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神経膠腫

しんけいこうしゅ

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概要

脳は神経細胞と神経膠細胞(グリア細胞)から構成されていますが、神経膠腫(グリオーマ)は、脳内の神経膠細胞由来と考えられています。組織学的特徴から、星細胞系腫瘍(せいさいぼうけいしゅよう:astrocytic tumor)、乏突起膠細胞系腫瘍(ぼうとっきこうさいぼうけいしゅよう:oligodendroglial tumor)、上衣系腫瘍(じょういけいしゅよう:ependymal tumor)に大別され、さらに悪性度がgrade 1(軽度)からgrade 4(高度)に分類されます。脳実質内に発生し浸潤性に増殖することを特徴とし、しばしば低悪性度の腫瘍が経過中に高悪性度に転化することが知られています。

治療

治療は、手術でできるだけ腫瘍を取り除いた後に、その組織診断に基づいて術後の放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)を行うのが原則です。ところが、グリオーマは正常脳組織に浸潤する性格を持つため、周囲の脳との境界が不明瞭であり、また、運動野や言語中枢の場所には個人差があるため、MRIなどの画像上でこれらの機能的に重要な場所を確認することは容易ではありません。そのため、運動麻痺や言語障害などの症状を悪化させずにグリオーマを効果的に摘出することは困難とされてきました。

慶應義塾大学病院(以下、当院)では、functional MRIやtractographyなどにより、機能的に重要な場所を確認して、手術戦略を決定しています。また、手術に際しては、ナビゲーションシステム(手術操作部位を術前MRI上で確認できる)、運動神経誘発電位などの電気生理学的モニタリング(運動機能の温存に有用)、覚醒下手術(言語機能、運動機能の確認、温存に有用)、蛍光色素ガイド下手術(5-ALAという腫瘍だけに取り込まれる色素を術前に飲む)など、最新の設備、技術を用いて手術が行われており、手術摘出率の向上、脳機能温存に努力しています(図1)。

図1

図1

浸潤性腫瘍であるグリオーマには多くの例で放射線治療が施されます。放射線治療は有効ですが、放射線感受性が高い腫瘍ではなく、また正常脳への影響を考えると照射量には限度があります。当院には、IMRT (Intensity Modulated Radiation Therapy: 強度変調放射線治療)という新照射技術があり、腫瘍への放射線量を増やし、正常脳の被爆線量を減らす新しい放射線治療も行っています。

従来グリオーマに対しては、主にニトロソウレア系抗がん剤が使用されてきましたが、現在では、2006年秋より市販された新規経口抗がん剤テモゾロミド(temozolomide)が主力となっています。テモゾロミドは、放射線との併用により膠芽腫(grade 4)患者の生存期間を延長することが臨床試験で示された初めての薬剤で、副作用も比較的軽度です 。テモゾロミドの効果は、DNA修復酵素MGMT(O6-methylguanine-DNA methyltransferase)の発現の多寡と相関することが知られています。また、特定の染色体異常、つまり染色体1番短腕(1p)、19番長腕(19q)の欠失をもつグリオーマは化学療法感受性が高く、予後も比較的良好であることが知られています。さらに、最近、IDH (isocitrate dehydrogenase)遺伝子の変異をもつグリオーマは予後が良いことも分かりました。当院では、これら最新の情報を先駆的に臨床応用しています。

当院では、全グリオーマ症例に対して日常的に1p、19q、MGMT、IDHなどの遺伝子検査を行っており、その結果に基づいて術後の治療方針を決定しており(図2)、更なる治療成績向上と、より優れた治療戦略の確立を目指しています。特に、これらの遺伝子解析から化学療法が効くと予想される場合には、まず化学療法で腫瘍を小さくした後に本格的摘出を行う、術前化学療法の治療戦略をグリオーマに対して先駆的に行っており、化学療法感受性グリオーマ(1p/19q codeletionあり、あるいはMGMTメチル化あり)の根治を目指しています(図3)。

図2

図2

図3

図3

さらに、当院では、海外において再発悪性グリオーマに対して有効性が認められているベバシズマブ(アバスチン)療法や、腫瘍新生血管を標的とした免疫療法(VEGFRペプチドワクチン療法)など、グリオーマに対して有望な治療法をいち早くとり入れ、治療を行っています。

近年ようやくグリオーマの治療成績に改善が見え始めましたが、依然として多くの例で命に関わる病気です。最新の情報に敏感に、現在までの進歩を最大限に生かし、個々の患者さんに対して適切な治療を施していくことが重要と考えています。

文責: 脳神経外科外部リンク
最終更新日:2022年4月5日

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