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シェーグレン症候群(Sjögren's syndrome: SS)

しぇーぐれんしょうこうぐん

概要

シェーグレン症候群はドライアイやドライマウスを特徴とする全身性の自己免疫疾患であり、1933年にスウェーデンの眼科医シェーグレンにより報告されました。主に涙腺、唾液腺が障害されることで乾燥症状を来しますが、発熱、全身倦怠感、リンパ節腫脹、関節痛、皮疹、血球減少、間質性肺炎、間質性腎炎、末梢神経障害、脊髄炎など全身の臓器に様々な異常を引き起こすこともあります。遺伝的要因や環境要因、免疫異常、女性ホルモンの影響など様々な要素が発症に関与すると考えられていますが、はっきりとした原因は分かっていません。

日本国内では1年間に約7万人のシェーグレン症候群の患者さんが病院を受診しているとされますが、潜在的な患者数は10~30万人程度存在すると推測されています。発症年齢は50歳代にピークがありますが、子供からお年寄りまで発症する可能性があり、男女比は1:14程度とされています。

シェーグレン症候群はほかの膠原病(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎、混合性結合組織病など)に合併する二次性シェーグレン症候群と、これらの合併のない原発性シェーグレン症候群に分類されます。特に関節リウマチの患者さんでは約20%に発症するとされています。家族内でシェーグレン症候群が発症する率は2%程度とされています。

シェーグレン症候群は難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)に基づく指定難病の一つであり、重症者や継続的に高額医療費の負担がある場合には医療費助成制度の対象となります。

症状

涙腺や唾液腺が障害される腺症状と、ほかの臓器が障害される腺外症状の二つに大別されます。軽度の腺症状のみの方から重度の臓器障害を伴う場合まであり、症状には個人差が大きいですが、基本的には予後良好な疾患です。

腺症状

唾液腺や涙腺などが自身のリンパ球により徐々に破壊され、ドライマウスやドライアイをはじめとする乾燥症状が出現します。また、唾液腺の腫れが繰り返し生じることもあります(図1)。

図1.唾液腺の腫れ

図1.唾液腺の腫れ

腺外症状

発熱や倦怠感といった全身症状から、皮膚、関節、肺、腎臓、神経など全身の様々な臓器に障害が生じることがあります。

臓器

症状

腺症状

口が渇く、虫歯の増加、味覚障害、食べにくい、口内炎

眼が乾く、眼精疲労、眼の違和感、視力低下、目やに

鼻が乾く、風邪をひきやすい、鼻出血しやすい

気道

声がかすれる、咳がでやすい、風邪をひきやすい

膣炎、性交時不快感

腺外症状

全身

微熱、倦怠感

関節・筋肉

関節炎、関節痛、筋肉痛

間質性肺炎

腎臓

間質性腎炎

筋肉

筋炎

皮膚

環状紅斑、紫斑

甲状腺

甲状腺炎

神経

末梢神経障害、脊髄炎

血液

好中球減少、リンパ球減少、貧血、血小板減少


診断

日本では1999年に改訂された厚生労働省の診断基準が主に用いられています(表2)。唾液分泌能の検査としてはガムを噛んで分泌された唾液量を評価するガムテスト、涙腺分泌能の検査としてはろ紙を眼の端にぶら下げて涙の量を測定するシルマー試験や角膜表面の傷の状態を確認する蛍光染色試験などが行われます。またリンパ球が腺組織を攻撃しているかどうか確認するため口唇生検や涙腺生検が実施されることもあります。血液検査ではシェーグレン症候群に特徴的とされる抗SS-A抗体や抗SS-B抗体の有無について確認します。その他、腺外症状を調べるために、障害されているそれぞれの臓器に対応した検査を行います。たとえば、肺を調べるためレントゲンやCT検査、腎臓を調べるための尿検査などです。

シェーグレン症候群(SjS)改訂診断基準(厚生労働省, 1999年)

  1. 生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
    A)口唇腺組織でリンパ球浸潤が4mm22当たり1focus 以上
    B)涙腺組織でリンパ球浸潤が4mm2当たり1focus 以上
  2. 口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
    A)唾液腺造影で stage I(直径1mm以下の小点状陰影)以上の異常所見
    B)唾液分泌量低下(ガムテスト10分間で10mL以下,又はサクソンテスト2分間2g以下)があり,かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見
  3. 眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
    A)シルマー(Schirmer)試験で5mm/5min以下で,かつローズベンガルテスト(van Bijsterveld スコア)で陽性
    B)シルマー(Schirmer)試験で5mm/5min以下で,かつ蛍光色素(フルオレセイン)試験で陽性
  4. 血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
    A)抗SS-A抗体陽性
    B)抗SS-B抗体陽性

以上1,2,3,4のいずれか2項目が陽性であればシェーグレン症候群と診断する


治療

現時点ではシェーグレン症候群を根治させることは困難なため、乾燥症状に関しては対症療法、ほかの臓器障害に対してはステロイドや免疫抑制薬による治療を行います。ただ近年ではシェーグレン症候群を対象とした新たな薬剤が複数開発されており、治験や臨床試験が行われている場合があるため、興味がある方は主治医にご相談ください。

眼乾燥に対する治療

  • 基本的には点眼薬による対症療法が主となり、粘液分泌を刺激し水分保持効果のあるジクアホソルナトリウム(商品名:ジクアス点眼液®)、角膜上皮細胞の修復や粘液産生細胞を増加させるレバミピド(商品名:ムコスタ点眼液®)、ヒアルロン酸ナトリウム(商品名:ヒアレイン®)、涙の補充のため人工涙液(商品名:マイティア®、商品名:ソフトサンティア®など)などの点眼薬が用いられます。
  • 点眼薬以外の治療法としては、涙の排出を低下させるため上下のまぶたの鼻側にある涙点を閉じる涙点プラグ挿入術や涙点閉鎖術などがあります。

詳しくは「ドライアイ」(眼科)、KOMPASあたらしい医療「ドライアイの病態解明をめざしてー臨床と基礎研究をつなぐー」をご参照ください。

口腔乾燥に対する治療

  • 唾液の分泌促進にはセビメリン(商品名:サリグレンカプセル®、商品名:エボザックカプセル®)、ピロカルピン(商品名:サラジェン®)などの薬が使われます。消化器症状や発汗などの副作用があるため、症状をみながら使用していきます。
  • 唾液の補充には人工唾液(商品名:サリベートエアゾール®など)を用います。噴霧式のものは舌の上だけでなく、舌下、頬粘膜にも噴霧したほうが口内で長持ちします。冷蔵庫で保存すると不快な味が軽くなります。
  • ほかにも漢方薬では麦門冬湯などが使われます。シュガーレスガムやレモンなども唾液分泌の刺激になります。
  • 抗うつ薬、抗パーキンソン薬、抗ヒスタミン薬などは口腔内乾燥作用があり、乾燥症状を悪化させることがあるため、使用に際しては主治医とよく相談することが大切です。

ほかの乾燥症状に対する治療

膣乾燥に対してはエストロゲン入りのクリームを使用することがあります。皮膚に対しては、熱いお湯に入ることや石鹸の使用は控えることをおすすめしています。

臓器病変に対する治療

皮膚、関節、肺、腎臓、神経など全身の様々な臓器が障害されうるため、それぞれの病変の重症度に応じて、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬を使用します。また、悪性リンパ腫や原発性マクログロブリン血症など血液疾患をまれに合併するため、その場合は血液内科と連携して治療を行います。

生活上の注意

日常生活では以下を心掛けてください。

  1. エアコン、飛行機の中、タバコの煙などに注意しましょう。
  2. ブラッシングやうがいを含めた口腔内ケアをきちんと行いましょう。
  3. 刺激物や甘いものは控えるようにしましょう。
  4. 規則正しく、十分な睡眠と栄養バランスのとれた生活を心がけましょう。
  5. 病気について正しく理解し、上手につきあっていきましょう。

妊娠された場合の注意点

抗SS-A抗体陽性の方が妊娠した場合は、抗体が胎児に移行することで新生児ループスを起すことがまれにあります。多くの症状は生後半年頃には治まりますが、先天性心ブロックが生じた場合にはペースメーカー留置が必要となるため、不整脈発症に注意しつつ産科や小児循環器科と連携していく必要があります。妊娠時には主治医によくご相談ください。

慶應義塾大学病院での取り組み

慶應義塾大学病院では、眼科・歯科口腔外科と協力しながら、シェーグレン症候群の診療にあたっています。多くの方は乾燥症状以外の臓器病変はないか、あっても軽いものですが、中には治療を必要とすることもありますので、定期的なチェックをし、早期発見に努めています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リウマチ・膠原病内科外部リンク
最終更新日:2024年7月9日

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