病気を知る

先天性巨大色素性母斑の治療

症状および診断

先天性巨大色素性母斑は、母斑細胞で構成される良性の皮膚腫瘍です。有毛性母斑、獣皮様母斑などと呼ばれることもあります。いわゆる黒子(ほくろ)も同じ母斑細胞からなります。どれくらいの大きさから巨大とするかは明確に決まりがあるわけではなく、大きさだけで治療方法がかわるわけでもありません。組織上、母斑細胞が存在する部位により、junctional type, intradermal type, compound typeに分類されます。先天性巨大色素性母斑は遺伝しないとされています。

先天性巨大色素性母斑を診察する際に注意しなければいけない点は、中枢神経系にも同じような細胞が存在していないか確認することです。中枢神経系に同様の病変があれば神経皮膚黒色症と呼ばれて、中枢神経の症状が出ないかどうかを注意深く観察する必要があります。この診断にはMRIが有用です。

先天性巨大色素性母斑でもう一つ注意をしなければいけないことは、色素性母斑は悪性黒色腫を含めた悪性腫瘍ができやすくなるという点です。悪性腫瘍は、悪性黒色腫が広く知られていますが、ほかに有棘細胞がんなども発生します。先天性巨大色素性母斑の悪性黒色腫の発生頻度については4.5~10%と大きなばらつきがあります。これまで先天性巨大色素性母斑の治療には、後述する様々な治療法が行われていますが、手術やレーザー照射といった刺激を加えたために、悪性化が進行したという報告はなく、いずれの治療も母斑細胞数を減少させるので、悪性化の発生を抑えると考えられています。

治療

先天性巨大色素性母斑の治療法は、母斑組織の黒い色調を周囲の色調に合わせ、正常な皮膚の質感に近づけるといった整容的な面と、悪性化のリスクを少なくするといった双方の面から考慮し、決定することになります。深部まで組織を採取すればするほど、母斑細胞の数は減少させることができ、悪性化のリスクは減少すると考えられます。一方で、真皮、脂肪組織を含めた深部まで切除し植皮などで治した場合は、見た目が悪くなってしまうことが多いです。

これまでに報告されている治療法としては、分割切除(何回かに分けて切除する方法)術、組織拡張器(水風船のようなものを皮膚の下に移植して、徐々に皮膚を膨らませる機器)により皮膚を進展させた後の皮膚縫縮術、植皮術、自家培養表皮移植術、キュレッテージ、レーザー治療、などがあります。平成28年12月より、先天性巨大色素性母斑切除後の皮膚欠損に対して、自家培養表皮移植術が保険適用となっています。また、最近では凍結治療の有用性も注目されており、整容的に優れた治療効果が得られると報告されています。

分割切除術、組織拡張器の使用

悪性化の予防のためには発生母地となる病変部の皮膚の全切除が良いと思われます。また、ほかの方法に比べ、これらの方法で治すことができれば、仕上がりが1本の皮膚縫合線となるため、見た目ももっとも満足のいく仕上がりとなります。このため、当科では、これらの方法が可能な方には、これらの方法をまずおすすめしています。しかし、病変ができた場所と大きさによっては、これらの方法が使用できないこともあります。また、過剰な切除・縫縮は長期的に骨格の成長に影響を及ぼすという意見もあり、縫合できるからといって幼少期に無理に皮膚を切除しすぎるのは避けたほうが良いと考えられます。

植皮術

分割切除術や、組織拡張期を用いての治療ができないほどの大きさの色素性母斑に対しては、植皮術が用いられることがあります。これは病変部を除去した後に、正常な場所から皮膚を取ってきて置き換える方法です。皮膚をすべて置き換える全層植皮術と、薄い皮膚を取ってきて移植する分層植皮術があります。全層植皮術の方が、見た目は良好ですが、皮膚が取れる大きさに限りがあります。また皮膚を採取する場所にも傷ができてしまうという欠点があります。

自家培養表皮移植術

あらかじめ、1回目の手術で患者さん本人の正常な小さな皮膚を、麻酔をかけて採取し、J-TECという会社で3週間ほどかけて培養表皮を作成します。2回目の手術で病変部の皮膚を、色調が軽減する深さまで特殊な器械を使って削り、そののちに自家培養表皮シートを移植します。移植した後の皮膚は、しばらくは擦れたりする刺激に弱いので、保護が必要ですが、次第にしっかりとした皮膚になってきます。植皮のように皮膚を取ってくるところの犠牲が少ないというのが、大きなメリットですが、見た目は植皮には劣ります。また、培養表皮は真皮が残っていないとうまく生着しませんので、脂肪が見えるほど深く切除しなければいけない場合は、この方法ではうまくいきません。

キュレッテージ

先天性巨大色素性母斑の組織には、器械を使って引っ掻くと自然に剥がれる層が皮膚の上方に存在します。全身麻酔下に器械を用いて病変部を掻爬(そうは)すると、この色素を含んだ皮膚の浅層が剥がれてきます。この方法をキュレッテージといいます。キュレッテージ後の皮膚の中には毛根が残存しますので、植皮をすることなく、約2週間で自然に傷が治ります。キュレッテージは手術的に簡単な方法ですが、ほとんどの色調が軽減する症例が存在する反面、黒色の色調が取れるものの灰色の色調が残存する症例、まったく効果がない症例、色調が一度は軽快するが早期に再発する症例など、反応が様々です。現在、本法単独での治療は、慶應義塾大学病院ではおすすめしていません。

レーザー治療

先天性巨大色素性母斑のレーザー治療には、これまでルビーレーザー、 Qスイッチルビーレーザー、Er:YAGレーザー、CO2レーザーと、これらレーザーのいくつかの組み合わせが報告されていて、それぞれ一長一短があります。いずれも一度の治療ではうまく色が取れないことが多いので、複数回の治療を必要とします。瘢痕が少ないというメリットはありますが、色調を薄くすることはできますが、完全に正常な皮膚の色調にすることはできません。

凍結治療

先天性巨大色素性母斑に対する凍結治療は、ドライアイスや液体窒素などを用いて皮膚を冷却することで病変を除去していきます。整容的に優れた治療効果が得られ、深い病変の治療もできることから根治的な治療が可能です。しかしながら、10~20回以上の治療が必要であり、時間を要するのがデメリットです。隆起を伴う濃く深い病変の場合にはレーザー治療やキュレッテージ、自家培養表皮移植と組み合わせるなど現在当院では最も力を入れている治療法になります。まだ一般的に普及しておらず、限られた施設でしか実施されていません。

慶應義塾大学病院での取り組み

色素性母斑の場所、大きさにより、以上お示しした様々な方法をご提示し、治療方法を相談させていただいております。
まずは、外来担当医表をご確認のうえ、担当者の初診外来を受診してご相談ください。
担当:貴志和生(月・金曜日午前)、石井龍之(火曜日午前)

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