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高次脳機能障害のリハビリテーション

こうじのうきのうしょうがいのりはびりてーしょん

概要

私たちは、朝起きて特に手順など何も考えずに着替えを行い、いつもと同じ道順で職場に行き、様々な仕事で周りの人たちと会話を行い、仕事の計画を立て、それを実行するといったことを行っています。これらは意識して行うこともありますが、こっちの手を通して次に頭を通してなどと着替える順序を考えることは普通しませんし、いつも通っている道を次は右に曲がってその次の信号を左に・・・と考えることもしません。これらの動作は頭の中で無意識の思考として蓄積され必要に応じて適切に引き出されているのです。
高次脳機能では、これらの頭の中での思考過程・記憶・注意能力などが傷害されることにより様々な障害を呈します。高次脳機能障害は脳に傷を受ける病気・怪我であればすべてに起こる可能性があります。その中でも比較的多く見られるのは脳卒中や脳腫瘍、頭部外傷、低酸素脳症、パーキンソン病、神経の変性疾患などです。

高次脳機能障害は大脳の知的活動をつかさどる部分での障害であり、様々な症状の総称です。そのため、言葉や物事認識・理解力の低下などが起こります。ここで比較的遭遇しやすい症状について説明します(図1)。

図1. 高次脳機能障害とその起こりやすい損傷部位

図1. 高次脳機能障害とその起こりやすい損傷部位

症状

高次脳機能障害の具体的症状

  1. 失語症:脳の中の言葉をつかさどる言語中枢というところに障害を受けると、言葉を話すこと、聞いて理解すること、文字を書くこと、文字を理解することなどが困難になります。口やのどの筋肉が麻痺しても言葉が出なくなったり、しゃべりづらくなったりしますし、耳が悪くても他人の会話は聞きづらくなりますが、この失語症では頭の中ではわかっているけど声に出すと違う言葉が出てきてしまう、聞こえるけれども理解できないといった状態になります。
    失語症では、聞いた言葉を理解すること・思った言葉を口に出すこと・書かれた文字を読むこと・文字を書くこと・言われた言葉をおうむ返しにすることなどが様々な程度で障害されます。言語中枢は個人差がありますが多くの人で左半球にありますので、左の脳が傷害されると失語症を発症しやすくなります。
    失語症では会話で物の名前を間違ったり、同じものの名前を言い続けたり、こちらの言っていることが理解できていなかったりしますので、とかく認知症と誤解を受けがちではあります。しかし、頭の中の洞察力・判断力・知的能力はしっかり保たれていることが多いため、失語症の方は周りとのコミュニケーションをうまく取れないために大きなストレスをためてしまうことが問題となります。
  2. 記憶障害:記憶とは、出会ったもの、体験した出来事などを頭に保存し、適切なときに必要に応じて取り出すことです。記憶障害では、新しいできごとを覚えていられなくなったり、そのために何度も同じことを繰り返し質問したりします。また、それ以外にも経験などのエピソードを覚えることも困難になり、何度練習しても杖の使い方を覚えられなかったり、お食事を食べても内容どころか「食べた」ということも覚えていられなかったりします。
  3. 注意障害:何か作業をしようとする時に、意識をその物事へ集中することの障害です。ぼんやりしていてミスばかりしたり、ふたつのことを同時にしようとすると混乱したりするなどのことがあります。また、一度何かをやりだすと、別のものを出されてもできなかったり、杖に集中しなければ危ないのに周りの些細なことに気をとられやすくなったりということもあります。
  4. 失認:失認とは、視力や感覚能力は保たれているにもかかわらず、目の前にあるものが何かわからなかったり名前がわからなかったりすることをいいます。
  5. 失行:失行とは明らかな麻痺はないのに、道具が上手に使えなかったり、極端に間違った使い方をしたりする症状です。病気の前まで何気なくやっていた歯磨きや着替えなどといった動作もうまくできなくなり、他人の指示が必要となります。
  6. 半側空間無視:失認や注意障害に症状は似ていますが、目では見えているのに片側にある人や物を無視する、片側にあるものにぶつかる、片側にあるものを食べないといった症状を呈します。これは、別に見えていないわけではなく、視神経の経路の一部に障害を受けて起こる同名半盲(片側の視野のものが見えなくなってしまう)とは別のものです。例えば左側が見えないのであればその人は左に顔を向けるなど注意をして生活をしますが、半側空間無視の方では左側を意識する・注意するという考えそのものが欠けているため何度失敗をしても左側のものにぶつかったりします。
    多くは右の脳が損傷を受けたときに生じる、左側を無視してしまう左半側空間無視ですが、まれに右側のこともあります。症状が軽ければ日常生活に支障がないこともありますが、程度に応じて歩く際に左側のものにぶつかりやすく危険であったり、左側に曲がれないために部屋に戻れなかったり、食事の際に左半分に全く手をつけないといった日常生活上の問題を呈することがあります。
  7. 遂行機能障害:遂行機能とは、何か物事に対する計画を立てて実行する能力です。例えば、家の電球が切れてしまったときに、どこのスーパーに行って、このサイズの電球を買おうと計画し、必要なお金を持って買い物をするといった能力です。この遂行機能障害では自分で計画を立ててものごとを実行することができなかったり、人に指示してもらわないと何もできなかったり、いきあたりばったりの行動をするという症状を呈します。
  8. 病識欠落:病識の欠落とは自分が障害をもっていることに対する認識がうまくできない。障害がないかのようにふるまったり、言ったりすることです。この障害の方では明らかに麻痺で手が動かないのに、別に動かないわけではないと言ったり、足の麻痺のために歩けないのに普通に歩けると言ったりします。病識の低下している方では、特に危険行動からの転倒・転落が問題となります。
    それ以外にも社会的な行動障害として、他人に過度に頼る依存性や子供っぽくなってしまう退行が見られたり、食事や金銭的な我慢が聞かなくなる欲求コントロールの低下が見られたりといった性格変化を認めることもあります。

治療

【リハビリテーションの流れ】

高次脳機能障害に対するリハビリテーションでは、これらの無数にある障害の像をさまざまな検査(テストバッテリー)を通して評価をして、その方の正確な障害像を把握することから始まります。その上で日常生活動作上大きな問題となるものを中心に訓練を行います(図2)。
障害に応じてリハビリテーションの方法は異なりますが、一般に簡単な課題から開始し、徐々に複雑な課題に上げていき、それを実生活で試していくといった方法が取られます。失語症における発話の訓練では、物の名前の繰り返しや、よく使うものの呼称から初め徐々に文章の練習へとすすめていきます。
また、不足している分の機能の代償としていくつかの道具を使う訓練や環境の調整も平行して行います。例えば記憶障害の方ではメモを頻回に取るようにして、常にメモを見る習慣をつけるなどの訓練をしますし、半側空間無視の方では車椅子の左側のブレーキをかけ忘れることが多いため、ブレーキを延長して目立つようにしたりします。

図2. 高次脳機能検査の訓練風景

図2. 高次脳機能検査の訓練風景
さまざまな検査を通して、その方の持つ障害像をはっきりさせます(写真左は遂行機能障害を調べるBADSという検査、写真右は半側空間無視を検査するBITという検査です)。

生活上の注意

高次脳機能障害の方の動作は周りの方から見ていて歯がゆいように感じます。そして本人はその周りの歯がゆさを感じることにより、あせったり、いらついたり、落ち込んだりしてストレスをためてしまいます。その結果、動作自体を行わなくなることが少なくありません。しゃべると間違えるため、言葉自体を発しないようになってしまったり、何かをしようとするとすぐに周りから注意されるため何もしなくなったりします。しかし、そうなるともともとの障害に加えて、使わないことによる障害(廃用)の要素が加わり障害はより重度になってしまいます。そのため、本人も周りの方々も障害を正しく理解し、何ができて何ができないのかを知った上で本人と接し必要に応じて手助けを行うことが重要です。

慶應義塾大学病院での取り組み

入院・外来にて高次脳機能障害の患者さんの診断・評価およびリハビリ治療(認知リハビリ)を行っています。
また、23区西部(二次保健医療圏)の拠点施設として、地域高次脳機能障害者支援体制の整備を図ることを目的に、地域ネットワーク連絡会の開催、関係機関への情報提供、相談対応を行っています(相談窓口は地域医療連携室)。

さらに詳しく知りたい方へ

木村彰男監修:「脳卒中のリハビリと生活」主婦と友社 2008年
千野直一、安藤徳彦編集:「リハビリテーションMOOK 高次脳機能障害とリハビリテーション」 金原出版株式会社 2003年
日本リハビリテーション医学会ホームページ外部リンク

文責: リハビリテーション科外部リンク
最終更新日:2014年9月8日

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