもあります。

診断

頸部血管超音波検査は、患者さんの負担が少ないだけではなく、頸動脈壁の状態、動脈壁にコレステロールなどが溜まっているプラークと呼ばれる病変の状態、頸動脈の狭い部分の血流速度、血流の方向なども調べることができる優れた検査です。
造影剤を注射してから頭部CTを撮影すると、静脈内に注入された造影剤が心臓を通って全身の動脈へ到達するので、カテーテルを動脈内に挿入しなくても、頸動脈の情報を知ることができます。CT血管撮影といって頸動脈の情報だけを集めて血管だけの画像にすることもできます。頸動脈周囲の構造物や頸椎の情報など、手術を想定した解剖学的位置関係が克明に観察できます。
MRIは、脳を調べるために行う場合と頸部頸動脈を調べるために行う場合があります。脳に対しては、脳梗塞の有無、脳梗塞の程度や範囲、時期などを調べます。また頭蓋内頸動脈病変の有無を調べるために、MRAを行います。MRIでもプラークイメージと呼ばれる、血管を狭くしている病変部分の性質を調べるための鵜検査は、プラークが脂肪を多く含む、柔らかい性質であった場合、はがれてさらに奥の血管を詰まらせ、脳梗塞を起こす危険が高い、などといったことが判定できます。
脳血管撮影は、カテーテルを太ももの動脈から頸部頸動脈の中まで誘導して造影剤を注入し、頸部頸動脈や頭蓋内頸動脈の状態を調べる検査です。血管の中を流れていく造影剤を動脈から静脈まで連続して観察することができるので、頸動脈の狭窄具合を知るだけではなく、脳内の血流情報も得られる大変に有用な検査方法です。
治療方針を決める上で重要なのは、狭窄の度合い、すなわち狭窄率です。血管造影での狭窄率から30~49%を軽度、50%~69%を中等度、70%以上を高度とするものが一般的です。いくつかある狭窄率の計算方法の中では、NASCET(ナセット)という大規模臨床試験での測定法が一般的に広く用いられます。

治療

症状がなく、狭窄が軽度でも、禁煙、節酒を勧め、高血圧、高脂血症、糖尿病など、動脈硬化の危険因子を治療する必要があります。
脳梗塞予防のため、頸部頸動脈狭窄病変を治療する方法には、内科的治療、頸動脈内膜剥離術、頸動脈ステント留置術がありますが、手術を行う以上は、症状のある方に対しては合併症率6 %、症状がない方には3 %以下に抑えるという条件をクリアする必要があります。

(1) 内科的治療

脳梗塞を起こす主な原因は、頸動脈狭窄部でできた血栓が血管を詰まらせることです。そこで、血栓ができないように抑える薬、抗血小板剤を内服していただきます。

(2) 頸動脈血栓内膜剥離術 (図2)

  • 全身麻酔で頸部の皮膚を切開し、頸動脈に到達します。動脈を切開して、手術用顕微鏡で確認しながら、動脈を狭くしている原因であるプラークを摘出する手術です。
  • 病変を確実に取り去ることができる、頸動脈狭窄症に対する最も標準的で確実な治療法です。
  • 全身麻酔が可能な状態でなければ、手術の適応になりません。また、反対側の頸動脈高度狭窄、病変部が著しく高位、高齢者、心疾患合併症、頸動脈血栓内膜剥離術後再狭窄、放射線治療後、大動脈炎症候群、はこの手術の高危険群と考えられます。
  • 頸動脈を切開するため、一時的に頸動脈血流を止める必要があります。この時に脳の血流を維持させるために、内シャントという道具を使うことがあります。
  • 主な手術合併症としては、術中の脳梗塞と術後に生じる脳出血で、全体の3 %程度の発生率です。
  • 再狭窄が起こる例が10 %程度報告されており、経過観察が必要です。
  • 全身の動脈硬化、特に心臓の冠動脈硬化を術前に評価することが必要です。心筋梗塞や狭心症の発作が生じる危険性がある患者さんの場合、循環器内科や心臓外科と協力して治療を進める必要があります。
図2

図2

(3) 頸動脈ステント留置術 (図3)

  • 局所麻酔で、主に太ももの血管から頸部頸動脈までカテーテルを誘導し、狭窄部位をカテーテルの先についた風船で広げ、再び狭窄しないようにステントという形状記憶合金で作られた筒状の金網を留置してくる治療法です。
  • 脳側には、ステント拡張した時に血栓が脳に飛んでいかないようにする傘状あるいは風船状の器材(プロテクションデバイス)で血栓を捕獲します。
  • 主な合併症としては、手技中の脳梗塞と術後に生じる脳出血で、全体の3 %程度の発生率で、頸動脈血栓内膜剥離術と差はありません。
  • 2008年の4月から健康保険で認可された治療ですが、頸動脈血栓内膜剥離術の高危険群であり、かつ神経症状を伴う患者で50%以上のアテローム性狭窄、神経症状を伴わない患者で80%以上のアテローム性狭窄を有する患者に対して適応とされています。
  • カテーテルが誘導できない例、著しく屈曲した病変、著しく柔らかいプラークやプラーク内出血、全周性の著しい石灰化病変などはこの治療は行えない場合があります。
図3

図3

治療法は、症状の有無と狭窄率および手術の危険性によって決まります。

  1. 無症状で狭窄度が60%未満の場合、または症状があって狭窄度が50%未満の場合
    手術的治療はお勧めしません。上記動脈硬化の治療を行い、抗血小板剤を内服していただきます。
  2. 無症状で狭窄度が60%以上の場合、または症状があって狭窄度が50%以上の場合
    上記動脈硬化の治療を行い、抗血小板剤を内服していただいた上で、手術的治療をお勧めします。
  3. 症状があって、狭窄度が50%以上だが、手術の危険性が高い場合
    上記動脈硬化の治療を行い、抗血小板剤を内服していただいた上で、頸動脈ステント留置術をお勧めします。
  4. 無症状で狭窄度が80%以上だが、手術の危険性が高い場合
    上記動脈硬化の治療を行い、抗血小板剤を内服していただいた上で、頸動脈ステント留置術をお勧めします。

なお、頸動脈閉塞の例や、頭蓋内頸動脈狭窄の例では、症候性の場合に脳血流の評価を行い、一定の基準を満たす例は、内科的治療に加えて、頭蓋外・頭蓋内バイパス手術を行う場合があります。この手術は、もやもや病の箇所で解説しています。

慶應義塾大学病院での取り組み

  • 神経内科と定期的にカンファレンスを行い、個々の症例ごとに患者さんに最適な治療法を検討しています。
  • 循環器科、麻酔科と連携し、脳機能と全身状態を重視した安全な術中管理を実施しています。また、手術中の脳機能モニタリングを駆使した安全な手術を行っており、良好な成績を収めています。

さらに詳しく知りたい方へ

脳卒中治療ガイドライン外部リンク(2015[追補2017])
現在のスタンダードと考えられる治療が紹介されています。

文責: 脳神経外科外部リンク
最終更新日:2018年3月23日

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