あたらしい医療

パーキンソン病センター

慶應義塾大学病院パーキンソン病センターの現在―広がるチーム医療で、治療と暮らしを支える―

はじめに

パーキンソン病は、動作の遅さ、筋肉のこわばり、手足の震え、歩行障害などの運動症状に加え、便秘、立ちくらみ、睡眠障害、精神症状、認知機能の変化などの非運動症状を伴う病気です。症状や生活への影響は一人ひとり異なり、進行や加齢に伴って必要な支援も変化します。近年は内服薬に加えて脳深部刺激療法(DBS)や持続皮下注療法(商品名:ヴィアレブ®)など治療選択肢も広がり、安全な導入と長期継続を支える専門的な体制が求められています。

多職種連携によるチーム医療の取り組み

慶應義塾大学病院では、2022年10月にパーキンソン病センターを開設しました。「多職種によるチーム医療を推進し、安心・安全に適切かつ先端的な医療を提供する」ことを理念に、神経内科、脳神経外科、リハビリテーション科、精神・神経科などの診療科と、看護師、理学療法士、言語聴覚士、薬剤師、管理栄養士、公認心理師、医療ソーシャルワーカーなどが連携しています。開設から約4年が経過し、外来診療から自宅での療養生活までを支える体制へと発展してきました。

看護師による療養支援の取り組み

当センターでは、医師から依頼のあった患者さんを対象に、診察の前後に看護相談を実施しています。看護師は薬の効きにくい時間帯、ジスキネジアの有無、便秘、睡眠、幻覚などの症状に加え、転倒、通院、ご家族の支援、介護サービスの利用状況などを整理します。診察時間だけでは伝えきれない生活上の困りごとを把握し、医師や他職種につなぐことで、治療と生活を結ぶ役割を担っています。

持続皮下注療法やDBSなどのデバイス補助療法を検討する際には、資料や実際の機器を用いて、治療の流れや日常生活での使用方法について説明しています。患者さんとご家族が治療後の生活を具体的にイメージし、十分に納得したうえで治療を選択できるよう支援しています。

外来リハビリテーションの取り組み

当センターでは、当院で診療を受けているパーキンソン病患者さんを対象に外来リハビリテーション(理学療法・言語聴覚療法)を実施しています。

理学療法士は、姿勢や歩行などを評価し、身体を大きく動かす練習や自宅で継続できる運動を提案しています。言語聴覚士は、声が小さくなる、滑舌が悪くなる、食事中にむせる、飲み込みにくいといった症状に対し、発声や嚥下の訓練を行います。「話すこと」と「食べること」を長く維持することは、コミュニケーションや生活の楽しみを守るだけでなく、誤嚥性肺炎の予防にも重要です。リハビリテーションは早い時期から生活に取り入れ、継続することが大切です。

理学療法の様子
言語聴覚療法の様子

オンラインリハビリテーションの取り組み

当センターの特徴的な取り組みのひとつが、2022年4月から続けているオンラインリハビリテーションです。週2回の生放送で行っており、2026年11月現在で430回を超えています。患者さんは自宅からWeb会議システムを通じて参加し、理学療法士や言語聴覚士の指導のもと、運動や発声練習を行います。日常生活に役立つ情報や、医師による最新治療の話題も提供しており、学びの場にもなっています。当センターの研究では、継続参加した患者さんで生活の質(QOL)が維持されることを報告しています。

薬剤師による服薬支援の取り組み

薬剤師は、診察前の面談で薬の効果、オフの時間帯、副作用、服薬状況などを確認し、医師と共有しています。必要に応じて薬剤師の視点から処方内容を提案し、一人ひとりに合った治療につなげています。新しい薬を開始した時や処方を変更した後には、電話で効果や副作用を確認しています。自宅という普段の生活環境だからこそ分かる体調の変化を把握し、必要に応じて次の診察を待たずに、受診や薬の調整につなげています。

薬剤師面談の様子

栄養管理の取り組み

パーキンソン病では、病気の進行や活動量の変化、嚥下障害などにより、体重減少、低栄養、筋力低下が生じることがあります。管理栄養士は、食事内容や体重、必要に応じて体組成を確認しながら、患者さんの症状や生活に合わせた栄養相談を行っています。栄養を確保しながら服薬と食事のタイミングを調整することが大切です。また、便秘、飲み込みにくさ、食後血圧低下などに対しても、食事の工夫を提案しています。

栄養相談の様子

認知機能を支える取り組み

パーキンソン病では、段取りが難しくなる、ふたつのことを同時に行いにくくなる、考えるのに時間がかかる、幻視がみられるなど、認知機能の変化が現れることがあります。当センターでは、公認心理師が認知機能を評価し、医師や他職種、ご家族と情報を共有しながら、その方に合った生活上の支援につなげています。

専門性を備えた医療スタッフを育成する取り組み

チーム医療を実践するためには、専門知識と経験を備えた医療スタッフの育成も重要です。日本パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDSJ)では、2022年から「パーキンソン病療養指導士」の認定制度を設け、医療スタッフの育成を進めています。当院でも、20名を超える療養指導士が、それぞれの専門性を生かして診療に携わっています。

診療と研究をつなぐ取り組み

当センターでは、日々の診療から得られた課題を研究へつなげ、その成果を患者さんへ還元することも重視しています。オンラインリハビリテーションの効果検証をはじめ、診断、薬物治療、デバイス補助療法、非運動症状、多職種連携などの臨床研究を進め、得られた知見をよりよい診療へつなげることを目指しています。

これからのパーキンソン病センターの取り組み

パーキンソン病の治療では、その人がどのような生活を送り、何を大切にしているのかを共有することが欠かせません。患者さんとご家族もチーム医療を構成する大切な一員です。今後も、先端的な治療を安全に届けることと、日々の暮らしを支えることの両方を大切にし、患者さんとご家族を支えるセンターでありたいと考えています。

当センターの取り組みにつきましてはwebsiteもご覧になってください。

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