病気を知る
リンパ浮腫の手術的治療
概要
リンパ浮腫とは
人体には血液のほかに、リンパ液が体を循環しています。心臓から出た血液のうち1割がリンパ液としてリンパ管に入り、老廃物や免疫にかかわる白血球などを運んでいます。このリンパ液が鎖骨付近で血液と合流しますがこの循環経路が壊れてしまい、リンパの流れが滞ってしまうことでリンパ浮腫を生じます。
がんの術後などでリンパの流れを一部損傷してしまったり、生まれつきリンパ管の機能が悪くリンパ液を運ぶことができなかったりすることが主な原因となります。特に日本をはじめ先進国では婦人科がん、乳がんなどのリンパ節郭清や放射線治療によって発症する続発性リンパ浮腫が全体の約90%を占めます。
これらの原因が生じるとリンパの流れが悪くなり、循環がうまくいかず皮膚にリンパ液が漏れ出してしまうことになります。これにより生じるむくみがリンパ浮腫です。

図1.がん術後のリンパ浮腫について
リンパ浮腫の診断
浮腫(むくみ)は、心臓や腎臓などの臓器の異常による全身性の浮腫、深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)による浮腫、静脈の異常による浮腫、神経の異常による浮腫など、リンパ浮腫以外にも多くの原因によって生じます。そのため、浮腫がある方全員がリンパ浮腫とは限りません。
適切にリンパ浮腫の診断を下すためには画像検査が必要になります。
その一つがリンパシンチグラフィー(保険適用)です。足や手などの浮腫を生じている部位にリンパ管に取り込まれやすい薬を注射し、リンパ浮腫の診断や重症度を評価することができます。画像検査をすることでリンパ浮腫の診断ができるだけではなく、重症度は治療方針を立てる際の参考にすることができるため、これらの画像検査は非常に重要です。
治療
外科的治療
リンパ浮腫の治療は運動療法や圧迫治療といった保存的治療(「リンパ浮腫のリハビリテーション」をご参照ください)と、外科的治療があります。形成外科では外科的治療を担当しており、リハビリテーション科が行う保存的治療と協力しながら治療を進めています。
先述の画像検査でリンパ管の損傷が軽度〜中程度の方はリンパ管細静脈吻合術(LVA)という手術が有効です。リンパ浮腫の患者さんは下図の通りリンパの流れが悪くなり、渋滞している状態になります。

図2.リンパ浮腫の概要
この渋滞しているリンパ液を足や手などの末梢で血管に繋ぎます。すると、溜まっていたリンパ液が血管の方に流れるようになるので、渋滞が解消されます。

図3.リンパ管細静脈吻合術シェーマ
この際に吻合するリンパ管は0.5mm程度と極めて細いため、これらを縫い合わせるためには十分なトレーニングを積む必要があります。しかし、この吻合技術を習得した医師であれば、リンパ管と血管のバイパスは1か所あたり2cm程度の切開で済み、局所麻酔での治療が可能なため患者さんの負担は非常に小さく治療が可能です。
しかしながら、リンパ浮腫が進行した症例では、リンパ管の損傷が重度となり適切な吻合を行ってもリンパ液が十分に流れないことがあります。その場合は、鼠径部や腋窩、下顎など、リンパ浮腫を生じていない部位から健康なリンパ節を採取し、リンパ浮腫を起こしている部位に移植するリンパ節移植を行うことができます。LVAと比較して、別の部位のリンパ節を採取することから、この手術は患者さんへの負担がやや大きいとされています。
以上のことから、リンパ浮腫は早期での発見、治療が非常に重要であるといわれています。
手術症例
数年前に婦人科手術を受けた後、ひだり下肢の浮腫が生じたため、保存的治療とリンパ管細静脈吻合術を複数箇所行いました。

図4.術前術後画像
慶應義塾大学病院での取り組み
リンパ浮腫の治療において肝心なことは、現在の浮腫の状態がどの病期に属するのかを判断し、その病期に応じた治療方法を選択することです。このために慶應義塾大学病院では、リンパ浮腫診療センターを開設し、リハビリテーション科と合同で治療を行っています。それだけでなく、患者さんの早期発見、早期治療を行うため乳腺外科や産婦人科などと緊密に連携をとりつつ放射線科や血管外科とともに確実な診断を行うことを目指しています。
リンパ浮腫の外科的治療についてご相談のある方は、外来担当医表をご覧のうえ、下記外来にてご相談ください。
担当:鈴木悠史(木曜午前)