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ホーム > 慶應発サイエンス > 治療抵抗性統合失調症の興奮抑制バランスの異常とニューロモデュレーションを用いた新規治療法の開発 和田真孝(精神・神経科)

治療抵抗性統合失調症の興奮抑制バランスの異常とニューロモデュレーションを用いた新規治療法の開発
和田真孝(精神・神経科)

統合失調症とは

統合失調症は幻覚や妄想、意欲減退や感情の平板化、そして認知機能障害を有する慢性疾患(有病率は1%)です。統合失調症の病態基盤は脳内の神経伝達の統合に関わる線条体におけるドパミンの過剰放出だと考えられており、これはドパミン仮説として知られています。そのため治療の中心は半世紀前に発見された、ドパミン受容体を阻害する作用を持つ抗精神病薬が用いられていました。

しかしながら、約3割の患者さんに対して既存の抗精神病薬は無効であり、その病態は従来のドパミン仮説だけでは説明できません。そこで私たちはドパミン仮説に代わる新たな仮説として、脳内の興奮・抑制の不均衡を基にしたグルタミン酸仮説の解明とそれに基づく新規治療の開発に着手しました(文献1)。

グルタミン酸仮説

グルタミン酸仮説は、健常人にグルタミン酸受容体を阻害する薬を投与することで統合失調症様の症状が現れることから注目を受けるようになりました。その後、動物モデルを用いた基礎研究から、前頭前野、海馬、腹側被蓋野をはじめとした皮質下での興奮性グルタミン酸神経系の異常と、抑制性GABA神経系の障害が線条体における機能異常をきたすことが明らかになりました(図1)。

図1.統合失調症の病態の概要

図1.統合失調症の病態の概要

グルタミン酸仮説の優れている点は、ドパミン仮説と比較して統合失調症の多様な症状を説明しうること、統合失調症においてドパミンに依存しない病態が存在することを示唆していることです。この仮説は、上述の抗精神病薬が無効な治療抵抗性統合失調症への新たな治療ターゲットにもつながる仮説となります。私たちは非侵襲的に脳内のグルタミン酸及びGABA機能の評価を可能にする、核磁気共鳴スペクトロスコピーを用いることで、上記の基礎研究での発見が人でも再現されることを発見しました(文献2, 3)。

ニューロモデュレーションによる新規治療の開発

上述のように統合失調症の病態の中核には皮質・皮質下における興奮・抑制バランスの不均衡があると考えられています。脳部位によってグルタミン酸やGABAといった神経伝達物質の異常の出現の仕方は異なるため、内服治療のように脳の全体に寄与する治療法では治療抵抗性の患者さんへの治療は困難になります。そこで、脳の局所に対して興奮・抑制バランスを調整することのできる治療法が注目されるようになりました。その治療法がニューロモデュレーションです。

現在知られているニューロモデュレーションには、経頭蓋磁気刺激(TMS)、経頭蓋直流電流刺激(tDCS)、そして深部脳刺激(DBS)などがあります。TMSは磁気刺激を用いることで非侵襲的に脳の局所を刺激できる手段です。またその刺激周波数を調節することで、刺激部位に対して促通性および抑制性のどちらの影響を与えることもできます。TMSは脳表を刺激することはできますが、脳深部への介入は困難であることが知られていました。しかし近年では、対象とした脳深部との結合性の強い脳表の部位を機能的MRIで明らかにすることで、脳表を介して脳深部に対して遠隔的な介入を行うこともできるようになりました。またコイル形状に基づく電場解析を行うことで、脳深部への刺激を可能にするTMSの開発も注目されています。私たちは統合失調症の病態に強く関与するとされる帯状回前部への直接刺激を可能にするTMSの開発に着手しており、統合失調症の新規治療の開発に取り組んでいます。

またDBSは脳の深部に電極を挿入することで神経活動に直接的な影響を与えることを可能とした技術です。TMSと異なり脳深部の局所の刺激を可能とする一方で、侵襲性の高さが欠点となる治療です。日本ではまだ統合失調症に対するDBSによる治療は行われていません。しかし国外の症例報告では、DBS電極の刺激に合わせて症状が出現・消失することも示されるようになり、治療抵抗性統合失調症に対する新たな治療法になりうる可能性が注目されています。

統合失調症治療の将来

上述のように統合失調症に対する治療として、ニューロモデュレーションを用いた治療の開発が世界的に行われています。そしてこれらの治療を実臨床の場に還元するための最も大きなハードルは、疾患の異質性の高さにあります。異質性とは、同じ疾患であっても、患者さん一人一人の脳内の病態が必ずしも一致しないことを指します。これは統合失調症において興奮・抑制バランスの不均衡があるとしても、その部位や方向性に個人差があることに由来します。これはニューロモデュレーションを用いた治療を行うにあたって”どの脳部位を対象に”、”どのような刺激”をするかという最も重要な因子に直結します。しかしながら統合失調症の病態は多岐にわたっており、一つの検査技術のみでこれらすべてを明らかにすることは困難です。そのため、複数の検査を組み合わせることで、患者さんごとに病態の中核となる部位を明らかにし、それに合わせたprecision medicine(個別化治療)を行うことこそが、今後の統合失調症の治療に求められると考えられます(図2)。

図2.患者さんごとの病態を対象にした統合失調症に対する個別化治療

図2.患者さんごとの病態を対象にした統合失調症に対する個別化治療

参考文献

  1. Dopaminergic dysfunction and excitatory/inhibitory imbalance in treatment-resistant schizophrenia and novel neuromodulatory treatment.
    Wada M, Noda Y, Iwata Y, Tsugawa S, Yoshida K, Tani H, Hirano Y, Koike S, Sasabayashi D, Katayama H, Plitman E, Ohi K, Ueno F, Caravaggio F, Koizumi T, Gerretsen P, Suzuki T, Uchida H, Müller DJ, Mimura M, Remington G, Grace AA, Graff-Guerrero A, Nakajima S.
    Mol Psychiatry. 2022 Jul;27(7):2950-2967. doi: 10.1038/s41380-022-01572-0.

  2. Glutamatergic and GABAergic metabolite levels in schizophrenia-spectrum disorders: a meta-analysis of 1H-magnetic resonance spectroscopy studies.
    Nakahara T, Tsugawa S, Noda Y, Ueno F, Honda S, Kinjo M, Segawa H, Hondo N, Mori Y, Watanabe H, Nakahara K, Yoshida K, Wada M, Tarumi R, Iwata Y, Plitman E, Moriguchi S, de la Fuente-Sandoval C, Uchida H, Mimura M, Graff-Guerrero A, Nakajima S.
    Mol Psychiatry. 2022 Jan;27(1):744-757. doi: 10.1038/s41380-021-01297-6.

  3. Levels of glutamatergic neurometabolites in patients with severe treatment-resistant schizophrenia: a proton magnetic resonance spectroscopy study.
    Tarumi R, Tsugawa S, Noda Y, Plitman E, Honda S, Matsushita K, Chavez S, Sawada K, Wada M, Matsui M, Fujii S, Miyazaki T, Chakravarty MM, Uchida H, Remington G, Graff-Guerrero A, Mimura M, Nakajima S.
    Neuropsychopharmacology. 2020 Mar;45(4):632-640. doi: 10.1038/s41386-019-0589-z.

最終更新日:2022年10月3日
記事作成日:2022年10月3日

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