概要
強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)とは、コンピュータの助けを借りて正常組織への照射線量を抑えつつ、がんに放射線を集中して照射できる画期的な照射技術です。これによって、従来法では不可能であった理想的な放射線治療が可能となり、治療成績の向上や合併症の軽減が期待されています。
放射線を用いたがん治療では、一般的にがんに照射する放射線量を増やせば治療成績も良くなります。したがって、なるべく多くの線量をがんに投与するのが理想的です。しかし、投与線量の増加は、同時に合併症の頻度を高くします。このため、多くの場合に正常組織が耐えられる線量が投与線量の上限となってしまい、必ずしもがんの制御に理想的な線量を投与できないことが多いのです。特に、がんが正常組織を取り囲むように位置している場合、正常組織を避けてがんに十分な線量を照射することは事実上不可能でした。これは、通常の照射方法では、各ビーム内の強度が均一であるために照射された範囲内の線量も基本的に均一となるからです。
このような中、強度変調放射線治療の技術が開発され、近年では積極的に臨床応用されています。IMRTは、通常の照射方法と異なりビーム内の線量を不均一にすること(強度変調)が可能です。コンピュータに何万通りものパターンを計算させて理想的な線量分布を作成し、さらに結果通りの照射を可能とするコンピュータ制御の照射法(図1)に特徴があります。 IMRTの登場によって、正常組織への線量低減が可能となり、結果的にがんへの線量増加も可能となりました(図2)。
図1. IMRTにおけるコンピュータ制御の照射法
図2.頭頚部がんおよび前立腺がんのIMRT照射例
慶應義塾大学病院では2015年末から、最新のIMRT技術であるVMAT(Volumetric Modulated Arc Therapy)が可能となりました。VMATは回転型IMRTとも呼ばれ、ガントリ(治療機から放射線が出る部分)が患者さんの回りを回転しながらIMRTを行います。従来のIMRTに比べ、さらに良好な線量分布と短い照射時間での治療が可能です。
この治療で改善できる病気
IMRTは主に脳腫瘍、頭頸部がん、前立腺がんに用いられることが多いですが、当院では臨床的に意義があると判断すれば、積極的にその他の領域のがんにも用いています。
治療の実際
- 放射線治療医による診察、実施の決定
専門知識を持った放射線治療医が診察し、症例ごとにIMRTが実施可能であるかを判断します。 - 治療計画CT
治療計画を作成するために、治療計画専用のCTを用いてCT写真を撮影します。IMRTには毎回の位置決めに高い精度が必要です。治療計画CTを撮影した時の位置と治療台の上での体の位置がずれてしまうと、本来照射すべきがんに十分な線量を照射できずに、避けるべき臓器に高い線量が照射されてしまうことがあるからです。そのため身体が動かないように型のようなもので固定したりすることもあります。 - 治療計画~検証作業
IMRTでは治療開始前に治療計画装置を用いて何度も線量計算を繰り返し、最適な線量分布を作成します。また、複雑な照射法になるために、実際に患者さんに対して照射を始める前にコンピュータ上のプラン通りに正しく照射されるかを個別に確かめる必要があります(検証作業)。そのため治療計画はCTの撮影から治療開始までに通常の放射線外部照射より長い準備期間を必要とします。 - 治療開始
治療の際には治療機に備え付けの装置でX線撮影やCT撮影を行い、得られた画像により位置のずれがないかを確認して行っています。
文責:
放射線治療科
最終更新日:2021年9月1日