慶應発サイエンス
関節リウマチ、治療目標達成後の薬剤減量
関節リウマチの治療に残る課題
関節リウマチは、免疫の異常によって関節に炎症が起こり、痛みや腫れ、こわばりを引き起こす病気です。治療が不十分なまま経過すると、関節の変形や機能低下につながり、仕事や家事、歩行など日常生活に大きな影響を及ぼします。そのため現在は、できるだけ早い時期から治療を始め、炎症をしっかり抑えて、症状のない状態に近づけることが重要とされています。近年はメトトレキサートや生物学的製剤(注1)などの治療薬の進歩により、多くの患者さんで病気を良好にコントロールできるようになり、「寛解」や「低疾患活動性」と呼ばれる落ち着いた状態を目指せるようになってきました。
しかし、病状が安定したあとには新たな悩みが生まれます。「このままずっと同じ量の薬を続けるべきか」「薬を減らすことはできないか」という点です。薬を継続すれば再燃を防ぎやすい一方で、副作用への不安、注射や通院の負担、医療費の問題があります。特に、長く病状が落ち着いている患者さんほど、薬を減らせるかどうかは大きな関心事です。とはいえ、薬を減らしすぎれば再び炎症が強まり、関節へのダメージが進むおそれもあります。どの患者さんで、どの薬を、どの程度の速さで減らすのがよいのかについては、これまで十分な根拠がありませんでした。
SORAIRO試験の概要
そこで私たちは、関節リウマチの患者さんを対象に「SORAIRO試験」を行いました。これは全国の58施設が参加した無作為化比較試験(注2)で、生物学的製剤の一つであるTNF阻害薬(注3)のオゾラリズマブとメトトレキサートの併用治療で寛解または低疾患活動性に達していた149人の患者さんを、治療継続群、オゾラリズマブ延長群、メトトレキサート減量群の3つに分け、48週間経過を追いました。オゾラリズマブ延長群では注射の間隔を4週ごとから6週ごと、さらに8週ごとへと延ばし、メトトレキサート減量群では8週ごとに2mgずつ減量しました。治療を急にやめるのではなく、段階的に負担を軽くできるかを調べた研究です。
その結果、48週後に低疾患活動性を保てていた割合は、治療継続群で97.9%、オゾラリズマブ延長群で79.2%、メトトレキサート減量群で72.7%でした。患者さん全体でみると、薬を減らす方法は治療をそのまま続ける方法と同等とはいえませんでした。つまり、病状が落ち着いているように見えても、まだ再燃しやすい患者さんが一定数いることが示されました。特に、「低疾患活動性」にとどまっている段階では、減量は必ずしも簡単ではありませんでした。
ただし、ここで重要な点があります。試験開始時点ですでに「寛解」に入っていた患者さんに限ると、48週後も寛解を維持できた割合は、治療継続群77.4%、オゾラリズマブ延長群76.7%、メトトレキサート減量群79.2%で、大きな差はみられませんでした(図1)。十分に病気が抑えられている患者さんでは、慎重に様子をみながら薬を減らせる可能性があることが分かりました。反対に、見かけ上は落ち着いていても、寛解に十分達していない患者さんでは、まだ治療を維持した方がよい場合があることも示しています。

今後の展望
さらに、薬を減らしたあとに病状が悪化した場合でも、多くの患者さんは元の治療に戻すことで、再び病気を抑えることができました。身体機能やX線でみた関節破壊の進行には大きな差がなく、副作用は減量群でやや少ない傾向もみられました。これは、患者さんを適切に選び、再燃の兆候を丁寧に追いながら減量を進めれば、薬剤調整が現実的な選択肢になり得ることを示しています。患者さんにとっては、必要以上に治療を強く続けるのではなく、その時の病状に合わせて治療の強さを見直していく可能性を示した結果ともいえます。
今回の研究は、「関節リウマチが落ち着いたら誰でもすぐに薬を減らせる」ということを示したものではありません。大切なのは、病気がどこまで深く抑えられているかを見極めることです。今後は、どの患者さんが安全に減量しやすいのかをさらに詳しく明らかにし、一人ひとりに合った、無理のない治療につなげていきたいと考えています。
【用語解説】
(注1)生物学的製剤
炎症に関わる特定の分子を狙って働く薬剤である。関節リウマチでは、炎症を引き起こす物質の働きを抑えることで、症状や関節破壊の進行を抑えることが期待される。
(注2)無作為化比較試験
患者さんをいくつかの治療群にランダムに割り付けて比較する研究方法である。治療の効果や安全性を公平に評価しやすく、臨床研究の中でも信頼性が高い方法の一つである。
(注3)TNF
「腫瘍壊死因子」と呼ばれる、炎症を強めるタンパク質の一つ。関節リウマチではこの物質が過剰に働くことで、関節の痛みや腫れ、破壊に関わると考えられている。
参考文献
Spacing of a TNF inhibitor or dose reduction of methotrexate vs continued treatment in patients with rheumatoid arthritis in remission or low disease activity: a randomised, controlled trial (SORAIRO trial). Imai Y, Kono M, Ishii T, Kojima T, Hirata S, Tanaka Y, Tanaka E, Ohmura K, Okamoto S, Matsumoto R, Sato Y, Yamamura T, Takeuchi T, Kaneko Y. Ann Rheum Dis. 2026 Apr;85(4):609-619. doi: 10.1016/j.ard.2026.02.004. Epub 2026 Feb 28.
