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血管病変のIVR(画像下治療)

けっかんびょうへんのIVR(がぞうかちりょう)

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概要

IVRはInterventional radiology(和名; 画像下治療)の略称で、血管や胆管などの管腔臓器を介して、あるいは穿刺により体内に器具を挿入し、X線透視、血管造影、超音波、CTなどの画像誘導下に治療を行う方法の総称です。低侵襲、迅速に処置・治療が行えることが特徴で、血管病変に対するIVRはこのうち頭からつま先に至るまで、体内の隅々に張り巡らされ、一本に繋ぎ合わせれば全長10万kmにも及ぶ交通網である血管を通路として利用しながら病変に到達し、種々の器具を用いて治療を行います。全身麻酔をしながら皮膚を大きく切り開いて病変に直接アクセスする伝統的な手術方法とは異なり、通常、局所麻酔を施した後、皮膚を数mm切開するだけで、治療が可能であるため、患者さんに及ぼすダメージが少なく、腹腔鏡手術などと同様、低侵襲治療の一翼を担う、新世代の治療法です。
後述の如く、狭い血管を拡げたり、詰まった血管を再開通させたり、出血血管に栓をして出血を止めたり、動脈瘤が破裂しないような器具を留置することなどが、代表的な血管病変のIVRとなっており、PCI(Percutaneous Coronary Intervention)、EVAR(Endovascular Aneurysmal Repair)、CAS(Carotid Artery Stent、)などのアルファベットの頭文字で構成された略語が、血管内治療の中の代表的な治療手技を指し示す言葉として、徐々に一般化しつつあります。

当院では、対象疾患・臓器により、血管病変に対するIVRを担当する診療科が異なっています。例えば、心筋を栄養する冠状動脈の閉塞・狭窄によって生じる狭心症・心筋梗塞や不整脈のカテーテル治療(PCI)は循環器内科医が担当し、脳動脈瘤塞栓術や頚動脈狭窄の治療(CAS)は脳神経外科医が担当しています。頭部・心臓以外の胸部・腹部・骨盤部などの体幹の全身の各領域のIVRは、関連各診療科との密接な連携を保ちつつ主として放射線診断科所属のIVR専門医が担当しています。また、手足(四肢)の動脈硬化性病変は血管外科医と放射線診断科医で協調して行っています。当院放射線診断科は国内でも有数のIVR施行施設で、大学病院としては国内トップの症例数を誇っています。大動脈瘤に関しては、当院放射線診断科が本邦におけるパイオニアとして、瘤破裂予防効果が極めて高い「井上ステントグラフト」による治療を30例以上経験した数少ない施設です。市販品が広く使用可能となった現在では主として心臓血管外科医や血管外科医が担当しており、放射線診断科は複雑な症例における術前・術中処置や術後の追加治療を主に担当し緊密な協力体制を築いています。

所要時間

通常2時間前後であることが多いですが、1時間以内に終了するような簡単な治療もあれば、複雑な血管解剖のために5~6時間を要する場合もあります。

治療を受ける前に

血管造影と同じように、造影剤(ヨード)アレルギー、気管支喘息の既往、腎機能障害がある方では、原則として治療を行いません。その他の術前処置も、血管造影とほぼ同様ですが、症例によっては、特殊な前処置を施すこともあります。
治療に先立ち、原則として担当医が、患者さんやそのご家族に対して、口頭で、治療の目的、方法、他の治療選択肢、期待される効果と発生しうる副作用・合併症の種類と頻度、治療後の経過予測などに関して十分な情報を提供し、また、治療は強制ではなく任意であり、治療を拒否しても患者さんの不利益とはならないなどの説明を行った上で、ご承諾を頂きます。

治療の実際

原則として、X線機器、カテーテルやステントなどの器具が揃っており、専門のスタッフが常駐する中央棟6階の血管造影室において施行されますが、全身麻酔を必要とする場合は血管造影装置が設置されているハイブリッドオペ室で行うこともあります。
治療の対象となる病気は多種多様であり、また、対象臓器・組織は、文字通り全身に及んでいます。

1. 動脈閉塞あるいは狭窄病変に対するバルーン血管拡張術やステント留置術

冠状動脈、頚動脈、腎動脈、腸骨動脈、大腿動脈、透析用シャント血管などの、狭窄あるいは閉塞に対しては、病変部を血管拡張用のバルーン(風船)カテーテルを膨らませたり、ステントと呼ばれる金属の網目で出来た円筒形の構造物を留置したりすることにより、正常な血流を再開させます。
薬剤溶出性ステントなどのように、近年のステントに関する技術革新は目覚ましく、今後ますます適応対象は拡大していくものと目されています。
静脈流出路の狭窄もしくは閉塞によって肝障害を引き起こすバッド-キアリ症候群に対しても、ステントやバルーンを用いて血流を再開させる手技が行われる場合があります。生体肝移植後に生じた肝静脈や門脈の狭窄に対してもバルーンによる血流改善手技が施行される場合があります。

図1 左鎖骨下動脈閉塞に対するステント治療前(左)・治療後(右)

図1 左鎖骨下動脈閉塞に対するステント治療前(左)・治療後(右)

2. 出血に対する動脈(静脈)塞栓術

喀血、吐血や下血などの消化管出血、大量の血尿、外傷や腫瘍破裂などに伴う腹腔内出血や後腹膜出血に対しては、血管造影検査にて出血点を確認し、引き続き、カテーテルを進めて出血点を塞栓物質で栓をすることにより止血します。当院では、夜間や休診日などの緊急症例に対して放射線診断科IVR専門医がオンコールで対応し、いつでも治療が可能な態勢がとられています。
胃静脈瘤に対して硬化剤を注入・充填し、静脈瘤を固めてしまうことにより出血を防ぐ方法が適応となる場合があります。

3. 脾動脈瘤、腎動脈瘤などの血管内治療

大動脈以外の分枝の動脈に生じた瘤に対しては、瘤自体もしくは瘤の出入り口の血管を金属コイルなどの詰め物を用いて塞栓することで、瘤の破裂が起こらないような処置をします。ステントグラフトと呼ばれる人工血管と金属の支持組織が一体化した器具を用い、瘤破裂を予防する処置を行う場合もあります。
脾動脈瘤、腎動脈瘤など、大動脈瘤以外の動脈瘤に関しては、放射線診断科外来にてIVR専門医が治療のご相談を承っております。

4. 血管腫、血管奇形の血管内治療

動脈と静脈が直接交通し症状を生じている動静脈瘻や、血管奇形の一種である動静脈奇形に対しては、液状塞栓物質や金属コイルを用いた塞栓術が行われます。静脈奇形と呼ばれるタイプの血管奇形に対しては、異常血管に直接針を刺して、ここから直接硬化剤を注入して治療を行います。形成外科の専門外来で形成外科医とIVR専門医でお話を伺っています。

5. 下大静脈フィルター

エコノミークラス症候群と俗に呼ばれている肺血栓塞栓症に対して、その発生あるいは再発を防止する目的で、下大静脈フィルターとよばれる器具を挿入することがあります。当院では、留置後に時間が経過していなければ抜去することが可能なタイプのフィルターを用いています。

6. 血管内異物除去

消化管の手術後などに、栄養を補給するために留置された中心静脈カテーテルや、全身化学療法に用いられる静脈カテーテルなどが、何らかの原因で千切れて心臓や肺に流れていってしまうことがありますが、これらは、専用の器具を用いることにより、体外に回収することが可能です。

7. その他の血管病変に対するIVR

血管内に生じた血栓を、粉砕・吸引したり、薬剤と専用のカテーテルを用いて溶解することが出来ます。
脾臓が腫大することにより、血球の破壊が亢進し、貧血や低免疫状態、出血傾向などの症状が出現した場合に、脾動脈の枝を塞栓することにより、脾機能亢進を是正し、上記症状を緩和することが可能です。
術後の肝不全が危惧されるような広範囲の肝切除を行う前に、切除される範囲の門脈を予め塞栓することにより、術後に残存する領域の肝組織の再生肥大を促し、肝切除術後の肝不全のリスクを低減することが出来ます。

治療後の注意

血管造影検査後の注意に準じます。ただし、検査より太いカテーテルを血管に挿入し、ヘパリンという血液が固まりにくくなる薬を使用しながら治療を行うことが多いため、安静期間は24時間程度まで延長することがあります。

治療におけるリスク

血管造影におけるリスクに加え、治療の内容により、痛み、吐き気、嘔吐、発熱、その他の症状が出たり、治療対象臓器の機能障害が生たりする場合があります。

関連リンク

文責: 放射線診断科外部リンク
最終更新日:2015年10月14日

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