潰瘍性大腸炎治療薬の青黛が肺高血圧症を起こすメカニズムを解明
平出貴裕、片岡雅晴、福田恵一(循環器内科)、寺谷俊昭、金井隆典(消化器内科)
背景
生薬である青黛(せいたい)は、潰瘍性大腸炎の患者さんにおいて腸の炎症を抑制する作用が報告されています。青黛は生薬であることから自己購入が可能で、医師の指導外で青黛を過剰に摂取した患者さんにおいて、肺動脈性肺高血圧症を副作用として合併した症例が報告されました。肺動脈性肺高血圧症は肺の血管が何らかの理由で内腔が狭くなり、肺の血管圧が上がることで酸素の取り込みが障害され、息切れや動悸、全身のむくみなどを認める病気です。20~40歳代の女性に起こりやすいですが、発症原因が分からないため国の難病に指定されており、根本的な治療薬がない病気です。本論文では、青黛の過剰摂取が肺動脈性肺高血圧症を起こすメカニズムを解明することを目的としました。
研究方法と結果
慶應義塾大学病院消化器内科は潰瘍性大腸炎、循環器内科は肺動脈性肺高血圧症の基礎および臨床研究に精力的に取り組んでおり、両内科の研究チームが連携して研究を行いました。この研究により、青黛を摂取したラットにおいて肺動脈性肺高血圧症の特徴である右室肥大と肺血管の形態異常を確認しました。さらに、ラット肺の遺伝子発現を調べると、芳香族炭化水素受容体(AhR)シグナルが活性化していました。AhRシグナルの異常な活性化は、血管内皮細胞を過剰に増殖させます。このことが、青黛による肺動脈性肺高血圧症の発症に極めて重要であると考えられました。一方で、AhRの働きを抑える薬を投与すると、肺動脈性肺高血圧症が軽症になることも確認しました。これにより、肺内でのAhRシグナル増強が肺動脈性肺高血圧症の発症に関連していることを解明できました。
図1. AhRシグナルと潰瘍性大腸炎、肺動脈性肺高血圧症の関係
青黛を摂取するとAhRシグナルが活性化する。適切な活性化は腸管での抗炎症作用に繋がるが、過剰摂取により肺でAhRシグナルが活性化すると、肺動脈性肺高血圧症を引き起こす。AhRシグナルのバランスが重要である。
この研究による成果
本研究では、臨床の現場で発見された事実に基づき、肺動脈性肺高血圧症の発症原因の一部を解明することができました。青黛の過剰摂取はAhRシグナルを介して肺血管細胞の異常増殖を引き起こし、肺血管の内腔が狭くなることで肺動脈性肺高血圧症につながることが分かりました。この研究から、AhRシグナルに着目した肺動脈性肺高血圧症の新規治療薬開発に繋げていきたいと考えています。
また今後は引き続き肺動脈性肺高血圧症を引き起こす原因の解明に努め、根本的な治療法の確立を目指して参りたいと思います。
参考文献
Pulmonary Arterial Hypertension Caused by AhR Signal Activation Protecting Against Colitis.
Hiraide T, Teratani T, Uemura S, Yoshimatsu Y, Naganuma M, Shinya Y, Momoi M, Kobayashi E, Hakamata Y, Fukuda K, Kanai T, Kataoka M.
Am J Respir Crit Care Med. 2020 Oct 14. doi: 10.1164/rccm.202009-3385LE.
左より:筆頭著者の平出貴裕(循環器内科助教)、共同筆頭著者の寺谷俊昭(消化器内科専任講師)、責任著者の片岡雅晴(循環器内科非常勤講師、産業医科大学医学部第2内科学教授)
最終更新日:2021年2月1日
記事作成日:2021年2月1日
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