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社交不安症のある自閉スペクトラム症者への人型ロボット介入は社交不安の軽減や発話への自信につながることが示唆された 吉田篤史(精神・神経科)

自閉スペクトラム症・社交不安症と人型ロボット

自閉スペクトラム症(以下、ASD)は、対人関係が苦手で、こだわりが強いなどの特徴をもつ疾患です。生まれつきうまくコミュニケーションをとることができず、次第に他人と会話する際に強く緊張するようになり、社交不安症(以下、SAD)を併発することがあります。他人との接触を回避するようになると、社会生活が大きく制限されてしまうことも少なくありません。

これまでの研究で、ASDの方はデジタルデバイスとの関わり方に長けていることが多く、人型ロボットとの会話をより積極的に行うことが明らかにされています。
そこで、人型ロボットをアバターとして使用することで、他人との会話に対する本人の動機を高め、緊張を軽減することができるのではないかと考え、研究を行いました。

人型ロボットでの介入

20代女性のASD者であるAさんが研究に協力してくださいました。幼少期のAさんは、他人に近づいたり、目を合わせたりせず、母親があまり知らない人と交流させようとすると泣くこともありました。ほかの子供たちと遊んだり、交流を始めたりすることもありませんでした。幼稚園では、先生やクラスメートと交流することもなく一人で座り、ほかの子供と遊んだり、友達をつくることに興味を示したりすることもありませんでした。6歳の時には教師やクラスメートに対して言葉を発することができませんでした。WISC-Ⅳの知覚推理と処理速度(WISCという児童用知能検査の4つの指標得点のうち、言葉を発しなくても回答可能な2つの指標得点のみの結果を平均した値)の平均は85でした(100が平均で、85はやや平均より低い程度)。ASD、SADと診断されました。認知行動療法を含む様々な治療にもかかわらず、Aさんは長年、自宅以外の場所で誰とも話すことができないでいました。

しかし、彼女はデジタルデバイスの利用に長けていたため、人型ロボットとの親和性が高いと考え、視線移動や瞬きができ多彩な表情を示せる遠隔操作ロボット「CommU(コミュー)」を使用しました(図1)。

図1.「CommU(コミュー)」(ヴイストン株式会社)

図1.「CommU(コミュー)」(ヴイストン株式会社)

最初の設定では、研究実施者がコンピュータに言葉を入力し、それをCommUが読み上げていました。セラピストは、誰も見ていないところでAさんがCommUと1:1で話せる環境を用意しましたが、誰かに見られているのではないかという不安から、Aさんは結局話すことができませんでした。しかし、AさんはCommUに強い関心を示していました。今度は研究実施者ではなく、Aさんにアバターとしてロボットを操作してもらい、CommUを通じて研究実施者とコミュニケーションをとることを促しました(図2)。

図2.実施している様子のイメージ図

図2.実施している様子のイメージ図

AさんはCommUを通じて、すぐに日常生活や将来の計画について楽しく話すようになりました。また、Aさんはロボットを操作することで、内気な性格から積極的な性格に変化し、それは母親への発言からも確認されました。また、CommUの操作中はコンピュータの操作に集中し、会話の相手と視線を合わせないようにしていました。Aさんには、2週間に1回、1回約30分の介入セッションに20回参加してもらいました。筆談の場合、返答に約3分かかり、単語レベルでしか書けませんでしたが、CommUを使用すると約5秒で素早く返答でき、文章も洗練されており、リズムよく会話を楽しむことができるようになりました。また、CommUを通した自分の発言に対する相手の反応が思ったほど悪くなかったため、他人に対する不安が軽減され、話すことに自信が持てるようになりました。

Aさんは、学校でも教室の真ん中に座って過ごすようになり、CommUを使って自分の体験を持ち出すようになりました。最終セッションでは、母親への発言やセラピストの観察から、コミュニケーションの問題を克服できると確信し、16年ぶりに自分の口で先生やクラスメートに挨拶するようになりました。

まとめ

今回の人型ロボットを活用した治療は以下の点で有望と考えられました。

  1. ASDの方はロボットに対して親和性があります。
  2. 人型ロボットを通して会話の相手とアイコンタクトをしっかりとりつつ、自身は直接相手と視線を合わせずに済むため、コミュニケーションをとりやすくなったと考えられます。
  3. すぐにコミュニケーションの経験を積むことができるため、自分の発言に対する相手の反応が、想像しているほどネガティブなものではないことをすぐに体験でき、社会不安の軽減や発話への自信につながった可能性があります。
  4. プロテウス効果(変身効果とも呼ばれ、VR空間やロボット操作などで操作対象のアバターの外見などに個人の行動特性や外向性などが影響を受ける傾向のこと)により、実験中に性格が変化し、社交的になった可能性があります。

これらの理由から、不安が減り、コミュニケーションへの動機付けが向上する可能性が示唆されました。将来的には、より多くの方に実施し、様々な情報(生体情報、質問紙など)を長期にわたって定期的に収集し、より厳密に効果検証をしていく必要があります。

参考文献

Intervention with a humanoid robot avatar for individuals with social anxiety disorders comorbid with autism spectrum disorders.
Yoshida A, Kumazaki H, Muramatsu T, Yoshikawa Y, Ishiguro H, Mimura M.
Asian J Psychiatr. 2022 Dec;78:103315. doi: 10.1016/j.ajp.2022.103315.

最終更新日:2023年7月3日
記事作成日:2023年7月3日

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