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ホーム > 慶應発サイエンス > 精神科診療におけるオンライン診療は対面診療と同等の治療効果であることを国内19機関が参加した非劣性試験で証明 木下翔太郎、岸本泰士郎(ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座)

精神科診療におけるオンライン診療は対面診療と同等の治療効果であることを国内19機関が参加した非劣性試験で証明
木下翔太郎、岸本泰士郎(ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座)

研究の背景

精神科領域の外来診療は、患者さんと医師との会話が診療の大部分を占め、ビデオ通話を利用して行う遠隔医療(日本では「オンライン診療」と呼称されている)が馴染みやすい診療領域といえます。諸外国では比較的古くから利用されていましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを契機にその利用は急速に広がりました。日本でもパンデミックに伴い規制緩和が行われたものの、診療報酬上の制限が強かったこともあり、オンライン診療は本稿執筆時点(2024年2月)まで精神科領域でほとんど利用されていません。

そのような中、日本でオンライン診療の規制緩和を進め、普及促進を行っていくためには、国内の医療環境でのエビデンスが求められていました。そこで本J-PROTECT試験では、通常の保険診療の枠組みで、オンライン診療と対面診療との治療効果や、治療継続率、患者さんの満足度などを比較することを目的に非劣性試験(注1)を実施しました。

研究の内容と結果

試験では、うつ病、不安症、強迫症の外来患者さんを対象に、オンライン診療を用いるグループと用いないグループに分け、24週間の外来治療を行いました(図1)。研究当時のガイドラインに基づき、オンライン診療を用いるグループは対面診療も一部併用しました(ただし全診療の50%以上をオンライン診療とする)。有効性の評価には、SF-36MCS(注2)という精神的側面のQOLサマリースコアを用いました。

試験は日本の11都道府県にわたる19の医療機関で行われ、199名の患者さんが参加しました。オンライン診療併用群における平均オンライン使用割合は77.0%でした。試験の結果、主要評価項目のSF-36MCSについてオンライン診療併用群は48.50±9.57、対面診療群は46.68±10.58であり、SF-36MCSの群間の平均値の差の両側95%信頼区間は下限値-1.12、上限値4.77でした。両側95%信頼区間の下限値が非劣性マージン(-5.0)を上回ったため、対面診療群に対するオンライン診療併用群の非劣性が検証できました。また、治療継続率、満足度など、多くの副次評価項目(注3)についても両群に有意差は認められませんでした。一方、オンライン診療併用群では、対面診療と比較して通院時間が短く、通院費用も安価だったことが確認されました(文献1)。

図1.本研究の概要

図1.本研究の概要

また、J-PROTECT試験では上述の治療効果等の検証に加えて、治療を担当した精神科医師のアンケート調査も実施しました。アンケートから、オンライン診療でも患者さんは対面診療同様にコミュニケーションができていると医師は感じていること、オンライン診療によって医師が患者さんのニーズに対応しやすくなると医師が感じていること、一方でオンライン診療普及に向けての制度上の課題として診療報酬が一番の課題であること、などが分かりました(文献2)。

今後の展望

本研究は国民皆保険により安価で医療を受けられるという特有の制度をもつ日本において、初めて大規模で実施された実臨床に即したオンライン診療の無作為化比較試験です。日本では、安価な医療費の裏返しとして、医療従事者が諸外国と比較しても多くの患者さんを診療する必要があるため多忙となっていますが、そのような環境下でもオンライン診療が対面診療と同等の有効性をもつことが確認されたことの意義は大きいといえます。

また、精神科領域におけるオンライン診療は、離島・僻地への医療提供、専門医偏在の解決、症状により通院困難な患者さんやスティグマ(差別意識)を恐れ精神科の通院自体を忌避する患者さんなどへの医療アクセス改善など、様々な課題解決につながることが期待されます。しかし、本稿執筆時の法規制においては、精神科領域のオンライン診療は他診療科よりも様々な面で厳しく制限されており、患者さんのニーズに十分に応えられていないなど、改善が望まれている状況にあります。

本研究は、国内初のオンライン診療と対面診療を比較した大規模試験として、そのような状況に一石を投じ、さらなる普及に向けた政策的議論の活性化にもつながりました。実際に、政府の規制改革推進会議健康・医療・介護ワーキング・グループ(2023年12月18日)や中央社会保険医療協議会総会の会議資料(2023年12月22日)にも掲載され、令和6年度診療報酬改定の議論に活かされました。

【用語解説】

(注1)非劣性試験
試されている治療や薬が対照とされる治療や薬に比べて非劣性マージン以上に劣ることはないことを示す試験。

(注2)SF-36MCS:MOS Short-Form 36-Item Health Mental Component Summary
SF-36は、健康関連QOL(HRQOL: Health Related Quality of Life)を測定するための科学的で信頼性・妥当性をもつ自己報告式の尺度で、MCSはそのうちの下位尺度から算出される精神的側面のQOLサマリースコア。

(注3)副次評価項目
主要評価項目以外で明らかにしたい項目のこと。

参考文献

  1. Live Two-way Video Versus Face-to-Face Treatment for Depression, Anxiety, and Obsessive-Compulsive Disorder: A 24-Week Randomized Controlled Trial. Kishimoto T, Kinoshita S, Kitazawa M, Hishimoto A, Asami T, Suda A, Bun S, Kikuchi T, Sado M, Takamiya A, Mimura M, Sato Y, Takemura R, Nagashima K, Nakamae T, Abe Y, Kanazawa T, Kawabata Y, Tomita H, Abe K, Hongo S, Kimura H, Sato A, Kida H, Sakuma K, Funayama M, Sugiyama N,Hino K, Amagai T, Takamiya M, Kodama H, Goto K, Fujiwara S, Kaiya H, Nagao K, on behalf of the J-PROTECT collaborators.
    Psychiatry Clin Neurosci. 2023 Dec 15. doi: 10.1111/pcn.13618.
  2. Psychiatrists’ perspectives on advantages, disadvantages and challenging for promotion related to telemedicine: Japan’s clinical experience during COVID-19 pandemic. Kinoshita S, Kitazawa M, Abe Y, Suda A, Nakamae T, Kanazawa T, Tomita H, Hishimoto A, Kishimoto T.
    J. technol. behav. sci. 2023 Dec 4. doi: 10.1007/s41347-023-00368-5.
左より:木下翔太郎(ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座特任助教)、岸本泰士郎(同講座特任教授)

左より:木下翔太郎(ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座特任助教)、岸本泰士郎(同講座特任教授)

最終更新日:2024年4月1日
記事作成日:2024年4月1日

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