音声ブラウザ専用。こちらよりメニューへ移動可能です。クリックしてください。

音声ブラウザ専用。こちらよりメインコンテンツへ移動可能です。クリックしてください。

KOMPAS 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
お探しの病名、検査法、手技などを入れて右のボタンを押してください。
慶應義塾
HOME
病気を知る
慶應発サイエンス
あたらしい医療
KOMPASについて

ホーム > 慶應発サイエンス > アミノ酸の左右のバランスを決める仕組みを解明 権田裕亮、笹部潤平(薬理学教室)

アミノ酸の左右のバランスを決める仕組みを解明
権田裕亮、笹部潤平(薬理学教室)

研究の背景

アミノ酸には左右がある

われわれの身体は一見、左右対称ですが、心臓が左、肝臓は右にあるように、左右のどちらか一方の構造が選ばれています。分子レベルでも同様に左右の選択が行われており、アミノ酸もその一例です。アミノ酸には構成する化学構造の配置により、左手と右手のような鏡像関係にある構造があり、そのうちわれわれは左手型(L-アミノ酸)を優先して利用しています(図1)。遺伝情報からタンパク質が作られるときの材料としては、生命は共通して左手型のL-アミノ酸しか使わないため、L-アミノ酸の選択的な利用は「生命の証」でもあるとも考えられてきました。

図1.アミノ酸には鏡に写したような左右の構造がある

図1.アミノ酸には鏡に写したような左右の構造がある

体はどこまで左手型のアミノ酸なのか

われわれの体で作られるアミノ酸の多くは左手型ですが、一方で右手型のD-アミノ酸も存在することが近年徐々に明らかになってきました。セリンなど一部のアミノ酸は左手型から右手型のD-アミノ酸へ変換されることが知られています。また、われわれの体内に多く存在する細菌は、様々なアミノ酸を左手型(L)から右手型(D)に変換する酵素をもっています。このようにして作られるD-アミノ酸は、脳で記憶や感情の形成に働いたり、細菌との共生に関係する免疫調節に関わったり、L-アミノ酸とは異なる機能を有することが分かってきました。しかし、全身でどのように左右のアミノ酸のバランスが調節されているのかよく理解されていませんでした。

研究結果

そこで、本研究グループでは、D-およびL-型を分離してアミノ酸を網羅的に分析しました(図2)。病原性のない常在菌が存在する(SPF)環境で育てたマウスでは、血液中のD-アミノ酸はL-アミノ酸の数%未満でしたが、尿中・糞便中では10~50%と高い割合を認めました。一方、無菌(GF)環境では、血液・尿・糞便中のいずれにおいても、D-セリン以外のD-アミノ酸はほとんど検出されなくなりました。このことから、マウスの体内に存在するD-アミノ酸は、セリンを除いてほとんどは共生細菌に由来することが分かりました。

図2.アミノ酸を左右に分離して定量

図2.アミノ酸を左右に分離して定量

また、遺伝的にD-アミノ酸が分解できないマウスを使って、同じ実験を行いました。するとSPF環境では、血液中のアラニン、プロリン、ロイシンなどのアミノ酸では、全体の5~30%にまでD-アミノ酸の割合が上昇し、尿中ではL-アミノ酸の1~10倍にまでD-アミノ酸の排泄が増加しました。このようなD-アミノ酸分解異常マウスにおける体液中D-アミノ酸の顕著な増加は、GF環境では検出されませんでした。すなわち、体内に存在する細菌由来のD-アミノ酸のほとんどは酵素的に分解されており、このことが体内のL-アミノ酸優位性を維持していることが分かりました(図3)。

さらに、このD-アミノ酸の分解酵素は、細菌の共生を認めない胎児期には働きませんでした。一方で、出生後に細菌が共生し始めると、体内では発達とともに細菌量と比例したD-アミノ酸の増加を認め、腎臓ではD-アミノ酸分解酵素の発現が増加することが分かりました(図3)。このような細菌の共生に伴う血液・尿・便中のD-アミノ酸の存在は、マウスのみならず健常人ボランティアでも同様に認められました。実際、ヒトの便中のD-アミノ酸の割合は、共生細菌の存在量と比例することが判明し、D-アミノ酸の合成は共生細菌の存在そのものを裏付けていると考えられます。

図3.アミノ酸の左右のバランスの乱れと維持機構

図3.アミノ酸の左右のバランスの乱れと維持機構

研究の成果と意義・今後の展開

長らくの間、われわれの体には左手型のL-アミノ酸しか存在しないと理解されてきました。一方、近年になって多様なD-アミノ酸の存在や、その生理機能・病気における意義が報告されるようになりましたが、全身や局所の調節機構は未解明の部分が多くあります。本研究成果によって、細菌との共生が引き金となって様々なD-アミノ酸が体内に共存することが判明し、最終的には腎臓でD-アミノ酸の選択的な分解および尿への排泄が行われることで、体内の左右のアミノ酸バランスを保っていることが分かりました。このようなアミノ酸の左右性の調節機構の理解は、細菌との共生関係の異常に関連する疾患群(免疫・アレルギー性疾患や代謝性疾患、神経疾患など)のメカニズムの理解や新たな治療標的の開発に役立つことが期待されます。

特記事項

本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「D-アミノ酸を介した細菌叢-宿主相互作用による粘膜免疫構築機構と免疫疾患における病態生理学的意義の解明」、JSPS科研費(21H02982、22K19408)、慶應義塾大学福澤基金研究補助、慶應義塾大学次世代研究プロジェクト推進プログラムの支援によって行われました。
また、アミノ酸分析はKAGAMI株式会社の技術支援のもと行いました。

参考文献

Mammals sustain amino acid homochirality against chiral conversion by symbiotic microbes.
Gonda Y, Matsuda A, Adachi K, Ishii C, Suzuki M, Osaki A, Mita M, Nishizaki N, Ohtomo Y, Shimizu T, Yasui M, Hamase K, Sasabe J.
Proc Natl Acad Sci USA.
2023 Apr 11;120(15):e2300817120. doi:10.1073/pnas.2300817120 .Epub 2023 Apr 4.

左より:笹部潤平(薬理学教室専任講師)、権田裕亮(順天堂大学医学部付属順天堂医院助手、研究当時 同教室共同研究員)

左より:笹部潤平(薬理学教室専任講師)、権田裕亮(順天堂大学医学部付属順天堂医院助手、研究当時 同教室共同研究員)

最終更新日:2023年9月1日
記事作成日:2023年9月1日

▲ページトップへ

慶應発サイエンス

慶應義塾HOME | 慶應義塾大学病院