関節リウマチにおける生物学的製剤開始時のメトトレキサート減量試験
玉井博也、金子祐子(リウマチ・膠原病内科)
関節リウマチとは
関節リウマチは、本来外敵から自身の体を守る免疫の異常によって全身の関節に炎症を起こし、関節の腫れや痛みだけでなく、関節の変形を来して機能障害をもたらす疾患です。国・地域によって頻度は異なりますが、人口のおよそ0.5~1%の方が病気にかかっているといわれており、日本には60~100万人の患者さんがいると考えられています。病気が進行すると、関節と関節の隙間が狭くなったり、骨の一部が欠けてしまったり(図1A)、骨と骨がくっついて動かなくなってしまう(図1B)こともあります。
図1.関節リウマチのX線所見
関節リウマチの治療
関節リウマチの治療薬には、痛みを和らげるための薬と免疫異常に働きかける抗リウマチ薬があります。関節リウマチの関節破壊は発症2年以内に急速に進行することが分かっており、現在は「寛解」と呼ばれる病気が落ち着いた状態を治療目標に設定し、早期から抗リウマチ薬によって治療をすることが世界中で推奨されています。関節の腫れや押した時の痛み、炎症反応など病気の勢いが落ち着いた状態である「臨床的寛解」、X線検査上で関節破壊が進行していないことを意味する「構造的寛解」、日常生活における身体機能の維持を意味する「機能的寛解」の3つをいずれも満たすことを目標としています。
抗リウマチ薬には、大きく分けて従来型合成抗リウマチ薬と、2000年代前半から使用可能となったTNFαなどの炎症分子を標的とした生物学的製剤(注1)、数年前から使用可能となったJAK阻害薬(注2)があります。関節リウマチと診断された場合、通常は特別な合併症がなければ、メトトレキサート(注3)という従来型合成抗リウマチ薬で治療を開始し、6か月の時点で治療効果の判定を行い、効果が不十分な場合には生物学的製剤やJAK阻害薬を追加することが世界中で推奨されています。
このような明確な目標を設定した治療と、新たな薬剤の登場により、多くの方で病気の勢いをコントロールし、関節変形の進行を抑えることができるようになりました。
関節リウマチ治療のキードラッグ:メトトレキサート
関節リウマチと診断された際、まず開始する薬剤として世界中で推奨されているのがメトトレキサートで、有効性・副作用・費用のバランスが優れた薬剤です。また、治療開始後6か月の時点で効果が不十分で生物学的製剤を追加する場合にも、メトトレキサートを中止するのではなく、継続する方がその後の治療効果が高まることが知られており、それまで使用していたメトトレキサートを同じ用量で継続することが一般的に行われています。
このように、メトトレキサートは関節リウマチの治療において非常に重要な鍵となる治療薬(キードラッグ)である一方、メトトレキサートの用量が多いほど、消化器症状、脱毛、肝障害、血球減少などの副作用が増えることが知られています。生物学的製剤を追加する時に使用するメトトレキサートを減らすことができないか検討されてきたものの、関節リウマチと診断後に標準的な治療を行った際、メトトレキサートをどの程度減量できるのかは明らかではありませんでした。
MIRACLE(ミラクル)試験の概要
慶應義塾大学病院リウマチ・膠原病内科の研究グループは、エーザイ株式会社と共同研究を行い、関節リウマチの患者さんに対してTNF阻害薬(注4)の一種であるアダリムマブを開始する際、同時に使用するメトトレキサートを半減可能であることを世界で初めて示しました。
この研究は国内12施設、韓国6施設、台湾6施設で行われ、300名の早期関節リウマチ患者さんに参加していただきました。試験ではまず、標準的な治療としてメトトレキサートの服用を24週間行い、関節の腫れや炎症反応などで評価した、病気の勢いが落ち着いた状態である「臨床的寛解」を達成しない場合にはアダリムマブの皮下注射治療を追加しました。この際、同時に使用するメトトレキサートを同じ量で継続する方と、6~8mg/週に減量する方に分かれていただき、さらに24週後に「臨床的寛解」を達成する割合を比較しました(図2)。
図2.MIRACLE試験のデザイン
メトトレキサートの平均用量は同じ量で継続した方で13.2mg/週、減量した方では7.6mg/週とほぼ半分に減らされていました。治療目標を達成した割合は、メトトレキサートを同じ量で継続した方で38%、減量した方で44%とメトトレキサートを減量しても効果は劣らず、X線検査上で関節破壊が進行していないことを意味する「構造的寛解」、日常生活における身体機能の維持を意味する「機能的寛解」を達成した方の割合にも差はありませんでした。一方で、消化器症状、肝障害、血球減少、感染症などの有害事象は、メトトレキサートを同じ量で継続した方ではアダリムマブ追加後35%、減量した方では20%に起こり、減量した方で少ないという結果でした(図3)。
図3.MIRACLE試験の主な結果
今後の展望
本臨床試験では、早期の関節リウマチ患者さんに対してガイドラインに従って、まずメトトレキサート単剤で治療を開始し、効果が不十分であった場合にTNF阻害薬を追加しました。その際、同時に使用するメトトレキサートを半減しても有効性は劣らず、有害事象が少ないことを世界で初めて示しました。
本研究結果に基づき診療が行われるようになれば、TNF阻害薬をメトトレキサートに追加した際の有害事象を減らすだけでなく、メトトレキサート使用に伴う薬剤費を減らし、また、関節リウマチの「寛解」が一定期間維持された後のメトトレキサート減量が早まることが期待されます。今後、より長い期間治療を続けた際の有効性や安全性の評価を行うとともに、メトトレキサート減量が適した患者さんを明らかにすることで、患者さんに合わせた、安全性の高い治療方法を提供できると考えています。
【用語解説】
(注1)生物学的製剤
バイオテクノロジー(遺伝子組換え技術や細胞培養技術)を用いて製造された薬剤で、特定の分子を標的としている。高分子蛋白質であり、内服すると消化されてしまうため、点滴あるいは皮下注射で投与される。バイオ製剤とも呼ばれる。
(注2)JAK(ジャック)阻害薬
炎症性サイトカインによる刺激が細胞内に伝達される際に必要なJAK(Janus kinase:ヤヌスキナーゼ)という酵素を阻害する内服薬。
(注3)メトトレキサート
世界中で最も広く使用されている関節リウマチの治療薬。炎症に関与する細胞の増殖を抑える薬剤。口内炎、嘔気、脱毛、肝障害、血球減少などの副作用が知られている。
(注4)TNF(ティーエヌエフ)阻害薬
生物学的製剤の一種。関節リウマチの炎症に関与するTNF-αの作用を抑える薬剤。
参考文献
Reduced versus maximum tolerated methotrexate dose concomitant with adalimumab in patients with rheumatoid arthritis (MIRACLE): a randomised, open-label, non-inferiority trial.
Tamai H, Ikeda K, Miyamoto T, Taguchi H, Kuo CF, Shin K, Hirata S, Okano Y, Sato S, Yasuoka H, Kuwana M, Ishii T, Kameda H, Kojima T, Taninaga T, Mori M, Miyagishi H, Sato Y, Tsai WC, Takeuchi T, Kaneko Y, and MIRACLE study collaborators.
The Lancet Rheumatology. 2023 Apr;5(4):e215-e224. doi:10.1016/s2665-9913(23)00070-x.
左より:金子祐子(内科学教室(リウマチ・膠原病)教授)、玉井博也(同教室特任助教)
最終更新日:2023年10月2日
記事作成日:2023年10月2日
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