慶應発サイエンス

夜の塩分は高血圧の元?「食べる時間」と血圧の関係

背景:なぜ「食べる時間」が大切なのか?

私たちの身体には、約24時間周期で睡眠や体温、血圧などをコントロールする「体内時計」(注1)が備わっています。

体内時計は全身の細胞にありますが、実は場所によって時刻合わせの仕組みが異なります。

・ 頭の時計(中枢時計): 主に「光」を浴びて朝夕の時刻合わせをします。
・ お腹の時計(末梢時計): 肝臓や腸などにあり、「食事のタイミング」で時刻合わせをします。

これまでのマウスを使った研究では、同じカロリーの食事をしていても、あえて寝るべき時間帯にばかり食べさせると、太りやすくなることが分かっていました。これは、頭とお腹の体内時計のタイミングがバラバラになってしまう「体内時計のズレ」が原因です。

しかし、これまで「塩分を摂るタイミング」が体内時計や血圧にどんな影響を与えるかは、よく分かっていませんでした。

今回の研究で分かったこと

私たちは夜行性マウスを使って、「塩分(ナトリウム)を処理する能力」と「食べる時間」の関係を詳しく調べました。その結果、以下の興味深い結果が明らかになりました(図1)。

1. 腸とホルモンの「ダブル時計」が塩分吸収を調節している

健康な状態では、腸が塩分を吸収する働き(遺伝子)は時間帯によって変化していることが分かりました。この変化は、「腸の体内時計」と、「血圧をコントロールする副腎ホルモン(アルドステロン)」の2つがセットで働くことで調節されています。実験でこれらの働きをストップさせると、塩分吸収を調節する遺伝子のリズムが乱れ、血圧が下がりました。

2. 「不適切な時間」の塩分は、体内時計をバラバラにする

次に、マウスが本来寝ている時間帯(人間でいうと夜中や夜食の時間)にだけ食事を与えてみました。すると、少ない塩分量であっても腸の時計とホルモンのリズムにズレが生じました。その結果、人間でいうと「日中は高く、夜は下がる」という血圧の自然なメリハリが小さくなってしまいました。

3. 「夜間の高い塩分」が、夜間高血圧を招く

さらに、寝ている時間帯にだけ「高い塩分」の食事を与えたところ、体内時計やホルモンのリズムが完全に乱れてしまいました。

その結果、本来なら血圧が下がるはずの睡眠中にも血圧が下がらず、人間の「夜間高血圧」に類似した状態になりました。通常、塩分を多く摂りすぎると、身体は血圧が上がりすぎないようにホルモンを抑えてブレーキをかけますが、夜間に塩分を摂るとこのブレーキが上手く働かなくなることも示唆されました。

図1.塩分摂取のタイミングと概日リズム
マウスに活動する時間帯にのみ低塩分の食事を与えると、腸の体内時計とホルモンは同調したリズムで塩分吸収を調節する遺伝子のリズムをもたらし、寝ている時間の血圧が低下するが(上段)、寝ている時間帯にのみ高塩分の食事を与えると、腸の体内時計のリズム乱れとホルモンの抑制(活動時間帯のみ高塩分の食事を与えた場合と比較して不十分な抑制)が生じ、塩分吸収を調節する遺伝子のリズム乱れや、寝ている時間の血圧が下がらなくなることが明らかとなった(下段)。(Torimitsu T, Kinouchi K, et al. Sci Adv. 2026 より抜粋、改変、Biorenderにて作図。)
Kinouchi, K. (2026) https://BioRender.com/1w4vpbq

まとめ:私たちの生活への教訓

人間において、寝ている間も血圧が下がらない「夜間高血圧」は、心臓病や脳卒中のリスクを高めることが分かっています。今回の研究により、「夜遅くに塩分を摂ることで起こる体内時計の乱れ」が、その原因の1つである可能性が明らかになりました。

今後は、食事や睡眠といった日々の行動が、体内時計を通じてどのように健康を守っているのか、さらに研究を進めていきます。将来的には、「食べる時間」を工夫することで、高血圧や肥満などの生活習慣病を効果的に予防・治療する新しい方法につながることが期待されます。

【用語解説】

(注1)体内時計

昼と夜の変化に合わせて約1日周期で自然にリズムを刻み、私たちの体の働きをコントロールしている遺伝子やタンパク質などの集まり。

参考文献

Circadian reprogramming by timed sodium intake reveals transcriptional pathways of daily salt handling in the colon.
Torimitsu T, Kinouchi K, Changizi Ashtiani K, Abdelkarim S, Sato T, Kozuma T, Yao N, Iwahara A, Kato K, Tonomura S, Nakamura T, Yokota K, Kurihara I, Baldi P, Itoh H, Hayashi K.
Sci Adv. 2026 Mar 13;12(11):eady9244. doi: 10.1126/sciadv.ady9244.

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