概要
サルコイドーシスは、特徴的な病変(非乾酪性類上皮細胞肉芽腫)が全身の様々な臓器に形成される病気です。日本での有病率は10万人に1.01人で、男女比は女性にやや多い傾向にあります。多く発症する年齢として、男性は20歳代、女性は60歳代にピークがみられます。
サルコイドーシスの歴史は1877年のHutchinsonによる皮膚病変の記載が初めてですが、140年以上が経過した現在でも、いまだに原因は不明です。
症状
サルコイドーシスにおける病変は、表在リンパ節、眼、皮膚、心臓、神経系、唾液腺など全身の諸臓器にみられ、あらゆる臓器に由来する症状が出現する可能性があります。臓器病変としては肺が90%以上と最も多く、リンパ節、眼、皮膚が続きます。神経や腎臓、心臓病変は、頻度は下がりますが治療対象となるため注意が必要です。
サルコイドーシスの発見の契機として、肺のレントゲン写真(肺門リンパ節腫張、肺野病変など)で指摘される例があります。症状から発見される場合としては、霧視(ものに霧がかかったように見える)、羞明(ものが眩しく見える)、飛蚊(蚊が飛んでいるような異物が視界に見える)、視力低下(ものが見えにくい)などの眼症状で発見される場合が最も多く、次いで皮膚症状、胸部症状(咳や胸部の痛み)、倦怠感が多いとされています。そのほかに、発熱や唾液腺の腫れ、関節痛などの症状を来す場合もあります。
心臓に肉芽腫が発生した場合には心サルコイドーシスと呼びますが、この場合には不整脈を来し、動悸や失神発作が起こったり、心不全を来したりします。心臓以外の臓器でサルコイドーシスと診断後、数年を経て心病変が明らかになる場合があり、そのため定期的に心電図、心エコー検査を行い経過観察する必要があるとされています。心サルコイドーシスについては循環器内科のサルコイドーシスも併せてご参照ください。
神経にも病変が発生する場合があり、この場合には病気が発症した場所によって様々な症状を来す可能性があります。関節症状は、発病の初期と進展期にみられる場合があります。発病6か月以内には比較的急性の多発関節炎が足、膝、肘、手指関節などに起きますが、数週間で軽快することが多いとされています。進展期には持続する関節炎、手の骨病変に伴う関節症状、指がソーセージのように腫れることもあります。
診断
サルコイドーシスの診断は組織診断群と臨床診断群に分けられ、下記の5点を組み合わせて診断されます。
- 臨床症状
- 特徴的検査所見
- 臓器病変を強く示唆する臨床所見
- 鑑別診断
- 病理所見
サルコイドーシスでは全身の様々な臓器症状が出現する可能性があり、各臓器の症状に応じて検査項目が検討されます。皮膚病変は肉芽腫の証明が診断のために必須となっており、そのほかの臓器病変は悪性腫瘍等鑑別のため、組織診断が望まれます。
診断基準における特徴的検査所見として5項目(1.両側肺門リンパ節腫脹、2.血清ACE活性高値または血清リゾチーム値高値、3.血清sIL-2R高値、4.Ga-67 citrateシンチグラフィまたはF-18 FDG PETにおける著名な集積所見、5.気管支肺胞洗浄検査でリンパ球比率上昇またはCD4/8比が3.5を超える所見)が挙げられ、いずれもサルコイドーシスで陽性率が高いと報告されています。
また、特に重要なのはほかの病気の除外であり、サルコイドーシスによく似た肺、眼、皮膚、リンパ節病変を呈するベーチェット(Behcet)病、シェーグレン(Sjogren)症候群、リンパ増殖性疾患などを慎重に除外することが必要です。いずれかの臓器の組織生検で、乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫を認め、A. B. C.の1項目を満たし他疾患が除外された場合はDefinite(組織診断群)、やむを得ず生検が未施行であるがAのうち1項目以上+Bの5項目中2項目、Cの呼吸器、眼、心臓3項目中2項目を満たし他疾患が除外された場合はProbable(臨床診断群)として診断されます。
検査
血液検査では、血清ACE活性高値、リゾチーム高値、血清・尿中カルシウム高値、高ガンマグロブリン血症がしばしばみられます。以前に陽性であったツベルクリン反応が陰性になることに代表される遅延型反応の低下はサルコイドーシスに特徴的であるとされています。
肺、リンパ節、皮膚筋、肝、眼瞼結膜、心筋、耳下腺、脳、脊髄、末梢神経、腎、骨、関節、胃腸などから組織生検が行われることがあります。
胸部X線、HRCT検査では、肺門や縦隔のリンパ節腫脹と、上肺野中心のびまん性粒状影、斑状影と気管支血管束周囲の不規則な陰影と肥厚がみられます。
治療
サルコイドーシスの70%は予後良好で、発病2年以内に自然に病気が消退します。そのほかの場合には長期間に病変が残存し、一部では進行性かつ難治性となる場合もあります。
薬物治療を行う場合、中心的な役割を担う薬剤はステロイド薬ですが、ステロイドには副作用があること、サルコイドーシスは自然に病気が良くなる可能性もあることを考慮し、ステロイドの全身性投与は持続的あるいは高度な臓器病変がある場合や難治性で進行性の病変がある場合などの限られた症例に対して行い、可能な限り短期的な使用にとどめることが望ましいと考えられています。ステロイドを治療に使用する場合の主たる対象は肺病変、心病変、神経病変と一部の眼病変、高Ca血症を認める場合です。治療前にみられた自覚症状、画像所見、検査所見、臓器障害が改善あるいは安定化し、維持量(プレドニゾロンで1日5mg程度)に減量した後に、3~6か月の経過観察で再燃が認められない場合には終了も検討されますが、その後の再発もありえるため、慎重な経過観察が必要です。
ステロイド治療に抵抗性の場合にはメトトレキサート、アザチオプリン、シクロホスファミドやTNF-α阻害薬をはじめとする生物学的製剤の使用なども考慮されますが、いずれも保険適用はなく、慎重に判断する必要があります。
生活上の注意
「症状」の項目に記載の通り、心臓以外の臓器でサルコイドーシスと診断後、数年を経て心病変が明らかになる場合があり、そのため定期的に心電図、心エコー検査を行い経過観察する必要があるとされています。動悸などの症状が出現した場合には早めに主治医にご相談ください。
慶應義塾大学病院での取り組み
サルコイドーシスは全身の様々な臓器に病変が発生する可能性がある病気です。慶應義塾大学病院では病変が出現した臓器に応じて、各臓器の専門科と綿密な連携を図りながら、サルコイドーシスの患者さんの診療にあたっています。
さらに詳しく知りたい方へ
サルコイドーシス(難病情報センター)
慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科
文責:
リウマチ・膠原病内科
最終更新日:2024年7月9日