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医師と患者さんのコミュニケーションギャップを埋める患者報告アウトカムの活用を
~より患者さんのニーズに沿った治療の提案が可能に~
池村修寛、香坂俊(循環器内科)

研究の背景

生活様式の欧米化や高齢化社会に伴い、心房細動(注1)は増加の一途を辿っています。心房が痙攣を起こす心房細動は、不整脈の一種で直接命に関わる病気ではありませんが、これにより心房内の血液の流れが滞ると心房内に血栓ができやすくなり脳梗塞のリスクとなります。また、動悸、息切れなどの症状を伴うことが多く、それにより健康状態(身体活動度、疾患・治療に対する不安、生活の質[Quality of Life: QOL]など)を害することが知られています。

この心房細動の治療には、心房の痙攣を抑える抗不整脈薬や脈拍数を調節する薬剤を使った薬物治療が一般的ですが、近年、これに加えて、不整脈を根治し得るカテーテルアブレーション治療(注2)が盛んに行われるようになっています。

心房細動の適切な治療法を選択するうえで、患者さんご自身の症状および健康状態に与える影響は重要な要素と考えられています。従来から医師は問診・対話によりそれらをとらえてきましたが、現場では時間の制約や患者さんの遠慮などの様々な要因で、医師が正確に把握できていない可能性がありました。

そこで、本研究グループは、慶應義塾大学病院およびその関連病院である国立病院機構東京医療センターと協力し、心房細動の症状やその長期的影響に関して、患者報告と医師の認識にギャップがあるかどうか、ギャップがあった場合にそれが治療選択にどう影響するかを検証しました。患者側の報告はAFEQT(注3)という心房細動に特化した患者報告指標(Patient-Reported Outcome: PRO、注4)を使用しました。なお、そのAFEQTを収集する際に、外来担当医師にも同様の指標の評価をお願いし、両者を直接比較しました。

研究の成果と意義・今後の展望

330名の新規に通院を開始した心房細動患者さんを対象に調査を行ったところ、112人(33.9%)の患者報告と担当医師の認識は一致したものの、42人(12.7%)の患者さんが訴えた症状および健康状態に与えた影響は担当医師により過小評価され(under-estimation)、また176人の患者さんでは訴えが過大評価されており(over-estimation)、患者さんの症状および健康状態の報告と医師の認識に不一致があることが分かりました(図1、左側)。

図1.心房細動患者の訴える症状と医師の認識のギャップ

図1.心房細動患者の訴える症状と医師の認識のギャップ

さらに、その認識の不一致が1年後の患者さんの健康状態に与える影響を調査したところ、under-estimationの患者群では、医師が正しく心房細動の影響を認識していた群と比較して、1年後の症状および健康状態に関するスコアが改善しづらいことが分かりました。また、under-estimationの患者群では医師が正しく心房細動の影響を認識していた群と比較して抗不整脈薬の使用やカテーテルアブレーションの実施などの積極的な治療を受ける確率が約60%低く(調整オッズ比 0.43、95%信頼区間 0.20-0.90)、問診での健康状態のunder-estimationが治療方針の決定に及ぼす影響が示されました(図1、右側)。

今回の結果から、問診において医師が患者さんに寄り添う努力を行うことの重要性が再認識されるとともに、医師の問診に加えAFEQTのような患者報告指標を診療に取り入れ、患者さんの声を直接医師に届けることで、より医師-患者間のコミュニケーションが円滑となり、患者さんのニーズに沿った治療を提供できる可能性を提示しました。

本成果は、臨床データの蓄積・解析により得られた知見を診療に活かすことで、より患者さんのニーズに沿った医療を提供できることを示しました。個別化医療(Precision Medicine)の時代を迎え、こうした知見はより重要性を増していくことが考えられます。

特記事項

本研究はブリストルマイヤーズスクイブ/ファイザー社の支援(JRISTA: Japan Thrombosis Investigator Initiated Research Program)によって行われました。

【用語解説】

(注1)心房細動
不整脈の一種である心房細動の患者は非常に多く、65歳以上の高齢者の5%は心房細動を有するといわれている。心房細動自体は危険な不整脈ではないが、動悸症状を強く感じたり、また脳梗塞を合併するリスクがあり、治療を要する不整脈の1つである。

(注2)カテーテルアブレーション
心房細動の治療法として定着しており、現在は我が国で年間5万件以上行われている。多くの患者の場合、肺静脈の根本の異常な電気信号が左心房に伝わることによって心房細動が開始するといわれており、肺静脈と左心房の間に電気が流れないように焼灼(=アブレーション)すれば、心房細動の発作は起こらなくなる。

(注3)AFEQT(Atrial Fibrillation Effect on QualiTy-of-Life)
心房細動に特異的な患者報告指標であり、心房細動が健康状態(Health Status)に与える影響を評価するために作られた20項目の質問で構成されている。回答に要するのは約5~10分であり、4つの概念カテゴリー(症状、日常活動度、疾患・治療への理解度、治療への満足度)を定量的に評価する。

(注4)患者報告指標(Patient-Reported Outcome: PRO)
医療者やその他の誰の解釈も介さず、患者から直接得られた、患者の健康状態に関するあらゆる報告を意味する。主に臨床試験で患者の主観的評価を正確にとらえるために用いられている。

参考文献

Physician Estimates and Patient-Reported Health Status in Atrial Fibrillation.
Ikemura N, Kohsaka S, Kimura T, Jones PG, Katsumata Y, Tanimoto K, Ueda I, Takatsuki S, Ieda M, Chan PS, Spertus JA.
JAMA Netw Open. 2024 Feb 5;7(2):e2356693. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.56693.

最終更新日:2024年9月2日
記事作成日:2024年9月2日

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