あたらしい医療
緩和ケアセンター
緩和ケア:腎不全と呼吸器疾患への新しい支援
2026年6月1日、日本の医療制度において大きな一歩が踏み出されました。これまで主に「がん」や「心不全」の患者さんを対象としていた緩和ケアの保険診療(診療報酬)が、末期腎不全と末期呼吸器疾患の患者さんに対しても正式に認められるようになりました。
この変更により、身体的・精神的なつらさを抱えるより多くの方が、専門的なサポートを受けやすくなります。新制度の概要と、それぞれの疾患における緩和ケアのポイントを分かりやすく解説します。
緩和ケアとは:つらさを和らげ、自分らしく生きるための支援
緩和ケアは、決して「治療を諦めること」や「亡くなる直前に行うもの」ではありません。 緩和ケアは、病気と診断された早期から、病気の治療と並行して受けることができるものです。
2026年6月1日からの変更点:腎不全と呼吸器疾患への拡大
令和8年度(2026年度)の診療報酬改定により、末期腎不全と末期呼吸器疾患が「緩和ケア診療加算」や「外来緩和ケア管理料」などの算定対象に追加されました。
これにより、入院中だけでなく、外来通院や在宅療養においても、医師や看護師、薬剤師などで構成される専門の緩和ケアチームによる診療が、保険診療の枠組みの中で受けられるようになりました。この制度改正の背景には、非がん疾患の患者さんも、がん患者さんと同等かそれ以上に強い苦痛を抱えている実態があり、国としてそのケアを重視する姿勢を明確にしたことがあります。
末期腎不全の緩和ケア:透析との向き合い方と症状緩和
腎不全の緩和ケアは、透析を継続している方はもちろん、高齢や体力の低下などの理由で透析を行わない選択(保存的腎臓療法:CKM)をされた方も対象となります。
○要点とサポート内容
- 多彩な症状への対応: 腎不全が進むと、尿毒症や体液過剰(むくみ)により、強い息苦しさ、全身のだるさ、かゆみ、食欲不振、不安などが現れます。これらに対して、薬の調整や生活環境の工夫で苦痛を軽減します。
- 意思決定の支援: 「透析を続けるべきか」「最期はどこで過ごしたいか」といった難しい選択に対し、医療チームがご本人やご家族と繰り返し話し合い(アドバンスケアプランニング:ACP)、納得のいく道を探します。
- 多職種によるチームケア: 腎臓・内分泌・代謝内科スタッフや緩和ケアセンタースタッフ等が連携し、ご自宅での生活も含めた包括的な支援を行います。
末期呼吸器疾患の緩和ケア:息苦しさを和らげる工夫
COPD(慢性閉塞性肺疾患)や間質性肺炎などの呼吸器疾患では、病気が進むにつれて「息が苦しくて動けない」「息苦しさで眠れない」といった強い呼吸困難が最大の悩みとなります。
○要点とサポート内容
- 呼吸困難の緩和: 酸素療法や非侵襲的陽圧換気(NPPVなど)を適切に使用するだけでなく、「扇風機などで顔にそよ風を当てる(送風療法)」といった、薬に頼らない工夫も非常に有効です。
- 呼吸リハビリテーション: 筋力を維持し、効率の良い呼吸法や動作を身につけることで、息苦しさをコントロールしやすくします。
- 医療用麻薬の使用: 標準的な治療では取り切れない息苦しさに対して、少量のオピオイド(医療用麻薬)を使用し、呼吸を楽にすることが認められています。
- 不安とパニックへの備え: 息苦しさからくるパニックに対し、薬やリラクゼーション、心理的なサポートを組み合わせて対応します。
慶應義塾大学病院の緩和ケアチーム
当院では、2007年10月より緩和ケアチームが活動しています。緩和ケアチームとは、入院中の患者さんの苦痛について、主治医とともにサポートを行う多職種からなるチームです。また腫瘍センター内で外来診療も行っております。外来・入院を通じて患者さんの体のつらさ、心のつらさ、療養環境の調整などについての支援を行っています。
緩和ケアは、病気と闘う力を奪うものではなく、むしろあなたの「より良く生きる」という希望を支えるものです。「まだ緩和ケアなんて早い」と思わずに、息苦しさや心の不安、生活の悩みなど、どんなに小さなことでも担当医や看護師にご相談ください。

関連リンク
参考文献
- 腎不全患者のための緩和ケアガイダンス:2025年9月(日本緩和医療学会, 日本腎臓学会, 日本透析医学会)
- 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021 / 日本呼吸器学会, 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会合同非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021作成委員会 東京 : 日本呼吸器学会, 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会, 2021.4