病気を知る
注意欠如・多動症(ADHD)― 特性を理解し、潜在能力を発揮するために ―
はじめに
「ADHD(注意欠如・多動症)」と聞くと、「落ち着きがない子どもの病気」「しつけや努力の問題ではないか」といったイメージを持たれる方も少なくありません。しかし現在では、ADHDは脳の発達や情報処理の仕方の違いによって生じる神経発達症であり、ご本人やご家族の努力不足や育て方が原因ではないことが明らかになっています。
診断を受けると、「将来はどうなるのだろう」「普通の生活が送れるのだろうか」と不安になる方もいらっしゃいます。しかし、適切な理解と支援を受けることで、多くの方が学校や職場、地域社会の中で自分らしく生活しています。
私たちの目標は、ADHDという特性をなくすことではありません。
その方が本来持っている力を十分に発揮できるよう支援することです。
そのためには、まずADHDという特性を正しく理解することが第一歩になります。
ADHDとは
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:注意欠如・多動症)は、不注意、多動性、衝動性を主な特徴とする神経発達症です。
これらの特性は幼少期からみられることが多く、現在の診断基準では12歳までに何らかの症状が認められることが診断の条件の一つとなっています。
学齢期のお子さんでは約5%前後にみられるとされ、一つの学級に1~2人程度いる計算になります。成人になっても多くの方で特性は続きますが、年齢とともに困りごとの現れ方は変化していきます。
ADHDの原因は一つではありませんが、遺伝的な影響が比較的大きいことが分かっています。一方で、遺伝だけですべてが決まるわけではありません。家庭や学校などの環境、周囲の理解や支援、ご本人の経験などが互いに影響しながら、その人らしい発達が形づくられていきます。
ADHDは、「ある」「ない」と明確に分けられるものではありません。不注意や衝動性は誰にでもみられる特性です。しかし、その程度が年齢に比べて強く、学校生活や家庭生活、仕事、人間関係などに継続的な支障を来している場合に診断が検討されます。
診断名そのものが重要なのではありません。
大切なのは、ご本人がどのような場面で困り、どのような工夫や支援があれば力を発揮できるのかを理解することです。
ADHDではどのようなことで困るのでしょうか
ADHDの症状は、大きく不注意、多動性、衝動性の3つに分けられます。
ただし、すべての方が同じ症状を示すわけではありません。不注意が中心の方もいれば、多動性や衝動性が目立つ方もいます。また、年齢や生活環境によって困りごとは少しずつ変化していきます。
不注意
「不注意」という言葉から、「注意力がない」と誤解されることがあります。
しかし実際には、ADHDの方は注意を向ける能力そのものよりも、必要なところへ注意を向け続けたり、不要な刺激から注意を切り替えたりすることが苦手だと考えられています。
そのため、
- 話を聞いている途中で別のことが気になる
- 宿題や仕事を最後まで続けることが難しい
- 忘れ物やなくし物が多い
- ケアレスミスを繰り返す
- 締め切りの管理が苦手
- 机や部屋の整理整頓が苦手
といった困りごとがみられることがあります。
一方で、自分が興味を持ったことには驚くほど集中できることもあります。
これを「過集中(ハイパーフォーカス)」と呼びます。
何時間でも好きなことに取り組める一方で、興味を持ちにくい課題にはなかなか取り組めないことがあります。
そのため、「やる気にむらがある」「怠けている」と誤解されることがありますが、ご本人の意思だけで切り替えることは容易ではありません。
多動性
多動性とは、「元気がよい」ということではありません。
年齢や場面に比べて、身体を動かしたい気持ちを抑えることが難しい状態です。
幼いお子さんでは、
- 授業中に席を立つ
- 教室を歩き回る
- 静かに遊ぶことが苦手
- 絶えず動いているように見える
などがみられます。
思春期以降になると、目立った立ち歩きは少なくなることが多く、
- 貧乏ゆすりをする
- 手や指を動かし続ける
- 落ち着かない感じが続く
- 「頭の中がいつも忙しい」と感じる
など、外からは気づきにくい形で現れることもあります。
衝動性
衝動性とは、「行動を始める前に一度立ち止まること」が苦手な状態です。
例えば、
- 人の話を最後まで待てず話し始める
- 順番を待つことが苦手
- 思いついたことをすぐ行動に移す
- 危険を十分考えずに飛び出してしまう
- 感情が高ぶると強い言葉が出てしまう
などがみられることがあります。
もちろん、誰でも時には衝動的になることがあります。
しかしADHDでは、このようなことが年齢に比べて頻繁にみられ、学校生活や仕事、人間関係に影響を及ぼす場合があります。
二次障害を防ぐことが大切です
ADHDそのものよりも、周囲から理解されないことによって生じる問題の方が深刻になることがあります。
忘れ物を繰り返すことで「やる気がない」と叱られ続けたり、衝動的な行動を「わがまま」と受け取られたりすると、ご本人は「どうせ何をやっても駄目なんだ」と感じ、自信を失ってしまうことがあります。
その結果、不安症やうつ病、不登校、引きこもりなどを合併することがあります。これらは二次障害と呼ばれ、ADHDそのものではなく、特性と環境とのミスマッチが長く続くことで生じることが少なくありません。
そのため、できるだけ早い段階で特性を理解し、本人に合った環境や支援を整えることがとても重要です。
ADHDには「強み」もあります
ADHDについて説明すると、「苦手なこと」ばかりが強調されがちです。
しかし、診療を続けていると、多くの方がそれぞれの個性や強みを持っていることにも気づかされます。
例えば、
- 興味を持ったことへの高い集中力
- 豊かな発想力
- 新しいことに挑戦する行動力
- 柔軟なものの見方
- 周囲を元気づける明るさやエネルギー
などがみられる方もいます。
もちろん、これらはすべてのADHDの方に共通する特徴ではありません。また、ADHDだから特別な才能を持つという意味でもありません。
大切なのは、「ADHDだから○○」と決めつけないことです。
一人ひとりに異なる得意なことがあり、苦手なことがあります。その組み合わせも、人によって様々です。
私たちが目指しているのは、ADHDという特性をなくすことではありません。
ADHDは、その人の可能性を決めるものではありません。
困りごとを理解し、適切な支援を受けることで、その人が本来持っている潜在能力を十分に発揮できるようになることが、私たちの目標です。
どのように診断するのでしょうか
ADHDは、血液検査や頭部MRIなどで診断できる病気ではありません。
診断で最も大切なのは、これまでの発達の経過を丁寧にたどり、その方の生活の中で実際にどのような困りごとが起きているのかを理解することです。
診察では、ご本人のお話だけでなく、ご家族から幼少期の様子を伺います。必要に応じて、幼稚園や保育所、小学校、中学校、高校などでの生活の様子や、学校からの資料、心理検査の結果なども参考にします。
診断には、DSM-5-TRやICD-11といった国際的な診断基準を用います。しかし、診断基準に当てはまるかどうかだけで判断するのではありません。
同じような症状は、不安症、うつ病、睡眠障害、知的発達症、学習症(限局性学習症)、自閉スペクトラム症(ASD)などでもみられることがあります。また、ADHDとASDが併存することも少なくありません。
そのため、診断では「ADHDらしい症状があるか」だけではなく、その背景に何があるのかを丁寧に考えていきます。
私たちは診断名をつけるためではなく、ご本人に最も役立つ支援を考えるために診断を行っています。
治療の目的
ADHDの治療は、「ADHDをなくすこと」を目標にするものではありません。
私たちが目指しているのは、ご本人の困りごとを減らし、その方が本来持っている潜在能力を十分に発揮できるよう支援することです。
そのためには、一つの治療だけで十分とは限りません。
生活環境を整えること、ご本人が自分の特性を理解すること、ご家族や学校・職場が適切な対応を身につけること、必要に応じて薬物療法を組み合わせることなど、それぞれをその方に合わせて組み合わせていきます。
環境を整えることが治療の第一歩です
ADHDでは、「本人を変えること」よりも、「環境を工夫すること」の方が効果的な場合が少なくありません。
例えば、
- 机の上に必要なものだけを置く
- やることを一つずつ伝える
- スケジュールを目で見える形にする
- タイマーを使って時間を区切る
- 気が散りにくい場所で勉強や仕事をする
といった工夫だけでも、生活しやすくなることがあります。
これは「甘やかし」ではありません。
眼鏡で見えやすくすることと同じように、その方が持っている力を発揮しやすくするための環境づくりです。
ご家族への支援
ADHDのお子さんを育てている保護者は、毎日のように注意したり叱ったりすることになり、疲れ切ってしまうことがあります。
しかし、ADHDでは、叱ることが必ずしも望ましい結果につながるとは限りません。
できなかったことを繰り返し注意するよりも、できたことを具体的に認め、その場で褒める方が望ましい行動につながりやすいことが分かっています。
こうした関わり方を体系的に学ぶ方法として、ペアレント・トレーニングがあります。
ペアレント・トレーニングでは、「困った行動を減らす」ことだけではなく、ご本人との良い関係を築きながら、お子さんの成功体験を増やしていく方法を学びます。
これはADHDだけでなく、多くの子育てにも役立つ考え方です。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)
ADHDのある方の中には、人との距離感や順番を待つこと、気持ちを上手に伝えることなどで困る方もいます。
そのような場合には、ソーシャルスキルトレーニング(SST)が役立つことがあります。
SSTでは、実際の生活場面を想定しながら、人との関わり方を練習します。
これは「普通の人に近づけるための訓練」ではありません。
その方が社会の中で安心して生活し、自分らしく人と関われるよう支援する方法です。
ASDのある方にも有効な場合があり、ASDのページでも改めてご紹介します。
学校や職場との連携
ADHDでは、医療だけで問題を解決できることは多くありません。
一日の大半を過ごす学校や職場で適切な理解が得られることが、とても重要です。
例えば、
- 指示を一度に一つずつ伝える
- 席の位置を工夫する
- 提出物を確認しやすい仕組みを作る
- 休憩を適切に取り入れる
といった小さな工夫だけでも、ご本人の負担は大きく軽減することがあります。
近年は、学校における合理的配慮や、職場での配慮についても理解が進みつつあります。
支援とは特別扱いではなく、その方が公平に力を発揮できるよう環境を整えることです。
ご本人が自分を理解すること
成長とともに、自分自身の特性を理解することも大切になります。
「どうして自分だけできないのだろう」と悩むのではなく、
「自分はこういう場面が苦手だから、この方法を使おう」
と考えられるようになると、生活は少しずつ楽になります。
これは「できないことを受け入れる」という意味ではありません。
自分の特徴を知り、自分に合った工夫を身につけることです。
その積み重ねが、自信につながっていきます。
支援は「できないこと」を減らすためだけではありません
ここまでご紹介した支援は、それぞれ異なる方法ではあります。
しかし、その目標はすべて共通しています。
ご本人が本来持っている力を発揮しやすくすることです。
環境調整も、ペアレント・トレーニングも、SSTも、学校や職場との連携も、そのための方法です。
支援とは、「本人を変えること」ではありません。
その方が持っている力を社会の中で発揮しやすくするために、周囲と一緒に環境を整えていくことです。
そして、その考え方は、次にご紹介する薬物療法やデジタル治療にも共通しています。
薬物療法について
保護者の方から、
「薬はできれば飲ませたくありません。」
「薬を飲むと性格が変わってしまうのではありませんか。」
というご意見やご質問をいただくことがあります。
このような不安を抱かれることは、ごく自然なことです。
しかし、現在使用されているADHD治療薬は、お子さんを「おとなしくする薬」でも、「性格を変える薬」でもありません。
私たちが薬物療法に期待しているのは、ご本人が本来持っている力を発揮しやすくすることです。
例えば、目が悪い方が眼鏡をかけると、景色が見えやすくなります。
眼鏡は能力を変えるものではありません。
本来持っている能力を発揮しやすくするための道具です。
ADHDの薬も、それによく似ています。
注意を向け続けることや、衝動をコントロールすることを助けることで、勉強や仕事、人との関わりの中で、ご本人が本来持っている潜在能力をより発揮しやすくすることを目指しています。
もちろん、眼鏡がすべての人に必要ではないように、薬もすべての方に必要なわけではありません。
ご本人、ご家族と相談しながら、その方に最も適した方法を一緒に考えていきます。
現在使用されているADHD治療薬
コンサータ®(メチルフェニデート徐放錠)
コンサータ®は、中枢神経刺激薬に分類される薬です。服用後30〜60分程度から効果が現れ、日中を通して効果が持続します。不注意や衝動性、多動性の改善効果が高く、世界中で長年使用されてきた代表的なADHD治療薬です。
一方で、食欲低下や入眠しにくさなどの副作用がみられることがあります。また、心疾患などでは使用できない場合もあります。適切な診察と定期的な経過観察を行いながら、その方に合った量を調整していきます。
ストラテラ®(アトモキセチン)
ストラテラ®は非刺激薬で、脳内のノルアドレナリンの働きを調整する薬です。
コンサータ®のように服用直後から効果が現れる薬ではなく、数週間から1〜2か月かけて徐々に効果が安定してきます。
チックや不安症状を併せ持つ方でも使いやすい場合があり、24時間を通して穏やかな効果が期待できます。
眠気、吐き気、食欲低下などがみられることがありますが、多くは時間とともに軽減します。
インチュニブ®(グアンファシン徐放錠)
インチュニブ®は、脳の前頭前野の働きを整えることで、注意や衝動のコントロールを助ける薬です。
刺激薬ではないため依存性はなく、多動性や衝動性が目立つ方や、感情のコントロールが難しい方に有効なことがあります。また、チックを併せ持つ方にも使いやすい薬です。
眠気や血圧低下がみられることがあるため、少量から開始し、ゆっくり増量していきます。
比較的穏やかな作用を示すため、他の薬剤と組み合わせて使用することもあります。
ビバンセ®(リスデキサンフェタミン)
ビバンセ®は刺激薬ですが、体内で徐々に有効成分へ変化するため、効果が比較的安定して持続します。
不注意、多動性、衝動性のいずれにも高い効果が期待されます。
一方で、食欲低下、不眠、動悸などがみられることがあります。
日本では適切な管理体制のもとでのみ処方される薬であり、安全性に十分配慮しながら使用されています。
デジタル治療「エンデバー・ライド」
我が国では2026年6月にADHDの新しい治療法としてエンデバー・ライドが利用できるようになりました。
これはゲームを楽しみながら注意機能を繰り返し使うことで、注意機能の改善を目指すデジタル治療(Digital Therapeutics:DTx)です。
ゲーム機ではなく「治療用アプリ」として臨床試験が行われ、その有効性と安全性が確認されたうえで承認されています。
エンデバー・ライドも、薬物療法と同じように「能力を新しく与える」ものではありません。
ご本人が本来持っている注意の力を、より発揮しやすくするための治療と考えると理解しやすいでしょう。
現在は対象年齢や適応が決められており、医師の診察のもとで使用します。
日常生活でできる工夫
ADHDでは、毎日の小さな工夫が生活を大きく変えることがあります。
例えば、
- スケジュールを見える形にする
- 一度に一つずつ取り組む
- タイマーを利用する
- 忘れ物チェックリストを作る
- 睡眠時間を十分確保する
- 適度な運動を習慣にする
などは、多くの方に役立ちます。
薬だけでなく、生活の工夫や周囲の支援を組み合わせることが大切です。
Q&A
薬は飲んだ方がよいのでしょうか。
必ずしも全員に必要ではありません。
困りごとの程度や生活への影響、ご本人やご家族の希望を踏まえて、一緒に考えていきます。
薬を飲むと性格は変わりますか。
性格を変える薬ではありません。
注意や衝動のコントロールを助けることで、本来の力を発揮しやすくする治療です。
薬はいつまで飲むのでしょうか。
一人ひとり異なります。
成長とともに必要なくなる方もいますし、成人後も役立つ方もいます。
定期的に状態を評価しながら、減量や中止も含めて一緒に検討します。
ADHDは治るのでしょうか。
ADHDという特性そのものが完全になくなるとは限りません。
しかし、多くの方は成長とともに困りごとへの対処法を身につけ、周囲の理解や支援を得ながら、自分らしい生活を送っています。
私たちの目標は診断名をなくすことではなく、その方が持っている潜在能力を十分に発揮できるよう支援することです。
さらに詳しく知りたい方へ
- 注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン. 第5版 / 齊藤万比古, 飯田順三編集 東京 : じほう, 2022.10
- ADHDがわかる本 : 正しく理解するための入門書 / 榊原洋一監修 東京 : 講談社, 2024.10
信頼できる情報源
- 日本児童青年精神医学会
- 日本ADHD学会
- 国立精神・神経医療研究センター
- こども家庭庁