あたらしい医療
整形外科
整形外科におけるロボット手術―ロボット支援下人工膝関節置換術
はじめに
高齢化社会の到来により下肢に変形性関節症を生じる患者さんが増加しています。膝関節の変形性関節症は我が国に推定2,530万人いるとされ(文献1)、年々増加していると考えられます。膝関節の変形が高度となると注射やリハビリといった保存療法が無効となり、手術治療が考慮されます。このような背景のもと、膝関節をインプラントに置換する人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)が盛んに行われるようになり、我が国では2024年度の1年間で約9.3万件の手術が行われています(文献2)。TKAを実施するにあたり、正確にインプラントを設置することが手術成績を大きく左右します。本稿では、2019年10月より慶應義塾大学病院整形外科に導入したロボット支援下TKAについて紹介します。
ロボット支援手術について
外科手術の領域では様々なテクノロジーの進歩に伴い、ロボット支援手術が普及するようになりました。まず1990年代から光学式ナビゲーションシステムが開発され、コンピューター支援手術(computer assisted orthopaedic surgery:CAOS)が行われるようになります。まだこの段階では手術計画などをコンピューターがサポートし、手術手技は人間が行うものでした。このCAOSにロボットが導入され、主に股関節・膝関節の人工関節および脊椎手術においてロボット支援手術が行われるようになりました。TKAについては1988年に英国で初めてロボット支援手術が行われ(文献3)、我が国には2019年から欧米で開発されたシステムが導入され、その後徐々に普及が進むようになりました。一方でロボット支援手術はまだ一般的ではなく、我が国では2024年度に行われた初回TKAの約13%にとどまっています(文献2)。この最大の理由は導入コストが高いことで、一般病院においてはロボット支援によらないTKA(通常のTKA)が多く行われているのが現状です(文献4)。
ロボット支援下TKAの実際
TKAでは変形性関節症や関節リウマチ等により変性・摩耗(磨り減った)した大腿骨の遠位および脛骨の近位の軟骨および周辺組織を切除し、同部に金属製(チタン等)のインプラントを設置します(図1)。この骨切除や周囲の軟部組織のバランスを適切に行うことが、手術成績を向上させるために重要です。一般的な通常のTKAでは術者は手術に先立ち、撮影したレントゲン・CT画像上で大腿骨・脛骨の切除範囲を決定します(術前プランニング)。ロボット支援下TKAでは、この術前プランニングのデータを手術支援ロボットに登録しておきます。実際の手術においては赤外線カメラを搭載したロボット本体が、患者さんの大腿・下腿に設置した反射マーカーの位置から膝関節位置を同定します(図2)。術者はモニター画面に表示される手術計画を注視しながら、骨切除等を行っていきます(図3)。ドリル先端を骨に押し当てるとロボットの支援により計画された切除部分の骨を1mm、1度以下の誤差で掘削できます。さらにロボットは手術中に膝の状態を画像化・グラフ化して表示し、医師はこの情報を元にその場で筋肉や靭帯のバランスを考慮した手術計画の微調整ができます(図4)。2019年に我々が導入したシステム(NAVIOTM、Smith&Nephew社製)は現在新しいバージョン(CORITM、Smith&Nephew社製)となり、ロボットはアームタイプではなくハンドピース先端のカッティングバー(小さなドリル)で骨を掘削します。骨切除の位置や量が計画外の位置に来ると速やかにカッティングバーの回転が停止します。このためロボット支援下手術により、より正確かつ安全な骨切除が可能となり、患者さん固有の軟部組織バランスを考慮し、また、患者さん本来の関節面傾斜を再現するという正確な手術が可能となりました。



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https://smith-nephew.stylelabs.cloud/api/public/content/7fedd2f4a6a946df9b43c71a207a81e9?v=0707401e

おわりに
整形外科手術においても、様々なテクノロジーの進歩が手術成績の向上に寄与してきました。ロボット支援下TKAにおいても、正確なインプラント設置が実現され再手術の割合が減少することが報告されています(文献4)。一方で導入に伴うコストと費用対効果の問題、手術時間が長くなることなどのデメリットも存在します(ロボット支援下TKAでは患者さんの費用負担は増加しません)。今後これらの問題を解消することでさらに優れたロボット支援技術が発展することで、患者さんに多くのメリットが届けられるよう、我々も努力してまいります。
参考文献
- Epidemiology of Locomotive Organ Disorders and Symptoms: An Estimation Using the Population-Based Cohorts in Japan.
Yoshimura N, Nakamura K.
Clin Rev Bone Miner Metab. 2016;14:68-73. doi: 10.1007/s12018-016-9211-7. Epub 2016 Jun 7. - TKAレジストリー2024年度症例統計(日本人工関節学会・日本人工関節登録制度事務局)
- Clinical and Radiological Outcomes in Robotic-Assisted Total Knee Arthroplasty: A Systematic Review and Meta-Analysis.
Agarwal N, To K, McDonnell S, Khan W.
J Arthroplasty. 2020 Nov;35(11):3393-3409.e2. doi: 10.1016/j.arth.2020.03.005. Epub 2020 Mar 11. - 二木康夫, 小林秀, 原藤健吾. ロボット支援人工膝関節置換術の現状と今後の課題. 日本整形外科学会雑誌. 98巻9号. p. 567-572(2024).
- 赤外線誘導式人工膝関節手術支援ロボットの導入―十字靭帯を温存、膝の形状に合わせたオーダーメイド手術を実現―(慶應義塾大学プレスリリース 2019年10月2日)