あたらしい医療
形成外科
赤ちゃんの頭のかたち外来での取り組み
はじめに
慶應義塾大学病院では1981年より頭蓋縫合早期癒合症と呼ばれる、生まれつき赤ちゃんの頭が変形してしまう病気の治療に取り組んでまいりました。2013年より世代交代により組織を一新し、2018年からは小児頭蓋顔面(クラニオ)センターを設立し今にいたります。
赤ちゃんの頭の形は病気により変形するだけでなく、生まれた後のベッド上での向き癖でも変形してしまいます。これを位置的頭蓋変形と呼びます。これまでは病的な頭の変形に特化して治療を行ってまいりましたが、このたび位置的頭蓋変形に対する治療を開始いたしました。小児頭蓋顔面センターと同様に小児科、形成外科、脳神経外科がチームで診療にあたっております。
位置的頭蓋変形とは?
赤ちゃんの頭蓋骨は竹細工のようにしなやかさがあります。そして生後半年くらいで頭囲は10センチも大きくなります。これはその間に脳が大きくなるからです。このときにどちらか片側を一方的に下にして寝る癖がついてしまうと、ベッド(床)に圧迫されてしまうために平らになってきてしまいます。一方の片側は脳の形に合うようになるため丸くなってきます。こうなると悪循環が始まってしまい、丸いほうではコロンッと転がってしまって安定しないためにどんどん平らなほうを下にする癖がさらに助長されてしまいます。またいわゆる絶壁頭というのは真上を向いていたときに起きるものをいいます。


図1.向き癖によって赤ちゃんのあたまがゆがむしくみとその変形
右側を下にする向き癖がついたとき(図1.左)、症状が強くなると、向き癖とはいえ、真上からみてみる(図1.右)と耳の位置やおでこにまで変形が及んでしまいます。
鑑別の方法とその大切さ
位置的頭蓋変形との鑑別で重要なものは、頭蓋縫合早期癒合症です。頭蓋縫合早期癒合症は病的なものであり、脳の発達に影響を来す可能性があるため、手術が推奨されます。きちんと鑑別をして頭蓋縫合早期癒合症を見逃さないようにしないといけません。教科書的にはこの2つは簡単に鑑別がつくとされていますが、当然ですが、頭蓋縫合早期癒合症の方にも向き癖による変形が起きます。こうなってしまうと頭蓋縫合早期癒合症なのか位置的頭蓋変形なのかは私たち、頭蓋を専門にする医師であっても見た目だけでは鑑別が難しくなります。そこで当院では頭部レントゲンを撮影し、頭蓋縫合早期癒合症の診断に熟知した小児頭蓋顔面センターの医師による鑑別診断を推奨しております。レントゲンというと被ばくを心配すると思いますが、0.05mSV(ミリシーベルト)、これは飛行機で東京とハワイ間を往復するくらいの被ばく量です。
実際、鑑別が行われずに、位置的頭蓋変形としてヘルメット治療を行ったけれども変形が改善しないということで、来院された方のうち実は頭蓋縫合早期癒合症だったということで手術治療になる方がおりました。こうしたことからも鑑別は大切です。
治療
症状と程度
頭蓋変形というと脳の発達への影響を心配されるかもしれませんが、位置的頭蓋変形の場合、その変形が直接的に脳の発達に影響することはありません。その変形の程度をあらわすものとしてArgenta(アルヘンタ)分類があります。

位置的頭蓋変形が重度以上ですと、将来的に次のようなことが起こり得ます。
- 帽子がフィットしにくい
- 目の位置が非対称になると斜視や視覚障害のリスク
- 耳の位置が左右で異なるため、メガネが調整しにくい
- 変形がおでこ、頬といった顔に及ぶと、顔がゆがむ(整容面の問題)
- 顎関節症、かみ合わせの異常
治療法と治療時期
位置的頭蓋変形の程度と赤ちゃんの月齢により適切な治療を行います。生後2か月より前であれば、まずは向きをこまめに変えてもらうなど、できるだけ長時間同じ姿勢で寝かせっぱなしにしないようにしてもらいます。具体的にはベビーベッドに寝かせる向きを日替わりで反対にする、抱っこでスキンシップをはかったり、縦抱きにしたりして過ごしたり、タミータイムと呼ばれるうつ伏せ遊びを行います。
こうしたことを1~2か月行っても改善せずに、変形の程度がレベル3(重度)以上の場合にはヘルメット治療を検討します。
赤ちゃんの頭の形はまちまちですのでヘルメット治療を行う場合はオーダーメイドのヘルメットになり、頭の形を専用のカメラでスキャンします。スキャンは数分で完了します。そのデータからオーダーメイドのヘルメットを作成します。スキャンより、約2週間後の再診で、完成したヘルメットの初装着を行います。1か月に1回受診いただき、成長に合わせてヘルメットの内側のスポンジを調整していきます。基本的にはトータル6か月間、1日23時間の装着を行っていただきます。

日本の夏は暑く、赤ちゃんは汗かきです。そのためヘルメットを着用すると汗疹(あせも)が起きることがあります。当院ではスポンジのスペアを作成することで、一つをご使用いただき、もう一つは洗って交互に使用するようにしております。こうしてヘルメットの衛生状況を担保することで汗疹が起き得るリスクを軽減することができます。このヘルメット治療の原理は脳が成長する力を使ってきれいな頭の形になるように誘導する治療のため遅くても生後7か月くらいまでに治療を開始することをおすすめしております。
さいごに
赤ちゃんの頭のかたちがゆがんでいることが気になった場合、まれではありますが頭蓋縫合早期癒合症の可能性があります。その場合は、成長に伴ってよくなることはありません。ゆがみが気になりましたら、経過観察するよりも一度は鑑別を行うことをおすすめしております。また位置的頭蓋変形の場合、整容面の問題が一番になります。そのためヘルメット治療を行う場合には健康保険は適用にはならずに自費診療となります。
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