関節リウマチの病態に関わるT細胞の詳細解析 竹下勝(リウマチ・膠原病内科)
研究の背景
関節リウマチは、本来は外敵から体を守るはずの免疫系が関節内で活性化してしまい、関節の炎症が起こり、腫れや痛みが生じ、長期的には関節の骨や軟骨が壊れてしまう病気です。発症が最も多い年齢は30~50歳代で、女性が男性の4倍ほど多く、日本には60~100万人の患者さんがいると考えられています。
関節には、骨の間のクッションの役割をする軟骨、全体を包む関節包、靭帯、全体の内張りをする滑膜などがあります。本来の滑膜は薄い膜で、潤滑油の働きをする関節液を分泌していますが、関節リウマチではこの滑膜に炎症が起こって厚くなり、周囲の軟骨や骨を破壊してしまいます。関節リウマチの滑膜には、本来滑膜に存在しないはずの免疫系の細胞が侵入しており、免疫系を活性化する物質(サイトカイン等と呼ばれる)も非常に多く産生され、滑膜細胞と免疫系の細胞が相互作用することで炎症が持続しているのではないかと考えられています(図1)。かつては治らない難病とされていましたが、現在では免疫系の細胞であるリンパ球の働きを主に抑えるMTX(リウマトレックス®)や、サイトカインやその受容体を抑える生物学的製剤(レミケード®やアクテムラ®等)によって、ある程度病気の活動性のコントロールが可能になってきました。しかしながら、なぜこのようなことが起こるのか、関節リウマチの患者さんの免疫系にどの様に異常があるのかはいまだ明らかになっていません。
図1. 正常な関節と関節リウマチの関節
研究の概要
本研究では、関節リウマチの病態の中心的な役割を担っていると考えられている免疫系の細胞であるT細胞に着目し、患者さんのT細胞の詳細な解析を行いました。関節滑膜や関節液に存在するT細胞が最も病態を反映していると考えられていますが、それらを採取する機会は手術や関節液を抜く時などに限られています。そのようにして採取した少数の滑液中のT細胞に加えて、多くの患者さんから末梢血を採取し、その中のT細胞を解析しました。
ヒトのT細胞は2種類あり、免疫系の司令塔とされるCD4陽性T細胞と、がん細胞やウイルス感染細胞などの異常な細胞を除去するCD8陽性T細胞に大きく分けられます。それぞれのT細胞は、異物と接触する前の未熟な状態から、外敵を認識し、増殖して数を増やし、特有の機能を発揮する、という分化の段階があり、CD4陽性T細胞では未熟な方から順にTn-Tscm-Tcm-Temの4段階に分けられ、CD8陽性T細胞は最後に-Temraを加えた5段階に分けられます。さらにCD4陽性T細胞は機能別にいくつかのグループに分けられます(Th1, Th17, Tfhなどと呼ばれている)。私たち研究グループは、まずこれらの細胞を関節リウマチと健常者の間で比較し、関節リウマチ患者さんで増えている細胞の種類、および病気の活動性と細胞の比率が関連している細胞群を特定しました(図2)。
図2. T細胞の分化と機能
さらに私たちは各細胞が発現している遺伝子(mRNA)を解析しました。ヒトの体内では全ての細胞は同じゲノム遺伝子(設計図)を持っていますが、その中で、それぞれの細胞の機能に必要な一部分を読み取り(発現する、という)、タンパク質を作るのに用いています。この一部読み取った部分がmRNAで、これを調べることでその細胞がどのようなタンパク質を作ってどんな機能を発揮しようとしているのかが分かります。この解析には2つの方法を用いました。1つは同じ患者さんの治療前後で末梢血を頂き、その中にあるT細胞の変化を見る方法(図3上)で、もう1つは、健常者の末梢血、治療前の患者さんの末梢血、治療して良い状態が維持できている患者さんの末梢血、関節液穿刺を受ける患者さんの関節液をいただき、その中にあるT細胞を比較する方法です(図3下)。その結果、2つの方法である程度共通した結果が得られ、関節液中のT細胞は最も活性化・分化して様々なサイトカイン等の免疫関連分子を発現していること、末梢血でも治療前の関節リウマチの患者さんではそれらの分子群の一部が高くなっていること、それらの多くは治療後に改善することを明らかにすることができました。
図3. T細胞の発現遺伝子の比較
今後の展開
私たちが見つけたT細胞サブセットや遺伝子群は関節リウマチの病態の形成に重要な役割を果たしていると考えられます。実際にT細胞やサイトカインなどを抑えるいくつかの遺伝子は既に治療標的として治療薬が開発され、臨床でも使われていることからも、本研究で出てきた遺伝子リストの確からしさが確認できます。今後はこれらの標的に対する新たな治療薬の開発が期待されます。
参考文献
Multi-dimensional analysis identified rheumatoid arthritis-driving pathway in human T cell.
Takeshita M, Suzuki K, Kondo Y, Morita R, Okuzono Y, Koga K, Kassai Y, Gamo K, Takiguchi M, Kurisu R, Mototani H, Ebisuno Y, Yoshimura A, Takeuchi T.
Ann Rheum Dis. 2019 Jun 5. pii: annrheumdis-2018-214885. doi: 10.1136/annrheumdis-2018-214885.
左より:竹下勝(リウマチ・膠原病内科特任助教)、鈴木勝也(同専任講師)
最終更新日:2019年9月2日
記事作成日:2019年9月2日
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