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不安症患者さんに対してマインドフルネスの効果が示されました 二宮朗(精神・神経科)

マインドフルネスについて

マインドフルネス(mindfulness)という言葉をご存知でしょうか?
グーグルやインテルといった世界的な企業においても活用されていることを耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。マインドフルネスに対する認知および関心は、医療領域以外でも急激に高まってきており、前述のような欧米の有名企業がマインドフルネスを研修等に積極的に取り入れていることは一般的にも知られるようになっています。

しかし、このマインドフルネスという言葉は知っていても、それがどのような意味や内容を含む言葉なのかを説明できる人は少ないのではないでしょうか。また、マインドフルネスの実践では、瞑想やヨガを用いたトレーニングを行いますが、なぜこのようなトレーニングが医療分野で用いられ、効果をもたらしているのかご存じない方も多いのではないかと思います。

医療の領域にマインドフルネスの技法を最初に導入したマサチューセッツ大学のジョン・カバットジン(Jon Kabat‐Zinn)は、マインドフルネスについて「意図的に、今この瞬間に、価値判断をすることなく注意を向けること」と定義しています(文献1)。また、マインドフルネスを身につける意味について「私たちは外部の世界や自分の内部の世界での体験に対して、無意識のうちに自動的に反応して、莫大なエネルギーを浪費している。マインドフルネスにより注意・集中力を高めることで、その浪費しているエネルギーを集めて利用する方法を学ぶことができる。」と説明しています(文献2)。

もう少し具体的な例を挙げながら、その概念を説明してみます。私たちはしばしば落ち込んだり、不安になったりすることがありますが、そのとき、私たちの心は「今」にありません。例えば、不安になった時には、意識が将来のことに飛び、「うまくいかなかったらどうしよう。」、「それがうまくいかなかったら、もう全部おしまいだ。」といった考えが生じます。考えとともに不安も悪化し、ますます現実から乖離したネガティブなストーリーを頭の中で描くことになります。

 図1. 無意識のうちに起こっている心のさまよい

図1. 無意識のうちに起こっている心のさまよい


ここで少し考えていただきたいのですが、このような想いにとらわれるのは意識的な心の動きでしょうか。そんなことはありません。誰も好き好んでネガティブなことを考えたいとは思っていないはずです。でも無意識のうちに考え始めて、たとえそれに気がついてもそこから離れることが難しくなってしまう。これが、我々の心が元々持っている性質なのです。このことは研究結果でも示されています。

ハーバード大学のキリングスワース(Killingsworth)らは、2,250 人の研究参加者に対して、スマートフォンを使った調査を行い、ランダムなタイミングで通知を送ることで、その瞬間に何を考えているかのサンプリングを集めました。その結果、参加者の思考の47%は目の前のこと以外に向いていることが分かりました(文献3)。つまり日常の中で約半分の時間、私たちの心は、マインドワンダリング(Mind-wandering)(目の前の課題から注意が逸れて、関係のない思考をする現象)にとらわれていることを示しているのです。普段の心の状態ですら、これだけさまよいやすいのですから、落ち込みや不安にとらわれている時には、ましてうつ病や不安症を抱えている場合には、もっと多くの時間を気になっている事柄に心がとらわれていると言えるでしょう。

瞑想やヨガのトレーニングで目指していることは、今に注意を向け続けることです。今、この瞬間の自分の呼吸や身体の感覚に注意を向けることで、自分の状態にも気付けるようになります。そのことで心のとらわれている世界に引きずられ、無意識のうちに悪循環を起こすような行動をとるのではなく、現状をしっかりと捉えた上で、主体的に行動選択を行うことができるようになっていくのです。

不安症患者さんへのマインドフルネスの効果

この研究では、パニック障害・広場恐怖または社交不安の診断を満たした患者さんを対象者としました。対象の患者さんは定期的な診療を受けている方で、この研究実施中も通常の診療は受けていただいています。週1回2時間、全8回のマインドフルネス教室を実施する群(20名)と実施しない群(20名)に対象者を無作為に割り付け、教室を実施する前と後で、不安の強さを測る心理検査を行いました。結果としては、図2のように実施群が実施しない群に比べて、不安の強さが有意に軽減していました。

 図2. 今回の研究で示されたマインドフルネスの効果

図2. 今回の研究で示されたマインドフルネスの効果


我々の知る限り、マインドフルネス関連の無作為割り付け研究としては日本で初めての英語論文となります。この研究の問題点としては、開始後8週間の時点の結果のため、長期的に効果が持続するかどうかが分からないことです。我々はこのことを次の研究の課題として、マインドフルネスの効果の維持を焦点に当てた新たな研究を実施しています。

日本で初めてと述べたように、諸外国では様々な疾患に対する効果や効率性が検証されつつある一方で、日本においては、検証は未だ十分には実施されておらず、日本人においても同様の効果が確認されるのか明らかになっているわけではありません。マインドフルネスを適切な形で普及させていくためには、科学的な裏付けが欠かせません。我が国においても今後、科学的に質の高い研究によって検証が進むことが望まれます。

参考文献

Effectiveness of mindfulness-based cognitive therapy in patients with anxiety disorders in secondary-care settings: A randomized controlled trial.
Ninomiya A, Sado M, Park S, Fujisawa D, Kosugi T, Nakagawa A, Shirahase J, Mimura M
Psychiatry and clinical neurosciences. 2020 Feb;74(2):132-139. doi: 10.1111/pcn.12960.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31774604


【本研究に先行する参考文献】

  1. マインドフルネスを始めたいあなたへ / ジョン・カバットジン著; 松丸さとみ訳.
    東京:星和書店、2012.8 (p.4)

  2. マインドフルネスストレス低減法 / J.カバットジン著 ; 春木豊訳
    京都 : 北大路書房、 2007.9 (p.17)

  3. A wandering mind is an unhappy mind.
    Killingsworth, Matthew A., Daniel T. Gilbert.
    Science. 2010 330.6006: 932-932.

左より、二宮朗(精神・神経科特任助教/ストレス研究センター所員)、佐渡充洋(精神・神経科専任講師(学部内)/ストレス研究センター所員)

最終更新日:2020年4月1日
記事作成日:2020年4月1日

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