概要
新生児(生まれてから30日以内の赤ちゃん)の聴力検診のことです。聴覚障害は早期に発見し、適切な療育、援助を受けることでコミュニケーションの形成や言語発達の面で大きな効果が得られます。近年新生児期でも正確度が高く安全で、多数の児に短時間で簡便に検査ができる検査機器が開発され、新生児聴覚スクリーニングが可能になりました。現在では約80%の新生児が検査を受けています。
新生児聴覚スクリーニング検査機器
新生児聴覚スクリーニングに使用する聴覚検査は2つの方法があります。慶應義塾大学病院では自動聴性脳幹反応を施行しています(なお検査の詳細は聴覚機能検査の項も合わせてご参照ください)。
- 自動聴性脳幹反応(以下「自動ABR」と略します)
音に対する反応を脳波で検出する方法で、検査機器自体に自動判定機能が備わっています。
35dBというささやき声くらいの大きさの音に対する反応を見ており、軽度の難聴から発見することが可能です。 - 耳音響放射(以下「OAE」と略します)
内耳の機能を測定して自動判定する方法です。刺激音を聞かせることにより内耳から発生する微弱な反応を測定します。耳垢、中耳内の貯留液やいびきなどの雑音に影響を受けるため要再検率が高いです。
新生児聴覚スクリーニングの判定
前述したどちらの検査とも、精密検査が必要な患児を選ぶためのものであり、仮に検査の結果が悪くても、この時点で難聴であると診断されるわけではありません。反応が不明確なため精密検査が必要ということなのです。生まれてしばらくは耳の穴や鼓膜の奥に羊水がたまっていると検査の結果がたまたま悪く出ることもありますし、神経の発達には個人差もあります。そのために再検査となる場合があります。 「パス(pass)」の場合は検査による反応が得られたということであり、検査時点では正常な聴力であると考えられます。しかし、「要再検査(refer)」の場合は検査による反応が得られなかったので、再検査が必要です。何回かのスクリーニング検査で「要再検査(refer)」の場合は、反応が得られなかった原因を調べるために精密検査が必要です。
スクリーニング検査後の対応
- 「パス(pass)」の場合
検査時点での難聴はないものとしてよいが、後天性あるいは遅発性の難聴の有無について保証されるものではありません。自治体や病院で行われる乳児、1歳半、3歳児健診を受けることをお勧めします。 - 「要再検査(refer)」の場合
スクリーニング検査で「要再検査(refer)」となる割合は片側の「要精査」の例も含めて、自動ABRでは約1%で、OAEではこれよりやや高くなります。スクリーニングでの「要精査」は直ちに難聴の診断が下ったわけではありません。何回かの検査にて「要再検査(refer)」の場合、必ず精密検査機関を受診してください。精密検査とは耳鼻咽喉科(日本耳鼻咽喉科学会で選定された医療機関)で行われるものです。耳鼻咽喉科医の診察後に、鎮静下で聴性脳幹反応 (ABR) や聴性定常反応 (ASSR)などの他覚的検査と、乳幼児聴覚検査(BOA, COR)による自覚的な反応をみる検査を組み合わせて評価を行います。なお、当院は新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機関に選ばれています。
耳鼻咽喉科での精密検査と難聴の診断
乳幼児の聴覚障害を診断するにあたって成人と大きく異なる点は、乳幼児本人から直接聴こえているかどうかを確認したり、純音聴力検査の応答を得ることができないことです。このため診断は難しく、生後1か月以内に難聴であると確定できません。海外では「生後1か月までには聴覚スクリーニングの過程を終え、生後3か月までに精密診断を実施し、生後6か月までに支援を開始する (1-3-6ルール) 」という方針も作成されています。難聴が発見され次第、補聴器装用の指導や療育を開始し、聴覚口話(音声を介したコミュニケーション)と手話や指文字などの視覚を併用した方法など児に合った対応を検討します。
さらに詳しく知りたい方へ
文責: 耳鼻咽喉科
最終更新日:2023年3月13日