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ホーム > 慶應発サイエンス > 無症候性のSARS-CoV-2ワクチン接種者と非接種者における心筋18(18F)fluorodeoxyglucose(FDG)集積の比較 中原健裕、岩渕雄、冨田快、志賀哲、陣崎雅弘(放射線診断科)

無症候性のSARS-CoV-2ワクチン接種者と非接種者における心筋18(18F)fluorodeoxyglucose(FDG)集積の比較
中原健裕、岩渕雄、冨田快、志賀哲、陣崎雅弘(放射線診断科)

研究の背景

SARS-CoV-2ワクチンの副反応として、心筋炎が起こることがまれにあります。心筋炎では、心筋逸脱酵素の上昇や心電図の異常が生じ、画像評価としてはMRIが重要視されています。また近年では、18F-fluorodeoxyglucose(FDG)PET-CT(注1)も診断に有用な検査として期待されています。心臓のMRI検査では、SARS-CoV-2感染時(COVID-19)、およびSARS-CoV-2ワクチン接種後の心筋炎を検出できる一方で、FDG PET-CT検査はMRIと比べ、同時に全身の評価ができるという利点があります。今回、我々は無症候性のSARS-CoV-2ワクチン接種者と非接種者における心筋の18F-FDGの集積を比較しました。

研究の概要

<方法>
慶應義塾大学病院で2020年11月から2022年3月の間にFDG PET-CT検査を受けた9,478症例から、絶食時間が12時間以上、投与前血糖値が100mg/dl以下の症例を抽出し、心筋のFDG集積が上昇する病態・治療歴・COVID-19の既往を有する症例は除外しました。また、期間中2回FDG PET-CT検査を受けた症例は、2回目の検査結果を主要解析に用い、1回目の検査結果は副次的解析に用いました。結果、700名のSARS-CoV-2ワクチン接種者と303名の非接種者を対象に後ろ向きの検討を行いました。

<結果>
(1)非接種者に比べ、接種者では心筋のFDG集積(注2)は、有意に上昇していました(図1)。腫瘍による影響も考慮し担がん症例や、生理的な集積で認めるような心筋のびまん性集積の症例を除いても、接種者では有意に高い心筋のFDG集積を示しました。ワクチン接種により肝臓および脾臓の集積も上昇しておりましたが、これらで除しても(すなわち、心臓の取り込み/肝臓もしくは脾臓の取り込み)、接種者では有意に高い心筋のFDG集積を示しました。

(2)心筋のFDG集積は、性別・年代(~40歳、41歳~60歳、61歳~)によらず、ワクチン接種者において、非接種者と比べて有意に上昇していました。

(3)ワクチン接種後からの日数により層別化(非接種、1回目接種、2回目接種後:1~30日、31~60日、61~120日、121~180日、181日以上)したところ、腋窩のFDG集積は2回目接種後120日まで、心筋のFDG集積は2回目接種後180日まで有意に高い値を示しました(図2)。

(4)ワクチンの種類で比較しましたが、BNT162b2 mRNA(Pfizer-BioNTech)、mRNA-1273(Moderna)のいずれの投与を受けた群でも、非接種者に比して、心筋のFDG集積上昇を認めましたが、ワクチンの種類による差は認めませんでした。

(5)対象期間中、25症例が2回のFDG PET-CT検査を受けておりましたが、このうち16症例がワクチン接種前後に、FDG PET-CT検査を受けていました。ワクチン接種前後で比較すると、ワクチン接種前に比較して接種後では心筋のFDG集積は上昇していました。

図1.典型例

図1.典型例
SARS-CoV-2ワクチン接種者は、心臓・腋窩(赤矢印)ともにFDG集積を認める。一方で、SARS-CoV-2ワクチン未接種者は、心臓・腋窩の明らかなFDG集積は認めない。

図2.ワクチン接種後からの日数による層別化

図2.ワクチン接種後からの日数による層別化
(左)腋窩のFDG集積は、2回目接種後120日まで有意に高い値を示した。
(右)心筋のFDG集積は、2回目接種後180日まで有意に高い値を示した。
(ただし、ワクチン接種日が不明な症例は本解析から除いた。)

研究成果と意義・今後の展開

本研究の成果として、SARS-CoV-2ワクチン接種により心筋のFDG集積が上昇することを示しました。

この研究の限界としては、(1)単施設の後ろ向き研究であり、一般的に応用できるか不明であること、(2)心筋の炎症評価には、低炭水化物摂取も推奨されていますが、12時間以上の絶食のみしか行われていなかったこと(心筋の生理的集積を起こし、結果に影響を与えた可能性があります。しかし、同一条件下で2群間に統計学的有意差を認めました)、(3)心筋のFDG集積は、心筋の炎症評価に特化しておらず、様々な因子に影響を受けることが挙げられます。

今回の結果を検証するためには、心筋炎の診断根拠となる、心筋逸脱酵素測定や、心臓の機能評価などを含めた前向き研究が必要と考えます。

【用語解説】

(注1)18F-fluorodeoxyglucose(FDG) PET-CT検査
18F-fluorodeoxyglucose(FDG)とは、ブドウ糖に似せたpositron emission tomography: PET製剤である。高率にブドウ糖を摂取する、がん細胞や炎症を起こしている細胞では、FDGの集積は上昇する。FDGにつけられた18Fから放出される微量の放射線をPETカメラで検出することにより、がんや炎症の位置・程度を把握できる。その集積をcomputed tomography:CT画像と合わせることで、取り込まれた正確な位置を知ることができる。

(注2)FDG集積
集積の評価には主に SUVmax(standardized uptake value)を用いた。PET-CT検査で、病変への放射性薬剤(FDG)の集積程度:組織のFDG濃度を、体重あたりのFDG投与量で除したものがSUVであり、そのうち計測部位で最も大きな値がSUVmaxである。本稿ではこの値を集積と表現した。

参考文献

Assessment of Myocardial 18F-FDG Uptake at PET/CT in Asymptomatic SARS-CoV-2-vaccinated and Nonvaccinated Patients.
Nakahara T, Iwabuchi Y, Miyazawa R, Tonda K, Shiga T, Strauss HW, Antoniades C, Narula J, Jinzaki M.
Radiology. 2023 Sep;308(3):e230743. doi: 10.1148/radiol.230743.

最終更新日:2024年5月1日
記事作成日:2024年5月1日

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