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気管支喘息のオーダーメイド診療 -呼吸器内科―

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喘息とは?

喘息(ぜんそく)とは、口から肺につながる息の通り道(気道)のうち、気管支という肺の中の部分に常に炎症が起こることで発症する病気で、気管支喘息とも呼ばれます。炎症を起こした気管支は、少しの刺激に対しても敏感に反応して縮んで狭くなったり、分泌物(たん)を出しやすくなったりします。

喘息の症状としては咳やたん、息苦しさ、息切れなどがあります。だんだん呼吸が苦しくなって数日間から1週間以上症状が続くこともあれば、発作的に症状がピークに達する場合もあります。聴診器で呼吸音を聴くと、狭くなった気管支を空気が通過するときの音で「ヒューヒュー」や「ゼイゼイ」というような音(喘鳴:ぜんめい)が聴こえることがあります。音が大きい場合は患者さん自身で喘鳴がわかることがあります。このような症状が、いつから、どのくらいの頻度や程度で起きているかを把握すること、すなわち詳しい病歴を聴取することが、喘息の診断において最も重要な要素となります。その他、血液検査や呼吸機能検査なども喘息の診断の参考とします(図1)。

図1.喘息の診断

図1.喘息の診断

喘息やその発作は日常生活や仕事、学業、スポーツ、睡眠などの妨げになるだけでなく、精神的な不安にもつながります。ときには命が危険にさらされるような増悪(ぞうあく:症状がますます悪くなること)が起こることもあるため、症状をできるだけ落ち着かせ、増悪が起こらないようにコントロールすることが大事です。

患者さんごとの病型を考えた診断と管理

吸入薬を使うことでほとんどの患者さんは症状のコントロールができ、健常者と同じように日常生活を送れるようになりました。ただし、患者さんごとに薬の効き具合や症状の現れ方に色々な差があることがわかっており、最近では喘息を1つの病気ではなく、その発症や増悪の原因から詳しく調べてタイプ分けしたうえで治療方法を考えるということが一般的になってきました。

喘息の管理には、気管支の炎症を落ち着かせて気道の通りを広げる吸入薬による治療が最も重要ですが、これに加えて患者さんごとに増悪要因や重症度、合併症なども考慮して適切な管理方法を検討していくことになります(図2)。

図2.喘息の管理

図2.喘息の管理

様々な呼吸機能検査を用いた多面的な評価

近年は病態を表すような低侵襲の呼吸機能検査が開発され、普及してきました。慶應義塾大学病院では、呼気一酸化窒素(NO)濃度測定検査、気道可逆性検査、気道過敏性検査、モストグラフといった様々な呼吸機能検査を状況に応じて適切に用いることで、患者さんの現在の気道の状況を詳細に把握し、その結果を参考に診断や治療計画を立てています。

呼気一酸化窒素(NO)濃度測定検査

吐く息(呼気)の一酸化窒素(NO)は、主に好酸球という細胞が原因の気道の炎症を反映します。これを測定することで喘息の病態である気道炎症の程度が数値として計測・評価できるため、投薬内容を検討する際に自覚症状以外の判断材料とすることができます。また、呼気NOは喘息の患者さんでは高くなることが多い一方で、咳や息切れが出るほかの病気(例えば慢性閉塞性肺疾患など)では上昇しないため、喘息の診断にも利用されます。ただし喘息の患者さんやその増悪時期でも呼気NOが上昇しない方もいれば、鼻炎や副鼻腔炎などの喘息以外の病気でも呼気NOが上昇することがあるため、呼気NOはあくまでも診断・管理にあたっての補助的情報として位置づけられています。

気道可逆性検査

気道を広げる薬の吸入前後に呼吸機能検査を行い、薬の効果をみる検査です。薬剤によって呼吸機能の改善がみられるほど、可逆性が高いと判断されます。気道可逆性の有無やその程度は、喘息の診断や治療薬選定にあたって有用な情報となります。

気道過敏性試験

気道の敏感さを調べる検査です。気道を刺激して狭くさせる作用のある薬を薄い濃度から順番に吸入し、どの濃度で気管支が狭くなるかを評価します。喘息では気道が敏感となっており、健常人に比較して薄い濃度の薬剤吸入でも気道が狭くなる様子が観察されます。

モストグラフ

喘息では気道が狭くなるため、呼吸する際に空気が気道を通りにくくなります。この空気の通りにくさを示す指標を呼吸抵抗といいます。モストグラフでは数秒間安静に呼吸をしたときの呼吸抵抗の変化を測定して三次元のグラフで表示することができます。通常の呼吸機能検査で呼吸抵抗の評価をするためには、患者さんに最大限のスピードで息を吐いていただかなくてはなりませんが、モストグラフを用いることで、普通に呼吸をしているだけで呼吸抵抗の評価を行うことが可能です。モストグラフによる評価は喘息の診断にも有用なほか、喘息治療が適切になされると気道抵抗が減少する様子が視覚的に確認できるため、患者さんにとっても治療効果が分かりやすい形で認識できます。

生物学的抗体製剤による治療

吸入薬を含む複数の薬剤を使用した治療を行っても、喘息患者さんの5%から10%では頻繁な増悪があったり、息切れなどの症状改善に乏しかったりします。このような患者さんの症状を落ち着かせるためには、従来は内服もしくは注射のステロイド薬を使用して炎症を鎮めることが主な対処方法でした。しかし内服や注射のステロイド薬による管理は一時的には症状改善効果をもたらしても、中長期的には感染症に対する防御能力を著しく低下させたり、糖尿病を引き起こしたりといった副作用が問題となります(吸入ステロイド薬には一般的にはそのような副作用はありません)。

このような重症な喘息患者さんに対して、原因となる炎症が起こるメカニズムに作用して増悪の予防効果を示す薬剤として以下の5種類の生物学的抗体製剤(商品名:ゾレア®、ヌーカラ®、ファセンラ®、デュピクセント®、テゼスパイア®)が保険適用で使用可能となっています(表1)。 

表1.重症気管支喘息に対する生物学的抗体製剤

薬剤

用法・用量

ゾレア® (オマリズマブ )
抗IgE抗体

体重・総IgE値(30 - 1,500 IU/mLの範囲)により
規定された量と間隔(2週間ごともしくは4週間ごと)で皮下注射

ヌーカラ® (メポリズマブ)
抗IL-5抗体

100 mgを4週間ごとに皮下注射

ファセンラ® (ベンラリズマブ)
抗IL-5受容体α抗体

30 mgを最初の2か月間は4週ごと、以後は8週ごとに皮下注射

デュピクセント® (デュピルマブ)
抗IL-4受容体α抗体

初回600 mg、2回目以降は300 mgを2週間ごとに皮下注射

テゼスパイア® (テゼペルマブ)
抗TSLP抗体

210 mgを4週間ごとに皮下注射


これらの薬剤は患者さんによっては非常に高い治療効果を示し、また副作用も注射部位の局所反応にとどまることが多いために積極的に治療導入が検討されます。しかし、すべての患者さんに対して効果があるわけではないことや、高額であること、継続しないと効果が落ちてくる可能性があることが問題点となっており、先述した喘息のタイプごとの診断を考慮しながら、導入適応を見極めることになります。
なお、これらの抗体製剤は高価ですがその使用継続にあたって、高額医療費控除制度を用いて自己負担額を軽減することができます。

吸入薬に対する服薬支援

最近10年間で、吸入薬がより積極的に使用されるようになり、それらの薬剤をしっかり気管支に届けるためのデバイス(吸入器)も様々なものが開発されました。しかし、吸入薬の種類やデバイスが増えたことにより、その扱いに混乱が生じてしまうことが問題となっています。喘息患者さんは増悪を予防するための吸入薬(コントローラー)と、増悪が起きてしまった後にその症状を緩和するための吸入薬(レリーバー)の2種類以上の吸入薬を処方されることもあり、また中にはコントローラーだけで複数の吸入薬が必要となる方もいます。

吸入薬には大きく分けて、細かい粉を自分の力で吸い込むタイプ(ドライパウダー製剤:DPI)と、スプレーのように噴霧された薬剤をゆっくり吸うタイプ(加圧式定量噴霧吸入器:pMDI)、ネブライザー(液体の薬剤を霧状にして直接気管支に届けるための装置)を用いて吸入するタイプとがあり、吸入の方法や特徴に以下のような違いがあります(表2)。

表2.デバイスごとの吸入方法と特徴

DPI

pMDI

ネブライザー

吸入方法

粉末状の薬剤を患者さん自身の吸入力で吸い込む

ボンベを押すことで吸入器から霧状の薬剤が噴出する

液体の薬剤をネブライザーにセットし、そこから出る霧状の薬剤を吸入する

利点

噴霧操作と吸入タイミングの同調の必要がない

吸気速度がゆっくりでも吸入可能

普通の呼吸で吸入が可能
乳幼児にも使用可能

欠点

吸入する力が必要

吸入のタイミングが難しい

吸入装置が大型
吸入に時間がかかる


さらに同じDPI、pMDIの中でも各薬剤によって薬剤のセットの方法などが異なります。そのため、処方された吸入薬についての詳細な吸入手順の説明を受け、吸入手技を定期的に確認することが重要となります

アレルゲン免疫療法

喘息の中には、その発症と増悪の原因が特定の物質によるアレルギー反応である場合もあります。アレルギーを引き起こす物質をアレルゲンと呼び、喘息の原因アレルゲンとしてはダニ、ハウスダスト、真菌(カビ)、ペットのフケなどが知られています。アレルゲン免疫療法とは、アレルゲンを皮下注射もしくは舌下投与で徐々に少量から体に入れることで、体をアレルゲンに慣らしてアレルギー反応が起こりにくくなるように誘導する治療です。喘息治療ではダニアレルゲンの皮下注射による治療が保険適用となっており、ダニによるアレルギー反応が主な原因となっている患者さんに対し、増悪頻度や必要投薬量の減少効果があります。

アレルゲン投与時には全身性アレルギー反応(アナフィラキシー反応)のリスクを伴います。症状コントロールが不安定な患者さんではそのリスクが上がるためにアレルゲン免疫療法を行うことはできませんが、症状が安定している喘息患者さんでダニアレルゲンを原因とした比較的若年の患者さんでは、喘息の治癒を目的とした唯一の治療法として検討する価値のある治療方法です。ダニによるアレルギー性鼻炎を合併している患者さんでは、舌下投与によるアレルゲン免疫療法も考慮されます。

喘息とほかのアレルギー疾患との関わり

喘息には、アレルギー性鼻炎、好酸球性副鼻腔炎、アレルギー性結膜炎、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎など様々なほかのアレルギー疾患を合併することがしばしばあります。そしてこれらの疾患は症状が出現する臓器が異なっても、好酸球による炎症や同一のアレルゲンに対する過剰反応など、根幹としての原因が喘息と共通している場合があり、1つのアレルギー疾患の治療がほかのアレルギー疾患の治療や予防となりうることもあります

例えば、先述したゾレア®は慢性蕁麻疹に、ヌーカラ®はアレルギー性肉芽腫性血管炎に、それぞれ効果および保険適用があり(用法・用量は喘息のものとは異なります)、アレルゲン免疫療法も鼻炎、結膜炎など複数のアレルギー疾患への治療効果が期待される治療法です。

当院では呼吸器内科外部リンク皮膚科外部リンク耳鼻咽喉科外部リンク小児科外部リンク眼科外部リンク消化器内科外部リンクなどアレルギー疾患に関係する様々な診療科の医師で構成される「アレルギーセンター外部リンク」が2018年に設立されました。当センターでは各科の臨床的な連携を図ることで、臓器別に専門性の高い評価を行いつつ、アレルギー疾患を臓器横断的な疾患と捉えて病態から治療法を考え、患者さんごとに最適な医療を届けることを目標としています。詳細は「診療科の垣根を超えたアレルギー診療を目指して ― アレルギーセンター ―」をご参照ください。

呼吸器内科・喘息グループ(アレルギーセンター担当医)

呼吸器内科・喘息グループ(アレルギーセンター担当医)

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文責:呼吸器内科外部リンク

最終更新日:2024年1月31日
記事作成日:2019年8月1日

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