症状
下腹部や外陰部、肛門の周囲に生じる皮膚がんです。一般的には赤い色素斑として生じることが多く、月単位、年単位で大きくなってきます。褐色の色素斑として生じたり、肌色が抜けて白い色素斑として生じたりすることがあります。また、実際にがんが広がっている範囲が、目で見える範囲を超えていることがしばしばあります。痛みや痒みといった症状はないことが多く、自分で気付きにくいため、大きくなってから受診することが多いです。また、痒みを感じることもありますが、そのような場合、白癬(みずむし)や湿疹と思い込まれ、誤って治療されるケースがあります。
まれに腋(わき)の下や臍(へそ)の周りにも生じることがあります。
診断、治療されずにいると悪化し、斑の中にびらんや痂皮(かひ:かさぶた)、しこりが生じて出血するようになったり、リンパ節や肺などに転移を生じます。
診断
問診、視診、触診などで乳房外パジェット病が疑われた場合、診断のために皮膚生検という顕微鏡の検査で確認します。診断後は、病気の広がりや転移の有無を確認し治療の方法を検討するため、マッピング生検やCTなどの画像検査を行います。 マッピング生検は、目で見える病変の端から1cm程度離れた箇所を複数生検する検査であり、短期間の入院で実施されることが多いです。生検した箇所を点として、点と点とを線で繋いだ範囲を切除することにより、がんを全て取り除くことが可能となります。
治療
乳房外パジェット病の治療としては、手術による切除が第一選択となります。顕微鏡の検査で全て取り除けたことを確認します。治療はこれで終わりとなりますが、その後も再発や転移がないことを確認するために、定期的な通院が必要になります。ただし、病変が大きい場合など、切除後の皮膚の欠損が大きく単純に縫い縮めることが難しい場合、皮膚の欠損を埋める方法として、体のほかの部位からの皮膚の移植(植皮)が用いられます。また、病変が尿道や肛門に広がる場合は、尿路変更術や人工肛門造設術など大がかりな手術が必要になるケースがあります。
手術以外の治療法として、放射線治療があります。放射線治療は、手術ができない場合などに選択されます。手術に比べると、治療中の皮膚炎などの副作用や治療後の再発リスクが高いものの、身体的な負担は少ない治療法です。
手術で取り切ることができない、リンパ節や肺などへの転移がある場合、治すことを目指した治療はなく、病気の悪化を防ぐことが治療の目標になります。その場合、抗がん剤による治療が実施されます。実施される抗がん剤治療に決まった治療法はないものの、全国的にはドセタキセルという抗がん剤が最も用いられています。しかし、乳房外パジェット病に対する効き目が得られないこともあります。
図1.外陰部の乳房外パジェット病
生活上の注意
手術を受けたあと
手術による傷が落ち着くまでは、担当医の指示にしたがって傷の手当をしたり、運動などを制限したりします。また、乳房外パジェット病が再発しないことを確認するため、定期的な通院をします。指示がなければ生活における注意はありません。
抗がん剤による治療を受けている間
抗がん剤は、薬による副作用が多く、重く出ることもあります。皮膚、胃腸や骨髄への副作用が生じやすいため、スキンケアや食事、服薬や感染予防など、担当医の指示に従うようにしましょう。
慶應義塾大学病院皮膚科での取り組み
慶應義塾大学病院皮膚科は、全国的にも乳房外パジェット病の患者さんが多く通院されています。
手術や放射線治療に精通した医師たちが、チーム医療を提供します。
抗がん剤治療は、ドセタキセル治療のほか、TS-1との併用治療や、5-FUとシスプラチンとの併用治療、パクリタキセルとエピルビシンとシスプラチンの併用治療を実施しています。当科では、転移のある患者さんを対象とした患者申出療養「HER2陽性の進行期乳房外パジェット病に対するHER2阻害薬療法[TEMENOS trial]」を2020年7月より開始しており医師主導治験も実施しています。
実施情報(2023年7月現在)
医師主導治験
病名 |
治験名 |
使用する治験薬 |
---|---|---|
乳房外パジェット病 |
トラスツズマブエムタンシン |
|
乳房外パジェット病など |
ニボルマブ |
患者申出療養
病名 |
治験名 |
使用する治験薬 |
---|---|---|
乳房外パジェット病 |
HER2陽性の進行期乳房外パジェット病に対するHER2阻害薬療法の安全性及び有効性評価試験 [TEMENOS trial] |
トラスツズマブエムタンシン |
【お問い合わせ先】
慶應義塾大学病院皮膚科医局
03-3353-1211(内線:62413)
電話受付時間:平日10:00~16:00(夜間・休祝日は受付できません)
皮膚生検やCT、PET-CTなど画像検査の結果に基づいて正確に診断し、手術、放射線治療、抗がん剤治療など、患者さんの病態に合わせた治療法を選択していただけるよう努めております。なお、抗がん剤治療は入院だけでなく、外来で行うことも可能です。また、万一の再発を早期に発見し、早期に治療できるよう、治療後も外来で定期的な検査や診察を行います。
さらに詳しく知りたい方へ
- 皮膚悪性腫瘍ガイドライン(日本皮膚科学会)
全国の皮膚科医が参加して構成する学会組織の患者さん向けのWebサイトです。日本における乳房外パジェット病の治療ガイドラインが閲覧可能です。 - 乳房外パジェット病パンフレット(NPO法人Dermy)
NPO法人皮膚がん・免疫・アレルギー疾患治療支援センターが作成した乳房外パジェット病の患者さん向けパンフレットが閲覧可能です。そのほか、患者申出療養[TEMENOS trial]の情報も閲覧可能です。
文責: 皮膚科
最終更新日:2023年7月7日